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morning glow

「......あ」

パソコンから顔を上げる。そのまま窓に目をやると、カーテンから光が漏れていた。

またか、と思い溜め息を吐く。もう陽は昇ってしまっているようだ。

最近、気が付いたら朝、という現象が良く起きる。

今みたいにパソコンを弄っていたり、読書に耽っていたり、録画していたドラマを観ていたり、と理由は様々だ。そしてそういうのは大抵、休日ではなく平日に起こる。

平日なのだから勿論仕事がある訳で、結局仕事中にとてつもない睡魔に襲われて夜更かしをした自分を呪うはめになるのだが、中々止められない。

どうしたものかな、と考えてみる。この習慣、早く直さないと仕事に支障が出たら困る。というより、あまり仕事に差し支えは出ていないということに一番困っている。

体が慣れてしまったのか何なのか。自分はもしや寝なくても生きていける人間なのか?いやいや、仕事中に眠くなるのは睡眠を必要としている証拠だ。それはない。それに人間は三日間睡眠を取らないと死ぬという言葉をどこかで聞いたことがある。本当かどうかは知らないが。

時計に目をやる。時刻は5:30を過ぎたところだ。まだ出勤時間には余裕がある。そうだ、朝食を摂ってしまおう。

パソコンを閉じ、台所へ移動して冷蔵庫の中を覗く。中身は至って簡素。そろそろ買い出しをした方が良いかもしれない、と思いながら卵二つとベーコンを取り出す。

フライパンにベーコンを数枚敷き、火を掛ける。暫くするとジュウウといういかにも美味しそうな音が鳴り始める。この音が結構好きだ。

焦がしてしまわないように気を付けながら、今度は棚に常備してある食パンを手に取る。トースターに二枚突っ込んで電源をオン。

ベーコンが良い具合に焼けてきた。その隙間に卵を割って入れ、黒胡椒を振り掛ける。別々で焼くなんていうことはしない。面倒だ。この方法でも見た目がちょっとアレなだけで別に問題はない。

チン、と音がなる。フライパンの火を止めてトースターから取り出した食パンを一枚皿に乗せる。その上に具材を乗せてもう一枚食パンで挟む。こうして不格好なベーコンと目玉焼きのホットサンドが完成した。

コーヒーを用意し、ホットサンドと共にテーブルに置く。椅子に座ると、ふうと無意識に溜め息が出た。

何だか部屋がほの暗く感じる。原因は閉めきられたカーテン。今しがた座ったばかりの椅子にさよならを告げ、シャアアッと小気味良い音を立てながらカーテンを開け放つ。己の目に飛び込んできた情景は、清々しい程の朝模様だった。

眩しい光を放っている太陽に思わず目を薄める。ぼんやり眺めているうちに、だんだんその太陽が目玉焼きにしか見えなくなってきた。自分は思ったより腹が空いているらしい。

ふとテーブルを見る。その目に映るは不格好なホットサンド。何の気なしに食パンをペラとめくってみると美味しそうな太陽が覗く。そしてその太陽と後ろにあるベーコンが相まって、食パンの間に見事なまでの夕焼け空が完成していた。いや、これは朝食なのだから朝焼けが良いだろう。うん、そうしよう。

...頭を抱えたい衝動に駆られた。目玉焼きとベーコンが朝焼け空に見えるだなんて自分は疲れているのだろうか。でも何度見てももう朝焼け空にしか見えない。

椅子に座り、ホットサンドを手に取る。そのまま一口かじりってゆっくりと咀嚼すると、朝焼けを食べているという不思議な感覚に襲われる。至って普通の食材しか使っていないのに、何だか特別で、少し背徳感のある味がした。

だが良く考えてみると、自分は朝焼けというものをあまり見た記憶がない。なら、本物の朝焼け空をこの目で見て確かめなくては。

朝焼け空を噛み締めながら、朝焼け空に思いを馳せる。

急に、明日が楽しみになった。

end

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