見出し画像

徒歩3年(冒頭400字コマーシャル版)

 砂丘の上に登ると、地平線の彼方にファミマが見えた。目じりに食い込むゴーグルを持ち上げ、眼前の景色をにらむ。ファミマを除いて一面が砂の海だ。日差しはそう過酷でないが、砂の照り返しで目が痛んだ。
 坂を上ったのと、それから仕事が捗らない苛立ちでさっきから心拍数が上がりっぱなしだ。「クソッ」毒づきながらスーツの内ポケットをまさぐり、会社支給のスマホを取り出す。地図アプリで現在位置を確認すると、GPSが郵便局の前にいる己の姿を指し示した。
「ええい、使えない」私はスマホを足元の砂に叩きつけた。郵便局の前を通ったのは実に昨日のことだ。
 地図の上では郵便局とファミマは隣合せだ。が、実際にファミマに辿り着くのには半日を要した。ここでは何もかもが遠い。たまに馴染みのある場所を見つけても、ほんの1時間も歩けばすぐ砂に埋もれて見失ってしまう。歩く間は遭難者が行き倒れていないか、ずっと目を皿の様にして探していた。

【続く】

※カクヨムのコンテスト参加作品(全文4000文字)の冒頭400字です。カクヨムの方にリアクションをもらえるとまわりまわって僕の懐に金が入って来る可能性がありますが、気にせず読んでもらえるだけでも全然オッケです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?