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リアル(写実)のゆくえ:1 /平塚市美術館

 最初に「あれ?」と思ったのは、数年前に、同名の展覧会が同じ平塚で開かれていたから。あのときは、興味があってもアクセスに難を感じ、行かずじまいになってしまった(巡回先で最も近いのは平塚だった)。
 見比べると、メインタイトルや全体のデザイン、「リアル(写実)」というテーマは共通していても、サブタイトル以下の内容が異なっている。
 「Ⅱ」や「続」の表記があると、「『パートワン』を観ていないけれど大丈夫かしら……?」となってしまうもの。連続性を保ちつつ仕切り直しとするこの形式が、いろいろな意味で好都合だったのだろう。
 今回は、事前にチケットが入手できていたことや、併設の「けずる絵、ひっかく絵」(前回更新分)への興味もあって、平塚行きがすんなり決まったのだった。

 今一度、サブタイトルを並べてみたい。

 2017年版:「高橋由一、岸田劉生、そして現代へつなぐもの」
 2022年版:「現代の作家たち 生きること、写すこと」

 これらサブタイトルが簡潔に表しているように、2017年版は「系譜」を意識したもので、順序立っており、近代絵画の割合が多め。2022年版は「現代」に焦点を当てたもので、近代の作品はその根っこの部分を理解するための導入として数点にとどめられる。また、インパクトのある「生(いき)人形」に象徴されるように、2017年版にはなかった彫刻・立体造形の分野もとりこんでいる点が、大きな違いとなっているようだ。

 「リアル(写実)」と銘打つのだから、流行りのスーパーリアリズムの絵画も出ているかなと思ったら、そこはばっさり。むしろそういった「写真のように忠実に描写する」という先入観を覆す作がしょっぱなから続いて、意表を衝かれた。「リアル(写実)は、そんなに単純じゃないぞ」ということだろう。
 作品に添えられた作家自身の言葉によっても、釘を刺された。どの作家さんも口をそろえて、「いま目で見えるものが、すべてではない」「目に見えるものをそのまま表せば、リアルな表現が可能になるわけではない」といった内容のコメントを残している。
 そのような視点から出品作家の選定がなされ、作家さんたちとも、展覧会の意図を踏まえた綿密な打ち合わせが繰り返されたのだろうなと察せられた。(つづく


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