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2023年映画感想No.23:アントマン&ワスプ:クアントマニア(原題『Ant-Man and the Wasp: Quantumania』)※ネタバレあり

減退した魅力と作り手のさじ加減一つの設定

TOHOシネマズ新宿にて鑑賞。
小さな世界がでっかくなるというアントマンの一番面白い要素がほぼほぼ無くなってしまい、人間世界的な物理法則、生物学、SFデザインベースの既視感たっぷりな量子世界で作り手のさじ加減一つのゆるゆるな設定から来るサスペンスが展開していくという中々に惹かれない内容の作品になってしまったように感じた。
大きな設定から小さな設定まで作り手の都合に合わせてセッティングされている割に大味で雑な話運びで、あんまり時間が無かったのかなあという印象を持った。

新鮮な驚きが少ない量子世界の描写

アントマンらしい軽妙さから始まる冒頭は良かったのだけど、量子世界に入るにあたって重大な展開のきっかけに「隠し事」や「過失」を用い出したあたりから脚本への信用がガクッと下がってしまった。「言ってないことがあった」という後出しはまだ良いとして、なぜそうなったのかに必然性を持たせる工夫が無いのでただただジャネットが嫌いになる物語になってしまっていると思う。
量子世界に関してはもう量子力学とかそういう話すら放棄してただただ自由度の高い新しい世界になってしまっているし、その割には映画としてさほど新鮮味がない演出や展開ばかりだったのが残念だった。「見たことない世界」が既存のSF観、既存の人間世界観をベースに矮小化されて描かれていることにまずガッカリだし、「何でも出来る」という都合の良さを解消する工夫が足りないのでスコット親娘を探すホープたちという構図はひたすらただの尺稼ぎに感じてしまった。
もちろん新しい設定が出てくる場面にはビジュアルや映像的な一定の面白みはあるのだけど、逆に言うとその面白み以外の意味はあまり感じられないくらいどうとでも描ける部分でもあるので中々それらの設定に必然性が見いだせなかった。そもそも宇宙とか量子とかその規模の話をしているのに大半の生物のベースが「人間」ってなんだかなと思ってしまった。「身体機能的には人間と一緒」というセリフがあるなど演出の都合上そうせざるを得ないということを開き直って正当化する言及すらあってちょっとどうなのかなと思う。

引き延ばされる語り口のストレス

そういう引き伸ばされるだけの世界観の説明を補うためなのか本作のヴィランの存在についてやたらもったいぶった語り口になっているのだけど、そこを引き延ばす理由に説得力がないので当初の印象通りに「早く言えよ」という話になってしまっているのもただただストレスフルだった。こんなヤバい敵ならなおのこと真っ先に話してほしい。
ジャネットの行動はもはや支離滅裂なのでカーンが怖すぎて壊れちゃった人のようですらあるのだけど、そういう大の大人が保身のために脅威を見て見ぬ振りをしていたという無責任についてドサクサに紛れてあっさり処理されるようなまとめ方も気持ちが悪い。

アクション描写の弱さ

スーツアクションの見どころが著しく後退している点も気になった。
まず戦っている場所や相手が完全に異世界なので「その場所にあるもの」を使って戦う構図が破綻してしまっていることからくる新鮮味の無さがあるとは思うのだけど、それ以上にスーツの使い方にバリエーションがなくかなりワンパターンなアクションの描き方に感じてしまった。
絶体絶命になったら誰かに助けてもらう、バリアを強引に突き破る、ジャネットが両隣の護衛兵の隙をついて拘束を逃れる、というロジックが繰り返し用いられるのも芸がない。「なるほど!」という発想が無いばかりかついさっき見たようなアイデアが使い回されるので作劇として雑に感じてしまった。
一方でスーツを使えば何とかなりそうに見える場面も多々あり(例えば際限なく小さくなれるのだから小さくなって身を隠せば良いのではと思う場面とか)、その疑問を突き詰める工夫もない。その極めつけとしてスーツを着ていることをキャラクターが忘れているという始末でスーツという使い勝手の良い設定が手に余っている印象を持ってしまった。スーツは本作の登場人物たちの最大の武器でありアントマンという映画の最大のアイデンティティだからこそ「スーツを使えば良いじゃん」という一個目の発想で緊張感が無くならないようなサスペンスの設計がもっと必要だったのではと感じた。
小さくなりながら戦うと見せ方が難しい件について劇中で言及する割にそれ以降もあんまり見せ方の工夫が感じられないのも言い訳がましさばかりが増してしまって残念だった。

ブレブレな悪役

本作の悪役のカーンはやってることも描かれ方のバランスもブレブレでどのくらい強くて何がしたいのかが最後までよくわからなかった。
そもそも正体が明かされた時点から強すぎて設定が破綻しているように感じるのだけど、世界を滅ぼせる力がある割にこじんまりとした戦いに付き合ってくれるので最終的にめちゃめちゃ小物に映ってしまった。力を発揮しさえすれば簡単に全員皆殺しに出来る級のパワーがあるのかと思いきや、人海戦術にあっさり負けた挙句に生身のアントマンと殴り合ったりしていて「おいおい」と思った。あの一人一人チマチマ消す攻撃はなんなんだ。せめてフリーザくらいの絶望感は示して欲しかった。
逆にモードックに関してはアントマン達と戦うのに程よいパワーバランスで圧倒的なキャラクターデザインも相まってすごい見応えのあるキャラクターだった。アントマンの同情的な目線とかも含めて終始「怖い敵」ではなく「かわいそうなやつ」という扱いなのが本当に不憫で笑いを誘う。「殺人のために設計された可動式有機体 (Mental Organism Designed Only for Killing)」というちょっと難しい言葉が並ぶ名前の由来を「かっこいいだろう!」とばかりに毎回嬉々として説明するあたり残念な頭の悪さ丸出しで良かった。

ガタガタな脚本

単純な脚本としても気になるところは本当に多い。
中盤キャシーを人質に取ってスティーブに協力させる展開の顛末としてカーンが「約束を破る」という唐突に子供染みた悪役感を発揮し出すのが後々スティーブが怒るためだけの意地悪にしかなっていなくてカーンの悪役としての格だけが下がる。
終盤に復活したカーンがスティーブたちの世界に行こうとするのを身を挺して阻止する展開も、ワープを潜るか潜らないかが論点のサスペンスを主人公たちの自己犠牲で決着したのにものすごくあっさり再接続できてしまってどうかと思った。

正直単体の映画としてはあまり生産性の感じられない物語だった。シリーズのブリッジとしてものすごく割りを食ったのではないかと思う。
カーンはフェイズ5において重要な存在になるのだろうからこの映画自体はMCUにおいて意味があるのだろうけれど、話の内容としてはマイケル・ペーニャが1分くらいにまとめて話してくれた方が楽しめたかもしれない。

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