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工業製品への文字入れ技法(1)

この記事の目的

身の回りにある工業製品には使い方や機能の説明、輸出入に必要な記載、ブランドロゴなどが入れられていますが、それらの文字の入れ方を気にしたことはあるでしょうか。

この記事では「文字の入れ方」という視点から工業製品の作り方を紹介することで、身の回りの製品を理解する手がかりをお届けします。

この世に存在するすべての文字入れ技法を網羅出来ているわけではありませんが、この記事をきっかけにして製品の見方が変わると嬉しいです。

 なぜ「印刷」ではなく「文字入れ」と書いたか

製品表面にある文字やロゴは必ずしも印刷機で入れるとは限りません。この記事では工業的な製造技術の延長線上にある技法も含むので、あえて「文字入れ」としています。

文字入れ技術をひとまとめに説明するなら、文字を入れたい面と文字の間に何かしらの差を与える事と言えます。大雑把に言うと色、質感、高さのどれか、もしくは複数の要素に差を与える技術であれば、この記事で紹介していない技術でも可能です。

この記事で紹介する文字入れ技法

厳密には分類しにくいのですが、今回の記事では下記のように分類してみます。加工方法を言葉だけで説明するのは中々至難の業ですので、Youtubeに投稿されている実際に文字入れをしている際の動画も一緒にご紹介します。

光を用いる技法
・エッチング
・レーザー刻印
・UV印刷

インクを用いる技法
・シルクスクリーン印刷
・パッド印刷(タンポン印刷)
・ステンシル
・マスキングと塗装の組み合わせ

金属を削る技法とその応用
・機械彫刻
・工業彫刻(金型への彫刻)
・打刻
・プレス加工
・二色成形

熱を用いる技法
・焼印
・昇華印刷
・ホットスタンプ

さて、記事を書き終えたところ5000字を超えてしまいましたので、
(1)光を用いる技法、インクを用いる技法
(2)金属を用いる技法、熱を用いる技法

の二つの記事に分けてご紹介します。

なおこの記事では紙やシール、フィルムなどの平面物に印刷技術や、刺繍のような布製品への文字入れ技術等については紹介しません。


エッチング

概要:
感光材を用いて印刷したい文字以外の部分をマスキングし、文字部分を腐食剤を用いて凹ませる技法です。
文字を入れたい部品の表面に感光材を塗り、その上に印刷したい内容が印刷されたフィルムを載せ、光を当てて感光材を硬化させたのちに未硬化の感光材を流し、露出している金属部分に腐食剤を付けて金属表面をへこませます。

文字部分の特徴:
文字部分が凹んでいるので熱、摩耗などに強い。
金属表面に微細な文字も入れられる。
部品表面が凹むだけなのでエッチング単体での色に自由度は無い。
エッチング箇所にインクやメッキを入れることで色付けすることも出来る。

レーザー刻印

概要:
通常は拡散する光を人工的に直進する光のみにし、高いエネルギー密度を持つのがレーザー光です。レーザー刻印はレーザー光を用いて素材表面を焼く、蒸発させる、プラズマを発生させて変質させるなどして文字を入れる技法です。
加工機が対応していれば、曲面への刻印も可能です。
印刷版を必要とせずデータと治具さえあれば刻印出来るので製品のシリアルナンバー刻印やノベルティの名前入れにも用いられます。

文字部分の特徴:
製品と文字の素材が同一なので文字が消えにくい。
レーザー光の直径(スポット径)が非常に小さいため、非常に緻密で精度の高い文字を入れることが出来る。
レーザー刻印単体では色の自由度が低い。基本的には素材が焦げた色になる。
※素材によっては酸化被膜の干渉現象で色を付けることも出来る。
被膜を剥離する形でレーザー刻印した場合、素材によっては文字部分が錆びて汚くなることがある。

応用例:
カラーアルマイト品に刻印すると、文字がはっきりと見える。
アルマイト品にレーザー刻印した場合、文字部分はアルミの地金が露出するためもう一度アルマイトを施すことで文字部を別の色にすることも出来る。
下地とフィニッシュで異なる色を塗布した部品にレーザー刻印すると色のついた文字を入れることも出来る。(例:黒地に赤文字など)
乳白色のプラスチック部品に不透明な塗装をしてレーザー刻印で文字を抜き、裏からLEDで光を当てることで光るボタンを作ることも出来る。

UV印刷

概要:
紫外線硬化性のインクをインクジェット出力して紫外線を当てて硬化させる技法です。一点から出力できるのでFab施設に導入される事例もあります。立体への印刷も出来るため、例えばスマホケースの背面への印刷、ボールへの印刷が出来ます。

文字部分の特徴:
紙だけでなくプラやガラス、金属などにも印刷出来る。
ゴルフボールやスマホケースのような立体物にも印刷出来る。
色に自由度がある。白や透明といったインクも扱える。
インクジェット印刷なので文字だけでなく模様や写真も印刷できる。

シルクスクリーン印刷

概要:
印刷内容のみインクを通すシルクスクリーンと呼ばれる道具を使って印刷する技法です。シルクスクリーン版自体には感光材が塗布されており、印刷したい内容にネガポジが反転したフィルムを載せて感光、未硬化の感光材を流すことで出来上がります。

文字部分の特徴:
平面だけでなく円柱や多少の円錐面にも印刷が出来る。
色の自由度が高く、クリアや蛍光、蓄光といった特殊インクも使える。
多色刷りも工程は増えるが可能。
無塗装の金属やアルマイト面などに印刷するとはがれやすい。
有機溶剤で拭くと文字が融けてしまう。
プラ部品や塗装面への印刷であっても擦れる箇所であれば剥がれる。
文字サイズはスクリーンのメッシュ目に依存するので、極端に小さな文字は印刷出来ない。
印刷面に突起があると印刷出来ない。

応用例:
透明な板、フィルムなどの裏面に印刷することで表現の幅を増やす、摩耗を回避するといったことも出来る。


パッド印刷(タンポン印刷)

概要:
スチールや樹脂製の版にインクを入れ、シリコン製パッドを用いて版から印刷面へ転写する技法です。スチール版と樹脂版はエッチングを用いて製版し、版へのインク入れはスキージと呼ばれるヘラでこそぐようにして行われます。

文字部分の特徴:
シルクスクリーン印刷の特徴に加えて、印刷面の近くに突起がある場合でもシリコン製パッドの形状を変えることである程度回避できる。
皿のような複雑な三次曲面にも印刷出来る。
エッチングで版を作るので、腕時計の文字盤のような緻密に印刷したい箇所にも用いることが出来る。
無塗装の金属やアルマイト面などに印刷するとはがれやすい。
揮発時に人体に有害な有機溶剤を用いるため、作業者の安全管理が必要。

応用例:
透明な板、フィルムなどの裏面に印刷することで表現の幅を増やす、摩耗を回避するといったことも出来る。

ステンシル

概要:
文字の形状にくり抜かれた板を載せ、スプレーやエアブラシ、筆等で着色することで文字入れをする技法です。ステンシル用の板は文字形状にくり抜くことが出来てインクを通さない素材であればなんでも使用できます。

文字部分の特徴:
インクを用いて文字入れするので色に自由度がある。
ステンシル板を用いる特性上、曲面への文字入れは苦手。
文字形状を切り抜いた板を使う特性上、文字内部に浮いた箇所は作れない。
あまり細かい文字は作れない。
マスキングしないとステンシル板の外側にインクが付着することもある。


マスキングと塗装の組み合わせ


概要:
ステンシルに似た、シートやテープを用いた技法になります。マスキング用のシートをカッティングマシンやレーザー加工機などで制作し、文字入れする面に張り付け、マスキングされていない箇所にスプレーやエアブラシ等で塗装を施すことで文字やロゴ、柄などを施します。
マスキング工程に手間がかかるので、安価な製品にはあまり採用されず、自動車や自転車のような高価な製品に使われています。

文字部分の特徴:
マスキング用のシートさえ貼れるなら曲面への文字入れも可能。
インクを用いるので色に自由度がある。



(2)に続きます。

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