祖父と父の話-2

父が亡くなって、12年。
父とは会話をしなかった期間も長くあったけれど、
今では父から教えてもらった様々な事柄を思い出す。

突然連れ出された銀座の高級クラブ、
銀座のバー、
築地の寿司屋、
築地の料亭、
よく読めと渡された本、
真摯に仕事に向かう姿、
道具、神道、、、、、、、、。
挙げればきりがない。

私は一度人生を失敗してしまったけれど、
私の根っこにあることは、
もう一度整理して自覚すべきだ。

銀座の会社での出来事

15年ほど前。
銀座の中心にオフィスと店舗をいくつか構えて、
業績は順調。
メディアにも取り上げられて、
時代の寵児のような扱われ方をしたこともあったな。

決して天狗にはならなかったのだけど、、、、。
ある日社員の一人にある相談をされた。
「社長、相談があります」と深刻な顔で。
話を聞くと、
前職の時のオーナーに
会社の備品を壊したとか、盗んだとか、
の難癖をつけられて、
盗んではいないけれど、
確かに破損させてしまったものがあったので、
弁償してこれでお終いになっていることにも関わらず、
また難癖をつけてお金を要求してくる。と。
そして、
お前がいる今の会社は儲かっているみたいだから、
社長に会わせろ。と言われたようだ。

要は、「半グレのゆすりタカリ恐喝」だった。

片方の話だけでは、正しくないなあと思い、
その半グレに会うことにした。
場所は、箱崎のロイヤルパークホテル。

その前に、
その半グレのことを少し調べたくて、
今は銀座に事務所を構える
祖父を慕っていた数人の方々にお会いした。
電話をすると、
迫力のあるしゃがれた聞き覚えのある声。
私とわかると一瞬で子供に話すような話し方に変わった。
一通り相談事を話し、
「明日、事務所にちょっとだけ来てくれるかい?」と。

翌日、菓子折りを持って事務所に伺う。
ここに足を踏み入れるのは2回目。
それでも緊張する。
中に通されて、
広い応接間に通され、待つこと5分ほど。
テレビやVシネマに出てくる
ヤクザの事務所とは比較にならないほどの設えに
圧倒される。

色々と説明をしていただき、
「気をつけてな。」
とポンと肩を叩かれて、固い握手を交わした。

相当たちの悪い半グレであることがわかった。
至る所で難癖をつけて恫喝して金品を巻き上げていると。

「気をつけてな」が重くのしかかる。

ロイヤルパークホテル

約束の日。
ロイヤルパークホテルに一人で向かった。

約束の時間を5分過ぎて、
その方はいらっしゃった。(A氏)

来るなり
「本当に申し訳ございませんでした〜」と。
顔や腕は、傷だらけで大丈夫なのかと思うほどだった。


「嫌々、私の会社のXXくんがご迷惑をおかけしているのであれば、親同然の私がちゃんとお詫びをしようと思ってきたのですが?」

A「いやいやいやいや、もう大丈夫です。本当に申し訳ございませんでした。」
と来て2分。
アワアワしながら走って逃げ帰ってしまった。

呆気に取られていると
手元に置かれた包みには、大層なお菓子と
XXくんから巻き上げたであろう10万円が入っていた。
グラスを一個割って10万円巻き上げたのか?!

翌日
事務所にはもう来てはいけないよ、と言われていたので、
電話でことの次第を説明し、御礼を伝えた。
「良かった。俺たちみたいにバカな人生を歩まずに真面目な人生を送れよ。いつも守ってやるからなあ!」と。

XXくんには、ことの顛末を話して、もう大丈夫だと思うから、何も気にせず思いっきり働いてください。
と10万円に入った封筒を渡した。
「社長これは?」
「うーん、XXから巻き上げたものを返してくれたよ。」

2018年
厳つかったその方の葬儀に参列する。
寂しいくらいに小さくなってしまった。
祖父の伝説もこの方の死で、
終わりなのかなあ。
祖父の話をもっと聞きたかったなあ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?