風野瑞人@カイエcahiers、未来

かつて「詩学」の新人。cahiers同人。未来・黒瀬欄所属。元・東京コピーライターズク…

風野瑞人@カイエcahiers、未来

かつて「詩学」の新人。cahiers同人。未来・黒瀬欄所属。元・東京コピーライターズクラブ会員。広告ではいろいろ受賞。現、介護福祉士・精神保健福祉士。2012・2020年短歌研究新人賞最終選考通過。第46回全国短歌大会大会賞他各短歌賞を受賞。著作権は常識で守ってね。

最近の記事

2024年未来4月号詠草『前略 たくさんのきみ』  風野瑞人

 2024年未来4月号詠草『前略 たくさんのきみ』  風野瑞人 夕暮れの相談室のエアコンのちいさな音よりちいさな訴え いくつもの悲劇が通り過ぎた末どこかへ行った ひとりだけのきみ こんにちは今日はどのきみ またひとつドラマのような辛さに聴き入る ごめんなさい あやまるきみと前の日のひどくなじったきみも同じで 真夏でも長袖だったその訳に触れないように 知られぬように 珈琲のカップを置いて笑うときわずかに見えたちいさな八重歯 たくさんの自分を抱え生きるしかなかったき

    • インスタのアカウントを少しPRします

      このSNSの大きな海原で 私のことを見つけてくださり ありがとうございます こちらのnoteアカウントは 詠草を中心にアップしていますが 一首詠については、「 #NoWar」をテーマに、 もう2年近く?ほぼほぼ毎日 インスタにアップしています (こちらの詠草も最近はインスタにも上げていますが) https://www.instagram.com/kazenomizutoh/?hl=ja もしよければインスタの方も見ていただけると 嬉しいです 戦争も争いごとも苦手です

      • 未来2024年3月号詠草『見えない壁と見える壁と』

        未来2024年3月号詠草『見えない壁と見える壁と』  風野瑞人 壁の穴 壁に穴 いや壁が穴 たった一字で世界が揺れる ゆうらりと鉄筋コンクリート 今 いつでも見られる壁の名残 くちびるに許されていることばなど歯牙にもかけない すすり泣く壁 平和にもレシピはあるの 作られた笑顔を混ぜて壁に塗り込む 手をあげるその手の意味を問いかける 壁のむこうはやさしいひとかと 友だちを隠されたという 友だちのその友だちの友だちの壁 現実をうけいれるのか 現実をうけとめきれない壁

        • 未来2024年2月号詠草 『受けいれる』

          未来2024年2月号詠草 『受けいれる』  風野瑞人 生きていることがデジャブになっていく 陽ざしに光る揺れない水面 かじかんだひとさしゆびを差し出して風を求める いやもうやめる 運命はただの確率だっただけ 襟を立てるともてあそばれて 追いかけて追いつけなかったうさぎの眼 あるはずだった未来を見送る 白い息 氷るひとりごと 散策のたびに唱えてみるのも終わり せめぎあう草木の記憶だけを抱く 永久凍土へ捧げるオマージュ 木枯らしと宵の明星 刺すような空気を胸に受けと

        2024年未来4月号詠草『前略 たくさんのきみ』  風野瑞人

          未来2024年1月号詠草『フラジャイルを生きる』

           未来2024年1月号詠草『フラジャイルを生きる』 風野瑞人 マントルに揺られてメトロポリタンのそびえるビルの不確かと生きる ふしあわせばかりを書いてAIに答えを求め突き放されて 幻の声とたたかう統合のとれない自我をささえる仕事 善人でいるのに疲れプラカード掲げるひとの行列を見る 王国は鏡のなかだけ もう二度とひとの襟首をつかむこともない 口角をわずかに上げる あいまいな壁にかこまれていることを知る ねむらないキリンに訊ねる 空白の日記をすべてやぶく方法 霊媒

          未来2024年1月号詠草『フラジャイルを生きる』

          未来2023年12月号詠草『こわれた街だ』

          未来2023年12月号詠草『こわれた街だ』 風野瑞人 週一度燃えないゴミの物語る文明というエントロピー くるくると回転ドアの風圧に飛ばされた先 だれもいない 心理的損傷 今日も何食わぬ顔で書かれたカルテのタワー ものうげな疫学教授の「諸世紀」がスマホのタップで波へと変わる ひとりでは渇いてしまう リモートでそっと見せあうあぶない約束 ドップラー効果ひびかせすれちがうingのシンドローム 黒鍵を重ねるようなアドリブが流れつづける満室の街 月光の弱いシャワーを浴び

          未来2023年12月号詠草『こわれた街だ』

          未来2023年11月号詠草 『魘された夜』

          未来2023年11月号詠草 『魘された夜』 風野瑞人 淡々と処方を書いてゆく主治医 野戦病院は遥か彼方 辛くても薬を飲めば目処は立つ 戦地の風邪はどうするのだろう まちがえた服薬 からだは戦いを拒否するように嘔吐の拒絶 容赦なく戒厳令下も咳は出る 狙い撃たれる38℃ カロナール カロナール カロ…唱えてもなんの弾除けにもならないだろう あの国に生まれていたら寝汗などでは済まない闘病の夜 眠れずに日付またいだ諍いの寝返り 聞き耳をたてるベッド 気がつけば枕がしっ

          未来2023年11月号詠草 『魘された夜』

          未来2023年10月号詠草  『不幸福論』

          未来2023年10月号詠草  『不幸福論』  風野瑞人 流血を受け継いでいく営みの記録をめくる音が聞こえる 不条理はどこまで木霊するのだろう 消えない過去のひとつひとつの 一日にひとつ諦めまたひとつ諦め暗くなってゆく窓 底知れない辛さを食んだその刹那差し出されていたまっ赤なワイン ほんとうは星などないと手を合わせ現実的な祈りをささげ かなしみが足を投げだし幾つもの理不尽たちに辺りを囲まれ トラウマを指折り数えるそのたびに剥がされてゆくこころのピース 華氏451

          未来2023年10月号詠草  『不幸福論』

          短歌同人誌『カイエ』14号詠草 『オーバードーズ』

          短歌同人誌『カイエ』14号詠草 『オーバードーズ』 風野瑞人 ドラセナにバラード聴かせている朝のこの世の終わりのような青空 街角のあちらこちらのヤマアラシ ジレンマでさえ眩しく見える 黒鍵を叩きつづける かんたんにどうか彼らの幸のなきよう 眠らない、いや眠れないから私小説ばかりを読んで誰かに化ける 灰色に覆われた窓 鏡さえ写らないものを映すというのに 公園のベンチに座るたび脳で起こるさびしいという現象 アルペジオつまびくような艶めきがいつあったのか 砂漠のからだ

          短歌同人誌『カイエ』14号詠草 『オーバードーズ』

          未来2023年9月号詠草 『セントエルモの終わり』

           未来2023年9月号詠草 『セントエルモの終わり』 風野瑞人 青い指こすりあっては消えそうなセントエルモの光を思う 拒絶して拒絶してって願ってもゆっくりそれは胸の奥へと 堕天使の堕の字にすがる 箱庭に理由ばかりを敷き詰めながら 太陽の南中する頃いつか見た行方知れずの希望の影は ノックしたドアの向こうの自分から返事が届く 声は黄昏 しみついた孤独と汚れなすすべもないまま見つめる掌のすじ ろうそくの灯りの消える音がする いや違うそれはいのちの音だ

          未来2023年9月号詠草 『セントエルモの終わり』

          未来2023年8月号詠草『ゆかり』

           未来2023年8月号詠草『ゆかり』 風野瑞人 既読には意味などなくてささやかに火を灯そうと声がけをする 未来にも過去にも触れず今ここを照らすひかりを重ねて囁く 届かない届けられないおやすみに忍ばせたはずの温もりのこと はかなさにいのちを吹き込むお話をいくつしますか もういいですか いくつもの言葉を選び組み換えるたびに失うこころの体温 早すぎた結び目でした もうすっかりほどけてしまった 糸くずさえない 気がつけば仮面仮面のミルフィーユ とうに潰れてしまった自画像

          未来2023年8月号詠草『ゆかり』

          未来2023年7月号詠草 『孤立』

          未来2023年7月号詠草 『孤立』 風野瑞人 曇りの日ガラスの向こうに吹き溜まる空気も力なくたたずんで 石になることばのころがる街角に碇泊している 人の隙間 生きているあいだに出逢う温もりから遠く離れた水たまりを踏む 好きになることを恐れて閉じこもる アポトーシスの音を聞きつつ 毒のある魚でごめん いい水も悪い水もよくわからない 触れないで触れられないでどこにいるかも知らず ひかりも射さず 遺伝子の切れ目のように容赦なく姿を変える孤立を引き継ぐ

          未来2023年7月号詠草 『孤立』

          未来2023年6月号詠草『ひとの節目』

           未来2023年6月号詠草『ひとの節目』 風野瑞人 季変わりの雨風の末ぽつねんと初めにもどるんですねと笑った 連弾をしたのはいつか ひとりきり もう戻れない指になったよう もう寝ましょうミニマムムーンあのひとのいちばん遠くの不安照らして こめかみに解けない謎が注がれて 影 影 影と いくつも踏んで 泣くことは守るということ その脳のコードブルーを求めた証 何もない夜もひとつの現象で 小さく確かな幸のことで 日を跨ぎ薄まる意識 綴られた文字が留めるひとの節目

          未来2023年6月号詠草『ひとの節目』

          未来2023年5月号詠草『東京を生きる』

          未来2023年5月号詠草『東京を生きる』 風野瑞人 占いを頼みに展望台にいる なぜコンパスは北ばかり指す 高層のガラスの向こう雄弁なハラスメントのパントマイム 傘もなく歩くしかなくそれはもう確信犯のアスファルトの道 ヒーローを描けばよかった時は過ぎ街の終わりが頬を撫でる 夜が降る サタンが嗤う 東京の隠れたさびしさたちを齧って 酔いどれのピエロのようなネオン浴び生きていくのか 涙も枯れて もうすっかり凪いでしまったこの都市でポリエチレンが今日も舞ってる

          未来2023年5月号詠草『東京を生きる』

          未来2023年4月号詠草『マイ・アンバランス』

          未来2023年4月号詠草『マイ・アンバランス』 風野瑞人 鳴るものをいくつも止めた黄昏の耳のサインを見つめるために 自分へと向かいつづけるテロリスト恐れるたびにめまい覚える 朽ちてゆく自分の鱗その裏の黒く汚れた記憶を想う いくつもの過去の私が集まって帰ってくるなと身体に告げる 定まらない腸の具合を気にもせずチェシャ猫は言う どうかしました 借り物の痛みでよかった脊椎がきしむぐらいに拒まれるのなら 胸元に茶色い雪が降るような動悸が始まる 必死に隠す 脳という場末

          未来2023年4月号詠草『マイ・アンバランス』

          未来2023年3月号詠草『たそがれて』

          未来2023年3月号詠草『たそがれて』 風野瑞人 力なく揺れる自分の夕の影どこへ行こうか錆びたこころで 落書きのコリドーだらけ生きていること見失うアッパータウン 癖になるフィジカル・ロング・ディスタンス暮れの散歩のひとりの足音 じゅうぶんに疲れてしまったアクリルで仕切るひと肌忘れた営み 誰も見ないナイトウェアにゆっくりと自分の罰が染み込んでいく 頭のなか振り子が左右に刻むのは終焉までの枯れた痛み 流星を見捨てたひとの絶望を食べ尽くすバク今夜もよろしく

          未来2023年3月号詠草『たそがれて』