見出し画像

〈歳末スペシャル〉2023年の鑑賞「落ち穂拾い」:2

承前

■江戸絵画の華 〈第1部〉若冲と江戸絵画 /出光美術館(2月5日)

 2019年6月、衝撃的なニュースが飛び込んできた。出光美術館が、アメリカのプライス・コレクションから190件を取得したというのだ。お披露目は当初、2020年9月19日~12月20日に予定されていたものの延期。今年、ようやく開催に漕ぎつけた。

 前期展示は《鳥獣花木図屏風》など伊藤若冲の10点をはじめとする動物の絵や、肉筆浮世絵・風俗画を中心とした43件。数字上は少ないけれど、うち屏風が10件、掛軸には大幅(たいふく)が多く、お腹いっぱい観た気がしていて、むしろ意外な数字である。
 プライスさんが若冲再評価の先駆者だというのは衆知のとおりだが、本展には、初めて名前を聞く絵師のインパクトの強い絵がいくつも出ていた。
 プライスさんにしても出光美術館にしても、ネームバリューで絵を買ってはいない。館蔵品の足りないピースを補うのみならず、プライス・コレクションらしさもちゃんと引き継がれていたことがよくわかって、なんだか嬉しかった。

 ※出光美術館の公式サイトでは、過去の展覧会のページは削除されている。


■不思議ワールド うつろ舟 /常陽史料館(3月8日)

 水戸に遠征し、茨城県近代美術館「速水御舟展」、茨城県立歴史館「鹿島と香取」、偕楽園の梅まつりとともに拝見した展示。
 時は江戸時代。現在の茨城県内の海辺に謎の物体が漂着し、内部からふしぎな格好をした異国ふうの女性が現れた。
 この「虚舟(うつろぶね)事件」は、曲亭馬琴『兎園小説』によって広く流布。本展ではその実態を、いくつかの説とともに紹介している。現時点では養蚕の神との関連が有力だとか。

 物体の外見や女性の服装は、資料ごとにずいぶんと異なっていた。それだけ、情報が錯綜していたのだろう。会場ではリーフレットの表にも大きく出ている図版を、色つきで立体再現。カラフルでキッチュ、江戸時代にはどうみても異質であった。
 茨城県内の現代作家による、うつろ舟をテーマとした新作も展示。おもしろい取り組みである。ハリボテのうつろ舟、やきもののうつろ舟……いつの世も、人びとの好奇心とイマジネーションをかき立てる。それが、うつろ舟なのだ。

■北欧デザイン展 /日本橋高島屋(3月12日)

 近年、デザインで町おこしをしている北海道・東川町。その中核となる織田コレクションから、北欧で生み出された名作椅子、デザイン家具、陶器やガラスのうつわなどがやってきた。
 主なハイライトは、冒頭のイッタラ・バードの大群や、憧れのヒュッゲなスローライフぶりを再現したショールーム展示など。

 この鳥たちと同じく今日まで廃版とならず、入手可能なものも展示作品には多数含まれていたし、後者のような再現展示に触れると、じっさいに暮らしのなかで使ってみたくなるものであろう。
 ここは高島屋であるから、別の階に行けば購入もできる。
 なかなか考えられているなと思ったが、著名なものはおおむね含まれており、北欧デザイン入門としてうってつけの内容でもあった。

 ※同じ織田コレクションから、今年は「椅子とめぐる20世紀のデザイン展」が開催予定。


■江戸絵画の華 〈第2部〉京都画壇と江戸琳派 /出光美術館(3月16日)

 旧プライス・コレクションお披露目展の第2弾。作品は総入れ替えである。
 最初の1点・円山応挙《懸崖飛泉図屏風》は、観る者をたちまち、静謐な空気のただなかに取り込んでしまう魅惑の逸品。

リーフレットの中面。
《懸崖飛泉図屏風》が下に

 四曲+八曲の一双という特殊な体裁を、展示ケースの角にL字型に落とし込んだ展示プランは秀逸のひと言。「取り込んでしまう」という感覚は、その効果でもある。

 応挙《虎図》は縦長の柱絵で、正面からとらえた虎の顔面が幅いっぱいに広がっている。すき間から、こちらを覗き見る虎。その視線に釘付けである。
 応挙はじめ円山派、前期の若冲など奇想派の作などは、出光コレクションでは手薄な分野だった。近年人気が高い分野でもあり、このたびのプライス・コレクション取得は、まさに鬼に金棒。
 満を持して……というところで、ビルの建て替えにより長期休館となってしまうのは残念。それまであと1年、楽しみたいものだ。


■江之浦測候所(5月3日)

 神奈川県小田原市の海沿いの斜面、ミカン栽培の段々畑が広がっていたところに、現代美術家・杉本博司さんが空間デザインを手掛ける「江之浦測候所」はある。
 この施設をなんと言い表すべきか、非常にむずかしいところだが……現代も過去もこきまぜて再構成しなおした “杉本流テーマパーク” とでもいえようか。
 昨夏、夕景を観にうかがって以来の訪問。薄暗くなると足元が危ういからか、そのときは竹林エリアへの立ち入りが許されていなかったけれど、今回は昼間。まだ見ぬ竹林エリアへと、ようやく足を踏み入れることができた。
 写真を豊富に撮影した。こちらもいずれ、ちゃんと記事化したいものだ……

竹林エリア。中央は、南北朝の石造宝塔残欠。広島で被爆したもの

 ※関連する投稿

つづく





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?