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短歌同人誌『カイエ』14号詠草 『オーバードーズ』

短歌同人誌『カイエ』14号詠草 『オーバードーズ』
風野瑞人

ドラセナにバラード聴かせている朝のこの世の終わりのような青空

街角のあちらこちらのヤマアラシ ジレンマでさえ眩しく見える

黒鍵を叩きつづける かんたんにどうか彼らの幸のなきよう

眠らない、いや眠れないから私小説ばかりを読んで誰かに化ける

灰色に覆われた窓 鏡さえ写らないものを映すというのに

公園のベンチに座るたび脳で起こるさびしいという現象

アルペジオつまびくような艶めきがいつあったのか 砂漠のからだ

いくつかの六等星の言づてを聞けずに絶ったひとたちがいる

仔羊となんども呼ばれ神経のアポトーシスの下で明日へ

並列のマンション群の片すみで今日も黙って萎れてゆく愛

遠まわりばかりしてきたこの星のぽつんと最終電車を見送る

くりかえし浮かぶ最後の風景を白昼夢へと留めておく

つぎつぎと降ってくるたまご あと少し潰れるまでの夢をください

真っすぐの脆さを鼻から吸い込んだサン・テグジュペリのことばを砕いて

投げやりな夜の波紋が広がってこころを揺らすレム睡眠期

自画像を隅まで見たのはいつの日か反面教師のショーウィンドウ

面倒な男としての積み上げを枕に眠る、眠れなくても

この部屋が世界のすべてと思う日のベンゾチアゼピンのやすらぎ

600錠 わたしを待ってくれるのはたとえばそんな神さまなのか

飲み干せばすぐ棒に振れる人生とギンガムチェックの襟の擦り切れ

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