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ポコラート世界展 偶然と、必然と、:3 /アーツ千代田3331

承前

■段ボールのおじいさん モハメド・ババフム

 日本だけでなく、外国の作家も選ばれている。
 モハメド・ババフムさんは、段ボールに絵を描くモロッコのおじいちゃんだ。

 ババフムさんの名前で検索してみても、ヒットするのは本展のことばかり。日本では、このときが初出だったかもしれない。
 アルファベットのつづりで検索しなおすと、まだ見ぬ作品がたくさんヒットした。

 画面の縦横をいっぱいに使って、「どうしたらうまく配置できるかな」と、一生懸命思案した跡がみえるようだ。きっと、まじめな方なのだろう。平面的な空間感覚には、モロッコの名産品・絨毯を思わせるところがなくはない。
 描写は素朴そのもので、ロベール・クートラスや日本中世の「つきしま」「かるかや」の趣に近しく、なんともほのぼの。
 いっぽうで、段ボールの凹凸ある素材感や褐色の色みは、今出来の作であることをまったく感じさせず、長い時間を経て古色を帯びたものと錯覚させる。古美術の愛好者にも、すんなり受け容れられそうな作品と思った。

■飛び交う絵の具、溢れるパッション 川上建次

 この分野の総花的な展示が催されると、かならずといっていいほど取り上げられる作家のうちのひとりが、川上建次さん。
 東京藝術大学大学美術館で開催されていた「あるがままのアート −人知れず表現し続ける者たち−」展で最も衝撃を受けたのも、川上さんの《KAZMAX》だった。
 じつは「偶然と、必然と、」展の出品作家ではないのだけれど、この流れでどうしても触れておきたかった。

 こうして画像データで見てしまうと、なんだか不気味で怪しい絵に思えてしまうかもしれない。
 実物を目の当たりにすれば、その筆の運びの勢いと、目にもまぶしい色彩にまずは圧倒され、その場に立ちつくすだろう。
 そしてなにより、不気味さよりも、あたたかみを感じるのではないか。化け物は化け物でも、トトロのような愛嬌と包容力とでもいうべきか……

 寸法としても、大きいものが多い。
 悲しんだり、落ち込んだりしてしまったとき。川上さんの絵の前に立てば、目が覚めるように元気になれるのだろう……偉ぶるところも媚びるところもないたたずまいが、そう思わせるであろうか。
 ビタミンのような、川上さんの絵である。

 ――4人の作家を紹介してきたが、この分野やその裾野には、まだまだ魅力的な作家がたくさんいるはずだ。引き続き、注目していきたい。


 ※川上さんのページを見ていたら……この作家さんも、いいなあ



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