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NYPDにナンパされた話

ある週末の夕方、私は必死になって抹茶プリンをソーホーで売っていた。
Japan  Fesというストリートフードフェスに出店しているシェフのお手伝いをしていたのだ。

ちなみに、このシェフは、私の女友達が紹介してくれたのだが、シェフが手伝ってくれる人を探す際、その女友達に、
「可愛くて英語できる子知らない?」
という聞き方をしたことにより、その女友達は間接的にシェフにとって「可愛くもなく、英語もできない人」と言われたことになり、ひどく気分を害していた。

にもかかわらず、私を「可愛くて英語ができる子」としてシェフに紹介してくれたのだから、彼女の優しさに免じて、ここはプリンを売りまくるしかない。

私は、朝9時からソーホーで「Green Tea Pudding!」と叫び続け7時間が過ぎた。

ここでシェフも私も気づいたことがある。

  1. この仕事に英語力は全くもって必要ない

  2. わざわざ店舗前で人が立ち止まってくれるほどは、私は可愛くない

  3. このまま行くと出店して以来初の赤字である

まずい、このままでは次は私が「可愛くて英語ができる子知らない?」と聞かれる側になる。ここは、最終手段を取るしかない。

私は、家族連れの50代以上のお父さんに的を絞って声をかけ続けた。
アメリカだと私が20代に見えることを利用し、お父さんに自分の娘が頑張っているような錯覚に陥らせることで同情心を掻き立て、プリンを買わせるのだ。

この戦略はうまくいき始めた。インド系、ラテン系、アジア系、白人のお父さんまで、プリンを次々買ってくれる。中には、自分の分だけでなく家族の分まで買ってくれる素敵なお父さんまで現れた。娘世代が頑張っているのを応援せずにはいられないのは人種を超えた父親感情である。

波に乗ってきた時、ポリス集団が見張りで前を通りかかる。
すると、そのうちの1人が私の前で立ち止まり、何を売っているかなどの取り調べを始めた。

「甘すぎず、優しい味わいのプリン。ドーナッツやチーズケーキよりヘルシーだ」と適当に説明するとその場で1つ買ってくれ、そして私に名刺を渡してくれた。

名刺には、NYPDの刻印が入っている、かっこいい。
「何か、困ったことがあったらいつでもここに連絡してくれ。」
と言ってくれた。
私は、
「そんな日が来ないことを祈ってます。」と言い、
彼は任務に戻って行った。

一部始終を見ていたシェフは、ニヤニヤしながら、
「NYPDにナンパされるなんてすごいな〜。」
と言ってくる。

私は、ナンパだとは思わず、何も気にしなかったのだが、名刺の裏を見ると
「Personal contact: ×××-×××-×××」
と電話番号が手書きで書いてあった。

ポイントは、彼が私を見た後に連絡先を名刺にメモする素振りが一切なかったことだ。

つまり、今日もポリスの彼はニューヨークのどこかで、事前に自分の連絡先をメモした名刺を持ち歩き、道行く女性に「困ったことがあったら….」と連絡先を渡しているのだろう。

その日、私はなんとか売上をトントンまで持っていき、お駄賃としてプリンと一緒に売られていた可愛いイヤリングをもらい、任務は終了。

そういえば、そろそろ父の日だからプレゼント考えなきゃな〜、
と楽天市場のサイトを開きながら帰路に着いたのであった。

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