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池大雅 陽光の山水:2 /出光美術館

承前

 大雅の作品はほとんどが山水画で、大雅自身もみずからを山水画家と認識し、人物画には苦手意識があったよう。国宝・重要文化財の指定品も《十便図》(川端康成記念会  国宝)を除いて、ほぼ山水を主体とした絵だ。

 本展でスポットを当てるのは、やはり山水画。大雅としては王道のテーマ設定ということになる。

 死にたいくらいに憧れた(?)中国を旅することは、大雅にはついぞできなかった。そのため、友人・知人から見せてもらった渡来の中国絵画・版本をもとに、図様や画法をたくみに採り入れて、“マイ・中国の山水” をかたちにしつづけたのであった。
 ガチガチに中国風な作が初期にはみられるけれど、以降の大半の作は、みごとな「大雅風」の仕上がり。誰がみても模倣とはいえないだろう。

 本展では、さまざまな作品が並べられたプロローグ的な第1室を経て、隅っこの第2室に、中国の名勝である洞庭湖(湖南省)や西湖(浙江省)を描いた屏風・画巻が集められていた。
 古来よりあまたの詩文に詠まれてきた洞庭湖や西湖を、大雅も好んで題材にしている。水辺に、屋根の端が反り返った特徴的な楼閣があればそれはもう洞庭湖、アーチの連続する長い石橋が描かれていれば西湖を描いているのだと、相場は決まっている。その風景のなかで、中国風の人物が歩いたり、小屋で寛いだり。こういった情景が、大雅一流のほのぼのとした筆致・着彩によって描かれる。
 《西湖春景・銭塘観潮図屏風》(東京国立博物館  重文)は、大雅が参照した版本とともに展示されていた。

 ベースとしたであろうことはたしかにわかったけれど、「作品→版本」の順で観ても、すぐにはそれと気づきにくいほどであった。単なるトレースというのはおろか、換骨奪胎というのも気がひけるくらいに「大雅風」。
  「(中国の画家の)誰それの筆意に倣う」などと但し書きがされた作でも、「……いや、やっぱり大雅の絵だよ」といわざるをえない。画題やモチーフこそ中国からの借り物だが、絵としては「なにをやっても大雅」になれているのだった。

 洞庭湖に注ぐ2つの川・瀟水と湘江が合流するあたりには、美しい水郷の景観が広がっている。そこから8つのハイライトを選んで挙げたのが「瀟湘八景」である。
 先ほどのような、楼閣や橋といったいかにもな中国的要素は、瀟湘八景には目立って描かれない。日本の風景と受け取られてもふしぎではないケースも多いし、その普遍性が、日本で瀟湘八景が好まれた理由のひとつなのかもしれない。
 瀟湘八景に関しても、大雅は繰り返し描いている。
 最も広い第3室では、大雅による瀟湘八景図のバリエーションを多数出品。16面の扇面からなる《東山清音帖》(個人蔵  重文)に、8幅からなる軸装の《瀟湘八景図》(出光美術館)、画帖の《瀟湘八景帖》(出光美術館)、そして、第3室入り口に出ていた《瀟湘勝概図屏風》(個人蔵  重文)である。どれも、たいへんすばらしいものだ。
 以上に記したように、基本的には8つの景色を異なる紙に描いた作であるが、《瀟湘勝概図屏風》だけは違う。六曲一隻のひとつの画面に、八景すべてが描きこまれているのだ。こういった画面上の連続性は、本展全体に関わる重要なポイントにもなっていく。(つづく)

 ※《瀟湘勝概図屏風》の図版は以下のサイトにて。《東山清音帖》の「洞庭秋月」も掲載。



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