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世界への誠実さ ノット/東京交響楽団のブルックナー交響曲第1番

オペラシティで東響定期を聴いてきた。

リゲティ:ハンガリアン・ロック
ベリオ:声(フォーク・ソングⅡ) ~ヴィオラと2つの楽器グループのための
ブルックナー:交響曲 第1番 ハ短調 (ノヴァーク版リンツ稿)

指揮:ジョナサン・ノット
ヴィオラ:ディミトリ・ムラト
オルガン:大木麻理

「嫌い嫌い」と言ってるブルックナーを2日連続。
「饅頭怖い」?ってバレちゃうね😅

昨日の2番も今日の1番も生演奏は初めて。1番なんてCDで聴いた記憶も朧げだ。

今までのブルックナー歴は…

朝比奈で4、5、7、8、9は聴いてるはず。

スクロヴァチェフスキでも何曲か聴いてる。

ヴァント/北ドイツ放送響の9番は別格。

シャイー/ゲヴァントハウスの8番は東日本大震災の3日前。
マッシヴというのか、音圧が凄かった。

4番はグザヴィエ=ロト/ケルン・ギュルツェニヒ管、5番はミンコフスキ/都響でも聴いた。

結構聴いてる方??(他にもあるはず……😅

ブルックナーとショパンはあまり合わないと思いつつ、完全に避けてるわけではない。

6番と0番、00番は生で聴いてない。3番も朝比奈で聴いたか怪しい。
せっかくだから全曲聴きたいもの。6番はバーメルトで聴きたい。

さて、今日の感想。

最初に「上質な退屈」ってタイトルで書こうとしたくらい(ひどいね😅)、ある種の退屈さはあった。
というのも3曲とも馴染みがなさすぎる。

しかし、それを承知で行ったのだ。

年をとると新しい刺激を求めなくなる人も多いのではないか。
自分が好きなもの、知ってるもの、心地いいものばかりに囲まれてると人間の思考は固まっていく。そして、説教臭い人間になっていく。

エスニック料理でも「日本人好みの味つけ」の店もあれば「現地の味」の店もある。私が好きなのは断然後者だ。

現地の味だからすぐに美味しいとは思えないこともある。「なんだこの味?」という“未知との遭遇”感が好きなのだ。

年寄りになっても傷ついたり、心地悪かったり、迷ったり、悩んだりするのは大事。
開き直るのはブルックナーを聴いてる間だけにしたい。

まずリゲティだが、次のベリオ用の楽団員配置がユニーク。
P席の固定椅子をなくしてパイプ椅子を置き、楽団員を横一列に並べている。弦楽器と管楽器が混ざっている。

2階バルコニー席の舞台サイドにも弦楽器が3人いた(私はRAだったので左側しか見えなかったが、右側にもいただろう)。

指揮者、ベリオのソリスト、楽団員が定位置についた状態でオルガンが始まる(ソリストが出入りする右側だけは楽団員が座ってなかったようだ)。

約6分の曲だが、面白かった。オルガンの真横なので高い音がキンキンやたら響く感じだったが、クラシックの形式を逸脱したような自由でアグレッシブな曲だった。

大木さんはモンドリアンみたいな派手な色柄の服を着ていた。

次のベリオは2020年に予定されていたものの、入国制限で実現しなかったらしい。

そういえば今度オピッツが定期に登場するのって、ニコラ・アンゲリッシュの代役でブラームスの2番弾いてくれたお礼で招待する感じだよね?😅

だって、ノットとオピッツって音楽性全然別な感じがするんだもん😂
ノットはシャープで現代風。オピッツはドイツの伝統的なお菓子みたいな感じでしょ?

でも代役をしてくれたアーティストを改めて定期演奏会に呼ぶのはいい姿勢だと思う。他のオケもそうしてるのかな。

ベリオはちょっと長く感じてしまった。約30分だけど、10分短くてもよかった。
なんか変わり映えしないもやもやした曲調が延々続くんだもん😅

とはいえ、リゲティやベリオは現代音楽といっても古典の領域だから、最近の新作初演なんかよりははるかに聴きやすい。

ベリオを聴いたのはおそらくチョン・ミョンフン/フランス放送フィルの「シンフォニア」以来。

オーチャードホールだった。前半の姉キョンファとのブラームス目当てで行きました。

チョン・トリオも聴けたのは自慢してよい?😁

ベリオはまあ退屈なんだけど、ノットはアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督でもあったし、世界一流の現代音楽の解釈者による演奏は贅沢の極みだった。
いまいちノレないんだけど、演奏の水準が高いのはわかった。

リゲティ、ベリオ、ブルックナーなんてプログラムを組める日本の指揮者がどれだけいるか。
ノットは先日のマーラー「悲劇的」においてもリゲティの「ムジカ・リチェルカータ第2番」(ピアノ・ソロ)を冒頭に置いた。

オケのコンサートで器楽曲を冒頭に据えるなんて考えもしなかった。
いまだに「フィンランディア、シベVコン、シベ2」みたいなコテコテプロの多い日本。
ノットが日本の音楽文化発展に多大な貢献をしたことに異論のある者はいないだろう(オーケストラビルダーとしての才能も高そうだ)。

芸術選奨文部科学大臣賞って外国人は対象外なのかな?  日本政府から何か授賞してください😅
2016年でおそらく東響を去るのだろうからそれまでにたくさん聴いておきたいものだ。

さて、ブルックナーの1番は昨日聴いた2番に比べるとかなり曲の完成度が低く感じた。

言いたいことがまとまってないというか。ブルックナーも最初はこんな感じだったのね🤔

とはいえ、ブルックナー色が感じられる箇所もちらほらある。
ブルックナーぽく感じない箇所とブルックナーらしい箇所が交互に出てくる感じ。
これを聴いて2番の完成度の高さに舌を巻きました。ベートーヴェンの交響曲第2番→エロイカ並みの進歩だね。

ブルックナーを聴きながらトランペットの若手女性奏者が目に止まった。
昨日の都響でも1st Vnに若い女性が数名いたが、若い女性がブルックナーを弾く絵面が違和感ありまくりで萌えて?しまう😅

だってブルックナーっておっさんの世界だと思うのですよ。マチズモというか。
読書オフ会に出たら、女子大生が石原文学を熱く語り始めるくらいの違和感はある。

曲自体の完成度が低く感じてそこまでノレなかったけど、こちらもやはり演奏水準の高さは感じた。

ノットが最後の音を握り拳で締めたときに、満足のいく出来だったのか、残響の余韻を噛みしめるように拳にグイッグイッと力を入れ直したさまはさながらガッツポーズだった(以前も見たことがあるのでよくやってるのだろう)。

会場の入りは6割ぐらいだったろうか。1階席はかなり空席が目立った。
しかしすぐに立ち上がって拍手していたお客も多く、ブルオタをも唸らせる名演だったようだ。

昨日「小泉和裕は初心者におすすめ」と書いたが、ノットもおすすめだと思った。

ノットの美点は音楽への誠実さ。楽団員や聴衆に対しても誠実だから、「世界に誠実」と言ってもいいかもしれない。

高関健もやはり丁寧な音楽作りが特徴だが、ノットは高関さんほど音楽を固めてない印象がする。
7割程度作って、あとは本番次第で変わる即興的な感じ。

高関さんはわりと細かく固めてる気がする。受け持っているオケの実力や性質にもよるだろう。

ノットの指揮姿が以前からクライバーに似て感じてたのも、即興性を多分に感じ取っていたせいかもしれない。

ソロ・カーテンコールに出てきたノットはいつも通り満面の笑み。
爆笑してるのか?🤣と思うくらい身体をよじって笑っていて、自ら拍手し、あちこち向いてはお客さんに手を振る。
私の方向を向いて手を振ってくれたので振り返せばよかった😂

変な話だが、ノットのソロ・カーテンコールも朝比奈の一般参賀に似てきて、演奏の出来にかかわらず参加したい気持ちになった。

カーテンコールでノットと拍手しあうのが楽しいのだ😅
あんなに幸福な気持ちに包まれるカーテンコールはない。

サントリーで聴いたマーラーの5番はオケとちぐはぐでいまいちに感じたけど、ノットの音楽からは「手抜き」を感じたことがない。

今日のプログラムは決して私好みではないし、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番と「エロイカ」の方が断然好みなのだが、これほど私好みでないプログラムをこれほど面白く聴かせてくれる指揮者はノットの他にいまいと思った。

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