はじめに
今回は「AI人材の育て方」(2021年)という本を読んでみました。
著者は、NECのAI人材育成センター長の孝忠大輔氏です。
データサイエンティスト協会のスキル定義委員として「データサイエンティストスキルチェックリスト」や「ITSS+データサイエンス領域タスクリスト」の定義を行ってきた方で、政府が掲げる「AI戦略2019」を実行するための特別委員会委員として大学生のための「数理・データサイエンス・AIモデルカリキュラム」の作成や、内閣府が進める「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の検討にも携わってらっしゃるそうです。
その意味で、著者はAI人材育成やAI活用プロセスの標準化分野での第一人者と言えるでしょう。
本書では、AI人材やAI活用プロセス、AI人材育成施策、AI人材育成計画策定について、網羅的で一貫性と整合性のある、大変分かりやすいモデルを提示しています。
特に、AI活用プロセスにおける企画フェーズから実証フェーズまでの流れは素晴らしく、その完成度は「ITSS+データサイエンス領域タスクリスト」をはるかに越えていると感じました。
個人的には、業務プロセスとそこでの意思決定のモデル化がAI活用を進める上での大きな課題のひとつと想定していますが、本書のAI活用プロセスを適用することで、その課題もクリアし、よく言われる「PoC止まりの壁」も乗り越えていけるようになるのではと思いました。
本書の概要
著者によれば、2000年代から始まった第三次AIブームにおいてAIの適用範囲が大幅に拡大し、近年、さまざまな領域で本格的にAIの導入が進んでおり、AI人材への期待が高まっているとのことですが、
欧米や中国に比べ、日本はAIへの取り組みが遅れたこともあり、AI人材が育っておらず、国際社会での産業競争力を失いつつあるとのことです。
政府は、2025年までに全ての学生に「数理・データサイエンス・AI」に関する教育を実施することを「AI戦略2019」の中で発表しましたが、
そこで教育を受けた学生が社会で活躍するまでは、もう少し時間が必要となり、自社内のAI人材の数を増やしていくには計画的な育成を進める必要があるとしています。
まず、最初に、AI活用に関わる人材のタイプについて確認しています。
次に、AI活用のためのプロセスについて確認しています。
プロセス全体は4つのフェーズから構成されるとし、
更に、4つのフェーズを32種類のタスクに分解しています。
次に、AI活用プロセスにおける各AI人材の役割を整理した上で、
AI人材に求められるスキルを共有スキルと専門スキルに分けて詳しく説明しています。
AI人材の育成施策と育成手順の概要を示した上で、
AI人材ごとに育成ステップを示しています。
併せて、ここでは省略しますが(すいません)、レベル到達確認リストも紹介されています。
以上の整理を踏まえ、企業におけるAI人材育成計画の策定方法を、AI人材育成の「黎明期」「成長期」「成熟期」に分けて解説しています。
まず、AI人材のタイプ別に、内外製方針を検討します。
次に、AI人材のタイプごとに人材の目標数を設定します。
ここでは、事業会社とITベンダーのそれぞれについて、目標数の試算方法を説明しています。
AI人材育成計画上のポイントを「黎明期」「成長期」「成熟期」のそれぞれについて解説してます。
最後に、大学におけるAI人材育成についても紹介していますが、
大学・高専におけるAI人材育成に対して「AI戦略2019」で目標が掲げられ、
2020年4月には数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムからリテラシーレベルのAI人材育成のモデルカリキュラムが公開され、既に運用が開始されているそうです。その後、2021年3月には応用基礎レベルのものも公開されているとのことです。
今後、大学・高専でAIを学んだ学生が、大量に社会人として企業に入ってくるとのことです。心強い限りですね。
おわりに
本書は実に素晴らしい本ですが、少しだけ残念だったのは、著者の落ち着いた語り口でしょうか。。
著者の熱い想いや現場での苦労話についても、少し語っていただきたい気もしました!
基本的に、本書は、AI人材やAI活用プロセスに対する標準化として書かれたものと思いますので仕方ないのですが、、
いずれにしても、本書は、AI人材育成担当の方だけでなく、AI活用を実践されている方々にもお勧めしたい一冊です!