20230805

 山本作兵衛の画文集『炭鉱に生きる――地の底の人生記録――』(講談社)を読んだ。明治期に七歳で筑豊の炭鉱で働き始め、大正、昭和という時代を炭鉱とともに生きてきた山本が六十を超えてから炭鉱のことを自分の孫に伝えるために、好きだった絵で伝えようと描き始めた千枚以上に及ぶ絵画とそこに記された生活の記録を厳選したもの。炭鉱というと、たしかに穴を掘って石炭を掘り出して運ぶというその作業自体はイメージとしてあるものの、彼らの生活となると途端にイメージがわかなくなる。この本では当時の生活を山本が語っていたり、絵にびっしりと細かい字で書かれた説明がつぶさに彼らの道楽や独自のルールや、過酷な暮らしぶりを伝えている。思えば、平成だってポケベル、ガラケー、インターネットの掲示板など今のスマホとSNS、アプリが中心になった社会ではその感覚的なものを知ることが難しい気がする。こういうことを語り伝えるという意味を改めて感じた。

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