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水平線


あの少年は一体どこに向かっているのか

そんな事をぼんやり考えながら、その先にある海に目を向ける

そしてその瞳に映る海があんまりに綺麗で思考が止まった

今日もいつもの朝
8時55分の電車に乗ってイヤホンで音楽を聴きながら携帯をチェックする
いつもなら電車にいる間は携帯の画面から目を離さないのに、今日だけは何故かそんなSNSの世界に疲れてしまって、携帯から目を離してみる

するといつも見ている筈の景色がなんだか違うものに見えた

そしてあの少年を見つけた

声をかけなければいけない
脳みそがそう言っていた

その瞬間にこれから仕事だという事もこの世界の時間軸の事なんか忘れて
足が動いていた

「電車が到着致します、お降りのお客様は、、、、、」

そんなアナウンスが聴こえた時にはもう駅を降りていた

そして大人になってからこんなにも走れるのかと思う程に全速力であの海に向かって走っている自分がいた

「あ、あの、、、」

あたしはそれしか言えなくて少年の腕を掴んでいた

少年はビックリしてこっちを、見ていた
その目はあまりにも真っ直ぐで黒目に吸い込まれそうになり、その眼球に自分が写ってる事にビックリして我を取り戻した

「えっ?何?」

少年は恐ろしく不機嫌な声で怪訝な顔をして言った

うわっ、あたし何やってんだろ、

そして少年は続けて言った

「もしかして俺が自殺でもしようと思って焦って、自分が仕事なのも忘れて電車を飛び降りて、俺の事を助けられたら、なんて正義のヒーロー気取り?そんな偽善者じみた事しようとしてたの?」

「いや、違う、、、と思う、、、」

少年に言われて半分本当で半分嘘だった事に気がついて語尾が詰まった

「君の瞳があんまりにも綺麗だったから、、、」

これは本当だった。

「それって俺の事助けたかったんじゃなくて、自分が仕事に行きたくない言い訳でしょ??」

そう言われた瞬間に涙が溢れた
少年の事も周りの事も忘れて、嗚咽を漏らして泣いていた

そしてあたしが泣き止むまで少年は海を見つめていた

そして、ポツリポツリと話始めた

「俺さぁ、世界が嫌いで、世界平和なんて望んだ事ないわけ
なんなら世の中なんてなくなってしまえばいいって毎日呪ってた
そんな時に、毎日見えるこの電車の中にお姉さんを見つけたんだ
いつもイヤホンつけて携帯ばっか見てて、世界一不幸な顔してんの
そのイヤホンでは何の音楽聴いてんのかなぁとか、携帯で何見てんのかなぁとか、
そしていつかこっち見てくれないかなぁとか願ったりしてたわけ笑」

そしたらやっと今日、君が俺を見つけてくれた

「ありがとう」

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