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#10 【マレーシア留学】「そうだ、イポー行こう」短編エッセイ後編

前回の短編エッセイを書いて、はや2週間。

いろいろあって後編に手を付けられず、更新が今更になってしまった。ぼやけつつある記憶を紡いで、言葉として肉付けするのも、そろそろできるかできないか危ういラインでの執筆となりましたが、なんとか産み落とした言葉たちを読んでいただけると嬉しいです!

というわけで、前編はこちら↓

「ウー!ウー!ウー!」
午前8:00の地震の警報音を思わせるアラームが6畳ほどの狭い部屋に鳴り響く。

明らかに不快そうに同じ部屋で眠っていた友人が寝返りをうつ。
「すまない、これが私の朝の日常だ。」

アラームは私の目覚ましのアラームで、私は慣れてしまっているので、一切動じず、いつものようにさっと携帯を取ってアラームを止めて、再びベッドに潜る。

これが5回。9:00あたりのアラームでようやく体を起こして、旅の準備をのそのそと始める。

私は前日、酒をそこまで大量に飲まなかったので、二日酔いは来ていないが、友人は派手に飲んでいたので、今朝顔色を窺ってみたが、ケロッとしたままテレビでYouTubeを見ていたので、アルコールになんぞ動じない強靭な内臓に、コップ一杯でふらふらになる私は「ほぉー」と感心していた。

今日の旅程をざっくり説明すると、まずはイポー南部にある、「HOGA, Gaharu Tea Valley Gipeng」というお茶畑でお茶を飲んで、1時間ほどお茶のプランテーションを観賞した後、「Gua Tempurung」という洞窟の中を探検できるアドベンチャースポットに行く予定だったのだが、自分も含め、ホテルの居心地がよかったためか、各々自分のペースで支度をしており、出発が10時になったため旅程など無視することになった。

イポーの朝。自然ましまし、ビル少なめ。

10時に出発となると、そりゃあみんなお腹空いているわけで、「とりあえず朝ごはんにしようか」となり、イポーで人気の「Hakka Mee ハッカミー」を食べに行くことに。今回伺ったのは「Paris Restaurant」というお店で、店名にParisを冠しているものの、内装は「ザ・ローカル屋台!」でお客さんもローカルの人で賑わっていた。

こういうことに関する好奇心が旺盛なので、「このお店のどこにParisを見出して、店名にParisをいれたんですか?」と聞きようによっては失礼になるようなことが頭の中を支配して、聞きたくてうずうずしていたが、今回はひとり旅ではなく、友達がいたため「いかん、変人にみられるわけにはッ」と我に返り、さっさと席についてHakka Meeを注文した。

Hakka Meeは簡単に説明すれば、具材が豚ひき肉そぼろだけの台湾まぜそばである。麺は小麦粉ベースの平べったい面で、ひき肉とたれとよく絡めて食べるとまあもちもちで絶品。卓には唐辛子とすりおろしにんにくがおいてあり、私を誘惑する。
「ううっ、入れたい!!!!けど、朝からにんにくをいれるわけには、、、」
「移動中の車内がニンニク臭くなっては大変だ、、、」
といろいろ葛藤している間に、何食わぬ顔で友人が大量にニンニクを突っ込んでいる姿を目撃し、臭いなどという不安はどこかに吹っ飛び、躊躇せずニンニクと唐辛子を突っ込み、がっと混ぜて、ぱっと胃の中にかっこんだ。

幸せとは時に単純なもので、一杯のHakka Meeが腹の底から充足感で満たしてくれる。胃も心も満足なまま、次の目的地へ。

幸せの源「Hakka Mee」

旅程とは大幅に組み替えて、昨日行けなかった、イポーの鍾乳洞が見れる三大寺院のうち最も有名で、イポーに来たら絶対外せない「極楽洞 Kek Look Tong」へ。

入口の様子。仏教寺院なので狛犬さんがお出迎え

写真からは伝わりづらいが、左にある大きく開いた洞窟のような場所が入口。なんとここ入場料無料なので、そのまま鍾乳洞内部へ。

ひんやりした空気と薄暗さ、内部に設置されたライトに照らされて不気味に反射する石灰岩、ぽたぽたとしたたり落ちる水。

それぞれの要素が鍾乳洞そのものを幻想的な雰囲気で満たす。観光客が多いというわけではなく、広い洞窟内であったから、ひとり静かに見れる場所もあった。ゆったりと自然が織りなす神秘性に没入し、この地に仏像を鎮座したくなったかつての人が感じていたであろう、自然に対する畏敬の念やパワーをふわっとリンクできた気がして、人が自然に信仰の精神を感じる理由をそれとなく理解することができた。

鍾乳洞の写真。自然、すごいね。

ぼんやりしている私に、同行していた友人が「ここは観光地として配慮がよくきいてるね、電気の配線がうまい具合に隠されている」とぼそっとつぶやき、はっとさせられた。「なるほど、人工の手ができるだけ入っていないような最大限の考慮の上に、この自然の神秘性は成り立っているんだな」と気づきを得ることができ、誰かと旅をすることも、他人の視点でのものの見方を共有することができておもしろいなと感じた。

鍾乳洞を抜けて奥の庭園に出ると、またしても壮大な自然の美に言葉を失った。まさに「極楽」であり、ここを極楽と名付けた人も、この景色に天国に近いものを見出したからだろうと自然に思えた。

鍾乳洞を出た後の庭園風景

生き生きとした動物たち、中央にある大きな池と鯉、庭園を囲う岩肌、若い緑をまとった木々、色鮮やかな植物、規則正しく配置された仏像、差し込む太陽のあたたかな光。

「いつか見た、まだ見たことない天国」という矛盾した言葉が一番しっくりくるだろうか。子供の頃誰しも夢想する天国や、アニメで出て来た天国の世界観が自分の天国観を形作っていて、それに近いものが目前で映像化されたという純粋な驚きと感動。と同時に、それとは違う、実際に目だけではなく五感で感じ取った未知の神秘性とが入り混じっている。美しいを通りこして、不思議な体験だったので、しばらく目を閉じて、自分の感情を咀嚼するのに時間を当てた。

極楽洞に咲いている花
規則正しく配置された仏像

一応観光地なので、足つぼロードや付近を流れる川でボートに乗って風景を楽しむアクティビティがあったりなど、楽しんでもらえるような工夫もしてあった。

もっといたかったが、時間も押しており、みんなは一通り全部見終えてしまっていたようなので、極楽洞を後にして、次の観光地へ。

次はさらにイポーを南下して、当初から予定していた通り「HOGA, Gaharu Tea Valley Gopeng」というお茶のプランテーション農園とその周辺を開拓して観光地化した場所へ。

実は、イポーは「Cameron Highlands キャメロンハイランド」というマレーシアを代表する避暑地(日本でいう軽井沢みたいなとこ)が近くにあり、そこではお茶が名産なため、この辺でもお茶が取れるというわけであった。

お茶のプランテーションと聞いていたので、澄んだ青空に映える静岡の黄色がかった若い緑の段々茶畑を勝手にイメージし、わくわくしていた。

しかし、そこにあるのは熱帯ならどこにでもありそうな木、木、木。
「いやまあ、ここ敷地広いし、上の方でもいろいろアクティビティできるみたいだから行ってみるか」と上まで向かうバス代10rm(約330円)を支払い、ひとつめの停留所のカフェにやってきた。

ここでは、このプランテーションで取れたお茶が飲め、カフェのテラスからは先ほどの木が生い茂った森を眺めることができる。
「いや、確かにきれいではあるが、お茶はー、、どこ?」と友達も同じことを共有していたので安堵した。「みんなに見えてて、私にだけ見えないお茶だったらどうしよう」とありもしない不安に駆られた自分を恥じた。とりあえずカフェで売っていたここの名産のお茶を購入し、次の目的地へ。

カフェのテラスからの景色

色は明らかに麦茶だが、一口飲んでみると、麦茶よりはほんのり苦く、かといってウーロン茶ほど鋭くはない味わいで、このお茶にしか持っていない独特の風味を持っており、なんとも言語化しづらかったが、とにかくすっきり飲めるので個人的には好みだった。

かなり体によい。カフェインフリーなのもうれしい。

次の停留所では、そのお茶の庭園の中を歩けると聞いていたので「ようやく来た!!」と思っていたが、あたりにはあの木しか植えられてなく、その中をくまなく探してみたが、自分のイメージするお茶っぽいお茶はなかった。

次の停留所が最後であったが、最後は滝沿いの人工的な階段を下って、最初の出発地点に戻るだけだったので、結局私の見たかった憧れの茶畑は憧れのまま終わってしまった。

なんかよくわかんない場所だったなと思い、この記事を書くにあたっていろいろと調べてみると、私のこの観光地に対する株は急上昇した。

まず、あの木だが、あれぞまさしくお茶のもとであり、あの木の葉が茶葉になるという。白っぽくて細く長い木であり、なんかどこにでもありそうだなという印象を受けていたが、この木は「沈香(じんこう)」と呼ばれており、知る人ぞ知る香木である。

沈香のプランテーション

沈香といえば、樹脂が特徴的で、風雨や害虫からの防御反応により、ダメージを受けた部分の内部に分泌される。樹脂が蓄積したものを削って熱することで沈香特有の芳香を放つそうで、線香として活用されることがおおい。一部の地域では薬品としても活用されている。

その特性通り、樹脂を効率的に集めるのは非常に難しく、天然栽培により栽培された沈香のうち、なかでも最上級の出来のものは「伽羅(きゃら)」と呼ばれており、ほぼ金と同等の価値があるという。

驚くべきことに、あそこで栽培されている沈香はプランテーションという大規模栽培の方式をとっているものの、化学薬品を一切使っておらず、有機的な方法で沈香を栽培しているとのこと。要するに、めちゃめちゃ貴重な沈香なのだ!!

「なるほど、興味本位で嗅いだ木からした匂いは金のにおいだったのか。」と思ったが、当時はこの知識がなかったので、どんな匂いだったかさっぱり覚えていない。

だが、沈香の精油は世界で最も高い精油として有名だそうで、そのことを知ったとたん、脳が突然「高いんならいい匂いだったかも知れない」と処理したので、知識が生み出すバイアスの恐ろしさを意図せず体感して、気をつけなきゃなと思った。

とにかく沈香自体が貴重であり、あそこで育てられているのはその中でも丁寧に育てられている沈香なので、興味のある人はぜひ足を運んでほしい


結局ここを出発したのは15時をまわってからになってしまい、当初予定していた洞窟アドベンチャーができる「Gua Tempurung」は16:00にチケット売り場が閉まるので断念した。

もう、だいぶイポーの中心部から離れてしまったので、中心部に戻るのも面倒なので、そのままクアラルンプールに戻ることに。途中、山奥にあるほとんどの観光客がいかないだろう滝によったり、屋台でご飯を食べたりなどしたが、沸き立つ感情をつらつらと書いてしまいたい欲にかられ、絶対長くなるのが明らかだったので割愛。

帰りの車内では、一緒に同行していた日本人とずっと他愛もない話をしており、あっという間に大学に戻ってきてしまった。

「まだ、終わらないで」心の中で叫ぶ自分がいることにはっとした。大人になってした旅行の中でこう思ったのは初めてかもしれない。

自分の気づいた発見を共有できる人がいること。
共感してくれる人がいること。
逆に、自分に新しい気づきを与えてくれる人がいること。
一緒にご飯を食べる人がいること。
一緒に笑ってくれる人がいること、、、

この旅を振り返ってどの一瞬を切り取っても、幸せだったなと思う自分がいる。紛れもなく一緒に旅をしてくれた友人たちのおかげであって、恵まれていて有難いことだなぁとしみじみ感じた。
軽々しいことは重々承知で、実行が伴わなければ意味もないとは思うが、孤独を感じている人々に少しでも手を差し伸べれる人になれたらなと僭越ながら思った。

「また誰かと旅ができたらな、、、」
「今度は自分が誘ってみるか。」
いつも受け身な自分が前を向きだした実りある旅になったと思う。


ここまで読んでくださった方、本当にありがとう!!
以下には参考資料と今回登場したイポーの観光地をまとめたので興味がある方はぜひ!イポー、すんげぇいいところです!!

参考資料


今回行った&行きたかった場所の情報まとめ

1.Paris Restaurant

Hakka Meeを食べたとこ!他にもおいしいHakka Meeのお店はたくさんあるのでぜひ調べてみてね!
営業時間:毎日 7:00-11:30 朝だけ!!
価格帯:一人前 10rm(約300円)あれば大丈夫!!

2.極楽洞 Kek Look Tong

営業時間:毎日 8:00-16:30
入場料:なし

3.HOGA, Gaharu Tea Valley Gopeng

営業時間:9:15-18:00 火曜日定休
入場料:入場料自体はないが、上のカフェやアクティビティの場所に行くバス代は10rm(約330円)かかる

4.Gua Tempurung

営業時間:9:00-16:00
閉園は18:00だけどチケット売り場は16:00まで!!
入場料:参加するアクティビティによりますが最大で30rm(約990円)ぐらい!!気になる方は下のウェブサイトをチェック!


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