黒の捜査線12~15


12 過去と始まり⑧


「おいおい冗談だろ!」
「早くここから出してくれ!」
「何なんだよあのマスクした奴らは⁉」
「どうなっているんですか⁉」

 保たれていた理性という名の糸が切れた。
 取り残された市民の人達は皆パニックになってしまっている。無理もねぇ。たった今理由も無く死の淵に立たされてしまったのだから。

 動揺、不安、焦り、困惑、緊張、憤り……。
 様々な感情が一気に溢れ出したこの場を鎮めるにはどうすればいい――。

「こうなったら無理矢理でも扉壊して逃げるぞ!」

 やべぇ。それは絶対にダメだ! 奴らは常に俺達を見ている。

「待って下さい! 奴らソサエティは常にここを監視しています。下手な事をすれば直ぐに爆破される可能性もあります!」
「ふざけんじゃねぇ! だったらどうするんだよ⁉ 爆発するまで大人しくしてろってかッ!」
「警察がどうにかしてくれていますよね⁉」
「窓から外に逃げればいいじゃないですか」
「そうですね、きっと警察の人達が待機してくれていますから生存を知らせましょう」
「窓の近くに非常用の何かあっただろ、梯子か滑るやつ! 全員それで脱出するぞ」
「私でも降りられるかのぉ」
「大丈夫!お婆さんも降りられるよ。安心して下さい」
「急ごう。時間がない!」

 皆は一斉に窓際へと走って行く。

 ――パァンッ!!

 無意識のうちに、俺は天井目掛けて銃を発砲していた。

 こんなやり方は確かに間違ってる。だが時間もねぇし手段を選んでる場合じゃない。

「焦る気持ちは良く分かります。だからこそ今は俺の言う通り何もせず落ち着いて下さい。皆さんは必ず我々警察が助け出します。もう2発目は撃たせないで下さい」
  
 急な発砲で場が一気に静まり返った。
 こんな状況で更に脅すような真似をして本当に申し訳ないと思っている。
 
 俺は皆にそう言い、急いで爆弾の部屋に戻りながら一真に話しかけた。

「一真! 大丈夫か!」
「今のところはな……。そっちは大変みたいだな。この状況じゃパニックになるのも無理ないけど」
「そんな事よりどうなってんだ⁉ 本当にどっちか切らねぇと解除出来ないのかよ!」
「俺に怒鳴られてもな」
「本部長! 山本さん! 一真の方の爆弾解除出来るんですよね⁉」

 俺のこの問いかけの答えは、誰の声でもない、絶妙に嫌な“間”だった――。

「おいッ! 何とか言えよッ!」
「落ち着くんだ黒野刑事。 今必死で解除方法を考えている所だ!」
「……万が一に備え、大至急外で待機している者達も避難させるんだ!急げ!」

 電話の向こう側から本部長のそんな指示が聞こえてきた。

 クソがッ……!
 
 現場は勿論、外で待機している警察達も本部にいる警察達も皆、想定外の状況に困惑しているのが手に取る様に分かってしまった。誰1人として顔を確認していないのに、全員がまるで苦虫を嚙み潰した様な表情をしているのが当たり前に目に浮かんでくる。

「一真!!」
「そんな大声出すなよ。みっともないぞ」
「冗談言ってる場合じゃねぇだろ……!」

 爆弾の部屋に着き、再度画面を確認すると、赤い数字のカウントダウンが既に1分を切っていた。

「千歳、教えてくれよ。……お前の“直感”ならどっちだ?」

 何言ってるんだこんな時に。

「昔からよく当たるだろ?お前の勘」
「何言ってんだよ! どっち切っても爆発するんだぞ! 言えるかそんなもん!」
「って事は既に“答え”は出てるのか」

 残り40秒――。

 一真の言葉に心臓の音が高鳴った。
 少し前に感じた嫌な予感。
 あれは、この事態に巻き込まれる事の前兆だったんだと思っていたが、どうやら“違った”。

 いつもなら直ぐ消えるのに、こんな時に限ってまだモヤモヤ残ってやがる。
 この非現実的な状況にいるからなのか、はたまた嫌な予感が続いてるからなのか、どっちかは良く分からない。
 だけど、こんなクソみたいな状況でクソ程の役にも立たない俺の直感が、“後者”だと訴えている――。

 残り30秒――。

「時間がない。碧木さん! 直ぐに隣の部屋へ避難して下さい! ここより幾分か助かる可能性が高い! 急いで!」
「ダメです! こんな事言いたくありませんが、もうどの道生きるか死ぬかです。刑事さんとはいえ、私より若いあなた1人に全てを背負わせたくありません!」
「頑固な人だなぁ。まぁいいけどもう。……千歳、時間がない! 俺の最後の頼みだ。 お前の直感を教えてくれ! 頼む。黒と白……どっちだ?」

 残り15秒――。

 ふざけんじゃねぇ……ちくしょうッ……!

 残り10秒――。


「――黒だ」

「《分かった》……」

 
 残り5秒――。


「ありがとな千歳。お前と出会えて楽しかった。絶対アイツら捕まえてくれよ――」

「……⁉ かずッ『――ドォォォォォンッッ!!!』

 






 

「――状況を確認しろ! 現場はどうなっている!」「取り残された人達の家族から連絡が入っています!」
「現場を映していた画面が消えました!恐らく携帯が壊れた様です!」
「直ちに現場へ向かわせろ!」「急げッ! 奴らの居場所は特定出来たか⁉」
「建物が崩れた模様! 瓦礫と一緒に数人が落ちてきたとの事!」「近くに犯人グループがいる可能性もある!怪しい奴を見かけたら取り押さえるんだ!」「マスコミや記者の電話は切れ!そんなもの後回しだ」
「待機していた医療班も直ぐに向かう様に!」「人命を第一優先に動け!」
「被害状況は⁉」「白石刑事と連絡は付いたか?」「至急、至急!」
「爆破の影響で火災も発生しています!」「人質達の安否はどうだ⁉」「 消防も現場に駆けつけています!」

 静まり返る現場。
 手から落ちた携帯から、ただただ騒がしそうな声が聞こえてきた――。


13 動き出した捜査線④


 ♢♦♢

 現在。

~猪鹿町・シティホテル~

<――本部より、出動中の皆に告ぐ。たった今、ソサエティと名乗るテログループにより猫町マークタワーが爆破された! 不幸中の幸いと言うべきか、マークタワーは本日休館であった為、被害は最小限に留まった。建物が爆破された影響で周辺にいた市民数名が怪我を負ったが、命に別条はなし! 特殊捜査課の迅速な行動により、多くの人命を守る事が出来た>

「ギリ間に合ったか」

 暴走運転ギリギリ……いや、多分アウトだが、お陰で最速時間でシティホテルに着いた。
 ソサエティの奴らは今回も本気らしい。6年前と同じ様にマジで爆破しやがった。怪我人が出たから良いとは言えないが、それでもかなり最小限に抑えられただろう。

「さて、問題は更にここからだ……」

 嫌でも脳裏に浮かぶ奴らの顔。次こそはそのふざけたマスク奪い取って面拝んでやるからな。
 俺は次の行動に移す前に深呼吸した。

 焦るな。
 この日の為に散々調べて何度も頭でシミュレーションしただろ。絶対同じ事繰り返すな。

 6年前は何も知らずにビルに突っ込んだ。早く市民を助けないといけないと思って。それが間違っていた。
 計画的犯行を繰り返しているソサエティ。奴らから本部に動画が送られて来た時点で、こっちはかなり出遅れているんだ。前と同様、まだ主導権は奴らが握っている。

 犯行予告をしてきたという事は、何時からかは分からないが、奴らは既に“下準備”を終えている段階。建物に爆弾も仕掛け、いつでもハッキングが出来る状態だ。ひょっとしたら、もうそこら辺の監視カメラでこちらを見ている可能性も考えられる。

「――“もう動いてる”よな? シン」
「当り前だ」

 俺は今電話を掛けた。
 相手は『黄瀬 真一郎きせ しんいちろう』、俺の警察学校の同期だ。勿論一真とも。どうでもいいが、真一郎と呼ぶのは長いので、コイツは昔から“シン”と俺達は呼んでいる。

 シンは元々パソコンとか機械関係が強かった。俺らと務める場所は違ったが、“ここ”に配属されたならば、緊急時には真っ先に連絡が入るよな。6年前の事件をきっかけにシンはサイバーテロ課へ異動し、あらゆるハッキングやサイバー犯罪の対策を担当しているらしい。それも全ては今日の為。そう言っても過言ではない。

「今の所建物はハッキングされていないが、恐らく奴らはもう俺達警察の動きを見ている。誰かが建物に入った時点でまた閉じ込める気だろうな」
「やっぱ同じ手口か。シン、予定通り俺がホテルに入る。他の刑事達は入れない様伝えてくれ」
「分かった。こっちは既に俺を含め“警視庁”全体が動いている。それに水越さんとも連絡取ったからな、何か手掛かりを掴んだら直ぐに連絡する。お前も気を付けろよ千歳」
「了解。それと、獅子ヶ町のセントラルタワーに碧木が向かった。絶対中に入るなと伝えてあるけど、どうも嫌な予感がするんだ」
「碧木……お前が話していた例の子か。一真と一緒にいたという被害者女性の」
「ああ。母親と一緒で肝が据わっているというか頑固というか。苦労するんだよ」
「お前程じゃないと思うけどな。まぁなんにせよ、お前の勘が働いているなら注意しておこう」
「頼んだ。こっちはもう避難始めるからよ」

 電話を切り、俺はシティホテルの中へと入って行った。

 外もさることながら、ホテルの中にも人が大勢いた。今いる1階のロビーだけでもそこそこ。シティホテルなんて誰でも知ってる全国にあるビジネスホテルだからな。スーツを着たサラリーマンや子連れの家族に年配の人達まで。一瞬でも爆破のイメージが過るとゾッとする。

 あの時と同じ。見ているこの日常の光景が当たり前過ぎて、自分に起こっていることが現実なのか分からなくなる。

 さあ、ソサエティ。
 今日こそ決着をつけようか――。
 
 俺はシティホテルにいる人々を避難させた。

♢♦♢

~獅子ヶ町・セントラルタワー~

「――皆さん! 慌てなくても大丈夫です! 落ち着いて私達の誘導に従って下さい!」
「碧木刑事。今、他の者達も向かって来ていますので、引き続き避難を続ける様にと本部から連絡が入りました。くれぐれもパニックが起きない様にと」
「分かりました」

 ――プルルルルッ……プルルルルッ……。
「はい碧木です」
「そっちはどうだ?」

 シティホテルの避難が始まり、続々と警察が集まって来ていた。俺は避難誘導しながら、セントラルタワーの状況を確かめるべく碧木に電話を掛けた。

「今丁度避難し始めた所です」
「そうか。中に入るなよ。他の警官達もなるべく中に入れない様にな」
「分かってます。黒野さんも絶対に無茶はしないで下さい」
「ああ」
「ここに爆弾が仕掛けられているなんて、未だに信じられません」
「俺も同じだよ。心のどっかで嘘だという事を願ってる。それでも、現実はしっかり受け止めなきゃいけない」
「そうですね……。また何か変化があり次第直ぐにッ……「――すいません!お巡りさん!」

 電話越しに誰かの声が聞こえてきた。

「子供とッ、子供とはぐれてしまったんです! 直ぐに探して下さい!」 

 どうやら避難中に子供がはぐれて迷子になってしまったらしい。

「大丈夫ですよお母さん。お子さんとは何処ではぐれたか分かりますか?」
「8階の飲食店があるフロアです!」
「分かりました。少し待ってください。直ぐ無線で中にいる者に確認を取ります」
「お願いしますッ!」

 急に避難させられて、焦るなって言う方が無理だ。ましてや子供とはぐれるなんて余計困惑する。
 まだ繋がっていた携帯。俺は念を押して碧木に言った。

「大丈夫か? 確認取るだけにして絶対中には入るなよ」
「はい。大丈夫です。一旦切りますね。また直ぐに状況報告しますので」
「了解」

 俺はこの時、電話を切らなければとつくづく後悔した――。


14 動き出した捜査線⑤


 避難は順調。
 今の所これといった騒ぎやパニックも無く住んでいる。ここからだ。

 そんな事を考えていると、ポケットの携帯が鳴った。水越さんからだ。

「はい黒野です」
「避難は“順調そうだな”黒野」

 順調そう……って。
 言葉の意味を理解した俺は自然と上を見渡していた。

「違う違う。そっちじゃなくて反対のカメラだ。そうそれ」

 やっぱり。水越さんもうホテルの監視カメラにアクセスしてやがる。
 
「ソサエティは見つかりましたか?」
「いや。まだホテルのセキュリティには入り込んでいない。そのうち来るだろうな」
「逃げ遅れてる人はいないですかね?」
「ああ。問題ない。後はお前がいる階とその上だな。落ち着いて避難しているよ皆」

 良かった。取り敢えず一安心だ。全然気は抜けないけど。それに、奴らの事だから絶対俺達を監視している筈だ。いつ来ても可笑しくない。

「また何かあったら直ぐに連絡お願いします」
「了解。さっき黄瀬君とも連絡取ったからこっちは何時でも準備OK。こそこそ隠れてる連中を引きずり出してやるよ」

 普段はパソコンばっかいじって不気味だけど、こういう時には誰よりも頼りになる。水越さんとシンなら絶対に奴らの居場所を突き止めてくれる筈だ。サーバーだのハッキングだの俺には全く分からん。前に2人の会話を聞いた事あるけど、まるで何を言ってるのか理解出来なかったからな。宇宙人と交信してる様なものだぜ。俺からしたら。

「任せました。俺は引き続き避難させます。それと、建物の中には必要最低限の人数の警官だけと再度伝えといてください」
「大丈夫だ。その辺は藍沢が仕切ってる。報告書と一緒でそういう所細かいからなアイツ。それに、役に立ってるか分からないが、灰谷さんもセントラルタワーに向かってる。お前も十分警戒しろ黒野。絶対出てくるぞあいつら」
「了解です」

 何だかんだで頼りになる先輩達なんだよな。普段はとてもそう思えないから忘れてるけど。しかし、この状況でも毒吐かれる灰谷さん。やっぱりちょっと可哀想。個人的な恨みでもあるのかな水越さん……。これ無事に終わったら聞いてみよ。

 そんなくだらない事を考えられる俺はまだ余裕があるみたい。
 多少の余裕も確かに大事だが、今からはもっと気を気を引き締めろ。6年越しに奴らを捕まえるチャンスなんだ。一瞬たりとも気を抜くな。絶対に奴らを捕まえろ。

 シティホテルの最上階に着いた俺は、そこにいた人達を急いで避難させた。

「皆さん慌てないで! ですがなるべく迅速に避難をお願いします!」

 ここだ。

 ソサエティの奴らが見ているなら、前と同じ犯行ならば、動き出すタイミングはここ。
 今のうちに1人でも多く避ッ……『──ビビッー! ビビッー! ビビッー!ビビッー!……ガチャン!』

 来た――。

「あれ? エレベーター反応しないぞ」
「お巡りさん、何があったんですか?」
「皆さんちょっと待ってて下さい!」

 エレベーターは動かない。
 今登ってきた非常階段も扉の鍵が閉められた。仮にここが開いたとしても下の階が閉まってるだろうな。
 部屋にはそれぞれ窓が付いているが、この高さじゃ自力でなんて到底無理。こういう建物には非常用の脱出スロープみたいなのがあるが恐らく……「おい何だこれ。 何か“画面に映ったぞ ”」

 全く同じパターン。
 でもここはビジネスホテルだ。前はビルに会社が入っていたからパソコンが幾つもあったが、普通のホテルのフロアにハッキング出来るようなパソコンなんて――。

 エレベーターの前で立ち往生している皆の所に戻ると、その視線の先はエレベーターではなく反対側の壁。一畳程のテーブルの上に、植物や花やホテルの案内等が置かれていた。

 そしてその中でも真っ先に目に留まる1台のモニター画面。
 
「出たなソサエティ……」

 まるでデジャヴを見ているかの様。
 ある意味デジャヴよりハッキリしている。ここまでそっくり犯行を繰り返すとはな。
 
 きっとこのパソコンの画面は、普段はフロアマップやらホテルの情報やらが流れているんじゃないだろうか。奴らはこんなパソコン1台まで把握しているって事か。敵ながら天晴れだぜ。

 すると突如、静止していた画面が動き出した。

『市民を守る警察の諸君。早速市民を避難させているみたいだな。心なしか6年前より出だしの対応が早いか? 流石警察諸君、以前の“失態”を学んでいる様だ。偉い偉い。

如何なる状況に置かれても最後の最後まで市民を守り切るのが警察の役目。
久しぶりにゲームを始めようじゃないか。ルールは前回と同様。この映像を見ている警察と選ばれし市民達よ、たった今、爆弾を仕掛けてある猪鹿町シティホテルと獅子ヶ町セントラルタワーを封鎖させてもらった。

ルールは簡単。取り残された警察と市民達、生き延びたくば爆弾を解除する事だ。そうすれば鍵が開き逃げる事が出来るぞ。
そこに取り残された幸運な市民達よ。お前達は今から命を賭けた最高のゲームを体感することが出来る選ばれし人間だ。喜ぶがいい。しかもお前達は何もする必要はない。そこにいる正義の警察に己の命をただただ預けるだけだ。

市民を守るのが警察の務め。その正義の力で市民を守り切ってみせるのだ警察よ。

この事を覚えている者達ならば理解していると思うが、我々ソサエティは建物及びその周辺を監視をしている。
お前達警察が市民を助けようと外から建物に近づこうものならば、その時点で爆弾を起動させる。中にいる者達が外へ逃げようとしても当然結果は同じ。

状況を理解している警察諸君ならば、これが脅しや悪戯でない事は分かっているであろう。

さぁ、ゲームの始まりだ!
先ずは仕掛けた爆弾の位置を教えよう。そして見事爆弾を解除して逃げ切ってみせよ。一体どちらが早く逃げられるかな? 久しぶりに楽しませてくれよ。ゲーム参加者の諸君。健闘を祈ろう。ハァァァハッハッハッハッハッ!!』


15 動き出した捜査線⑥


 不愉快で耳障りなその笑い声も6年前と同じか。
 どうやら模倣犯でもないらしいな。正真正銘あの時と同じ奴だ。

「何だこれ?」
「イベントでもやってるのかホテルで」
「猪鹿町のシティホテルってここですよね?」
「ちょっと待って。私なんか見覚えありますよ今の」
「私も覚えておるわ。確か何年か前の、何とかって言う犯罪グループの事件じゃよ」
「おいおい、それ俺も記憶にあるぞ」

 マズいな。以前は前例が無かったからまだ半信半疑で落ち着いていたが、やはり覚えてる人達がいるか。それに、こんなの携帯で調べれば直ぐに……「あ! コレじゃないですか⁉」

 そう声を出した男性。思った通り、持っていた携帯の画面を見て何かを見つけた様子。困惑した表情を浮かべながら他の人達にも見せ始めた。

 はぁ……何とかパニックにならない様にしないとな。何よりまず爆弾を解除しなくちゃいけない。

「本当だ! 今画面に映っていたのと同じ格好だぞ」
「え⁉ 嘘ですよね⁉」
「まさか……悪戯か何かでしょう」
「悪戯でこんな警察が動いて避難までする訳ないでしょ!」
「じゃあマジなのかよこれ。本当に爆弾が仕掛けられているって⁉ おい、アンタ警察だよな? 何が起きてるんだよ!」
「皆さん落ち着いて下さい。大丈夫です。私は特殊捜査課の黒野と言います。今警察が迅速に動いていますので、安心して下さい。直ぐにここから出られますから」

 半分嘘で半分本当。
 ここまで前回と同じ犯行ならば、恐らくこの先の展開も同じだ。

 それを分かっていながら俺は今、目の前で不安を抱いてる人達に取り返しの付かない嘘を付いてしまっている。勿論、俺が思っているこの先の展開にが起きなければどれ程嬉しいだろうか。そこは何とも言えない。まだ実際に起きた訳じゃないから、そうならない可能性だって十分にある。

 でもきっと起こるよ。

 ホント、こんな時ばっかり“感じてしまう”俺の勘などクソ食らえだ。イライラする。

「本当ですか⁉」
「はい。必ず出られます。いいですか皆さん。今起こっているこれは悪戯ではありません。今あなたが調べた通り、これは6年前に起きた猟奇爆破テログループによる犯行です」
「おいおい! その事件って本当にビルで爆破起こったじゃないか!」
「そ、そんなッ⁉ じゃあここにも爆弾が⁉」
「落ち着いて! 大丈夫です! 今から私がその爆弾を解除しに行ってきます。なので皆さんはくれぐれもここから動かない様に。絶対に爆破は起こさせません。落ち着いてここで待機していて下さい」

 ――プルルルルッ……プルルルルッ……。
「はい黒野です」
「やっぱり出て来たわねソサエティ」

 電話の声は藍沢さんだ。

「黒野。奴らは順調にハッキングしてきやがった。必ず黄瀬君と奴らの居場所突き止めるからな」

 どうやらスピーカーで話しているみたいだな。水越さんも一緒か。

「はい。マジで頼みます。そっちはどうですか?」
「見たでしょ? 警察本部にも今映像が流れてきたわ。ホント胸糞悪い連中ね。獅子ヶ町のセントラルタワーも黒野君と全く同じ様な状況よ」
「やっぱりそうか。藍沢さん、ちなみに碧木とは連絡取りました?」
「……」

 ん? 何だこの間は。電波悪いのか?

「藍沢さん。聞こえてます?」
「え、ええ。聞こえてるわよ。あの……それがね……」

 どうした? 何でこんなに歯切れが悪いんだ。藍沢さんらしくない。

「驚かないで聞いてほしいんだけど、実は……明日香ちゃんがセントラルタワーに入っちゃったのよ」
「……は??」

 やりやがった。マジかよアイツ。

「それ本当ですか? さっき俺が電話した時は外で避難誘導してたけど」
「多分その後ね。私もついさっき知ったんだけど、どうやら“迷子の子供”を探しに中に入ったらそのまま閉じ込められたらしいわ」

 何だそれ。もしかしてさっき電話から聞こえて来た子供とはぐれたって言うお母さんか? あれ程中に入るなって言ったのによ。嫌な予感が早くも当たっちまった。次はどうにか良い方向に働いてくれ俺の勘。

「そうですか。向こうは何人取り残されました?」
「正確な数は私も知らないけど、確か15人ぐらいはいるって聞いたわ」
「そんなに?」
「ええ。一般人が十数名、警官は明日香ちゃんともう1人よ。そっちはどうなの?」
「こっちは警察が俺1人で、残りは全部で5人です。辛うじて前回より人が少ないのが幸いですね」
「あなたがいち早く動いたお陰よ。セントラルタワーも爆破されたマークタワーも、スタートが遅れていたらもっと被害者が増えていたわ。兎に角切り替えてここからね。爆弾は見つかったの?」
「今向かってるのでこのまま繋いでおきます」

 案の定、今しがた確認して閉まってた非常階段の扉が解除されてる。パソコンに表示された地図通りだと、扉を出てすぐ横にあるこの整備室。ダメだと思うが一応このまま下の階まで行って扉が開くか確認しよう。

「……やっぱり開かないか」

 淡い期待を抱いたがやはりダメか。仕方ない。戻るか。

 俺は爆弾が仕掛けられているであろう整備室へと戻った。



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