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楽しい体験型ミュージアム・市原歴史博物館

 あさって11月20日に開館1周年を迎える市原歴史博物館は、こんな建物。

 なかなかに、ぶっ飛んでいる。
  「硬めのプリン?」とか「LEGOブロック?」などと、大喜利がいくらでもできそうな外観である。
 正解はなんだろうと、調べてみると……

市原市の歴史文化を形づくってきた「大地」をイメージしており、東京湾と養老川が織りなす「水」をイメージした内装(展示)との対比を図ります

いちはら歴史のミュージアム事業の歩み

 大地ですか、そうですか……
 上の資料に記載はないものの、多数ある縦の溝は、アルファベットの「I」をイメージしているとは思う。Ichiharaの「I」であり、館の愛称は「I’Museum」(アイミュージアム)だからだ。「I」にあふれた空間。

 ——この挑戦的な建築デザインが示すように、市原歴史博物館は、新しい取り組みがふんだんに盛り込まれたミュージアムであった。
 それは、特別展「いちはらのお薬師様 -流行り病と民衆の祈り-」の展示室において、顕著にみられた。

 まずは「ペタペタ千社札ゲート」。
 特別展示室の手前に、長机が用意されている。ここでは、人差し指ほどの長方形の千社札シールを3種類から選び、鉛筆で願いごとを記入・持参することができる。
 展示室に足を踏み入れると、木の香りがたちこめる。正面にはお寺の柱と梁が真新しい材で再現され、そのあいだの板壁に、先達(先に来館した人たち)の願いがこもったシールがびっしり。
 板壁に限り、千社札シールはどこに貼ってもよい。ご利益のほどは未知数だが、わたしも貼ってみた。

 こういった体験型のイベントコーナーが、最後のおまけでなく、最初に設けられているのはめずらしい。展覧会のテーマが「自分ごと」化するようで、導入としてはたいへん効果的だなと思った。

 仏像は、ケースのない露出展示。壁側を除いた3方向の足元に、作品に近づきすぎないための、いわゆる「結界」が設置されていた。横木が渡された珍しいつくりの結界で、千社札ゲートと同じく、新しい木の香りがした。
 この結界は、参加者を募ってワークショップを開き、新たに制作したもの。現役の宮大工から寺社建築の伝統的な木組みを学ぶことができ、そうしてできた現物が、展示室で活用される。これはすごいことだ。


 同様にワークショップで制作されたのが、薄暗い展示室の各所に置かれ、間接照明の役割を果たしていた、高さ2メートルほどの灯籠。石灯籠ならぬ「ダンボール灯籠」である。
 市内の光善寺に残る県内最古の石灯籠(市指定文化財)を3Dスキャンし、ダンボールの素材を用いて原寸で再現したものだ。ワークショップでは、千葉大学や地元の高校の美術部がサポート。

 会場は薄暗いため、よく見なければダンボール製だとは気づけなかった。かなりしっかりしたつくりで、ちょっと欲しくなった。用途はこれといってないし、猫が爪とぎをしてボロボロになるのが目に見えてはいるけれど……どこか惹かれる。

 展示室の最後には、フォトスポット「なりきり薬師如来」。
 顔ハメの看板ではなく、台座や光背を模した環境のもと、ポーズを真似てみましょうという企画。左手に持つ薬壺も、各色が準備されている。

 わたし自身が薬師如来になりきり、印相を結ぶことはなかったけども、考えてみれば「光背を背負う」という体験は、それはそれでなかなか貴重だったかもしれない。やっておけばよかったか……

 ——「ペタペタ千社札ゲート」に始まり「なりきり薬師如来」に終わった本展。
 市原歴史博物館ではこの特別展に限らず、常設の展示室でも「体験」に重きを置いている。
 3Dデータを用いたレプリカを手にとる展示や、米俵を持ち上げてみる展示、においをかぐ展示などなど。塩田の香りがあんなにフルーティーだなんて、じっさいに体験してみなければ、わからなかった。
 隣には「歴史体験館」という関連施設があったけれど、こちらには間に合わず。

 東京からはちょっぴり遠いものの、歴史好きの方、とくにお子さん連れの方には、たいへんおすすめの体験型ミュージアムである。


 ※ミュージアムグッズもユニーク。平安仏が持つ薬壺の3Dデータを使った小物入れや香立てには、心惹かれるものがあった。



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