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大谷翔平選手のアプローチから、新事業における”フィジカルとスキル”を考える

新年あけましておめでとうございます。2024年、NEWhは創業4年目を迎えます。2023年は新事業開発プロジェクトはもちろん、新事業のためのインフラづくり(人材育成/組織開発/ワークフロー構築)に関わる機会いただきNEWhとして提供価値の”幅”を大きく拡げられた一年となりました。我々と共に歩んでいただき、心より感謝いたします。

さて、2024年のBDマガジンの書き初めは newh inspiration の第3回です。年末年始に出会った「NHKスペシャル メジャーリーガー大谷翔平 〜2023 伝説と代償 そして新たな章へ〜」と「直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍―経営の知的思考 伊丹 敬之著 」から感じたことを書いていきますね。では、はじめていきましょう。

大谷翔平が語るフィジカルとスキル

いつも楽しみにしているNHKスペシャル。NHKはTVerでは見られないので、この番組だけは録画予約しています。そんなNHKスペシャルで大谷翔平選手のインタビュー。これは見逃せないというわけで年末に視聴しました。そのなかで特に印象的だった2つの回答について紹介します。

1)大谷翔平が語るフィジカルとスキル

日本から米国に移籍した初年度のオープン戦で全く打てない状態となりチームの主軸であるプーホールズのアドバイスにより打撃フォームを変更して開幕戦でホームランを打ったというエピソードからトレーニングについての考え方を話すシーンがありました。

Q.変えることの怖さは全然無いですか?

「よりもやってみたいなという、試してみたいなというのが上回るんじゃないですかね。それで失敗することも多くありますけど、それは間違っていたんだなと思うだけで、また数年してそれがやりたくなって正解になることももちろんあるので。それは単純に、例えばフィジカルが追いついていない場合だったりとか、やりたいスキルに対してフィジカルが足りていない場合もありますし。 なのでそこは計画性を持って、特にフィジカルに関してはスキルと違って、一瞬で獲得できるものではないので、長いスケジュールの中で自分がどういうふうにフィジカルを鍛えていって、スキルとどういう風に照らし合わせていくかというのが計画性を持たないとできないので。特にフィジカルに関しては時期によって変わってきますし、難しいかなと思います」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231227/k10014300621000.html

2)何百打席と立たないと本当に正解なのか分からない

そして、トレーニングの結果、打撃/投球の技術とコツを掴むことについてはこう話しています。

Q.去年、ツーシームを投げ始めた時にも言っていましたけれど、実戦の場面でなければ試せないものですか?

恐らくこうだろう、恐らくこれが限りなく正解なんだろうなというものを練習でつかんだとしても、本当に正解なのかどうなのかというのは、それこそ試合に出ないと分からないし、何百打席と立たないと本当に確実にそれが正解なのか分からなかったりするので。それは試合に出続けないと自信をもって、例えば野球をやっている小学校の選手に対して、これが確実にバッティングの正解ですよと言えないと思います」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231227/k10014300621000.html

この大谷選手の回答で気付かされたのは、どれだけスキルを身につけようとしても、フィジカルが不足している場合は困難に直面することです。そして、フィジカルの向上は短期間で達成できるものではなく、長期的な計画と継続的なトレーニングが必要です。さらにそのスキルが最適解であるかは、実践を通してのみ検証し確立されるものである、いうことです。

新事業開発において大谷選手の考え方を適用すると、不確実性の高い時代において成果を上げるためには、書籍や研修で得た知識やスキルだけでは不十分であることがわかります。僕の経験上も、単に知識やスキルをなぞるだけでは、なんとなく整っただけのどこか足りていない新事業が生まれてしまう傾向にあります。そのような新事業では、経営からの承認を得るのが難しく、もし事業化しても環境の変化や困難に対応するのが困難になるでしょう。

魅力的な新事業を成功させていくには、知識やスキルを高度に使いこなしていくためのフィジカル、そしてフィジカルの獲得のための継続的なトレーニング、市場や技術の変化に対して柔軟に対応するマインドセットが求められます。それこそが、単に論理によって導き出される以上の事業を創り、実際に市場で成果を上げる可能性が高まる鍵になるのでは?と感じました。

でも、問題は、、、新事業開発にとっての「フィジカル」とはなんだろう?っていうことです。AIが普及期となり我々に求められるフィジカルって大きく変わりそうだな、などなど。そんなもやもやを解決していけそうなヒントになったのが「直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍―経営の知的思考 伊丹 敬之著 でした。

直感で発想し、論理で検証する。そして哲学で跳躍する

この本は、著者の伊丹さんが「はじめに」で説明しているように、経営の決断について書かれています。

経営の世界には、経営者の大きな決断も現場のマネジャーによる小さな決断も、さまざまな決断がある。その決断に至るまでの基本構造は、「直感で発想し、論理でその発想を検証し、そして検証した後に最後は哲学で跳躍をする」。跳躍の後に実行が始まり、それではじめて決断をしたことになるのだが、そこに至るまでに、発想では直感が、検証では論理が、跳躍では哲学が、それぞれ中心的役割を果たす。
したがって、直感が鈍ければいい発想は生まれず、論理力が低ければ発想の良し悪しの検証はうまくいかず、哲学があいまいなら検証でうじうじするだけで最後の跳躍はできない。こうした基本メッセージの枠組みの中で、直感の活かし方、論理の展開のポイント、哲学の意義などを概説している

はじめに より引用 ※太字は小池が強調

「直感で発想し、論理で検証し、哲学で跳躍する」という経営の決断の基本構造は、新事業開発のプロセスでも同様に有効です。具体的には、創造(発想)、構想(検証)、構築(跳躍)の三段階を経て、新事業の決断に至ります。また、それぞれのステップ内でも発想、検証、跳躍する小さなサイクルを意識的に設計し実行することで、成果につながりやすくなります。
さらに、引用の後半部分である「直感が鈍ければいい発想は生まれず、論理力が低ければ発想の良し悪しの検証はうまくいかず、哲学があいまいなら検証でうじうじするだけで最後の跳躍はできない。」という指摘は、僕らのプロジェクトでも、新事業に対する最終的な決断ができずに蓋をされてしまうケースをよく経験するので、僕の心をぐさっと突き刺さしてきます。

”フィジカル”とは直感を磨くこと

さて、ここからは本題である、新事業開発にとっての「フィジカル」とはなんだろう?という点です。(さまざまな学びがある本ですが、この記事では「フィジカル」に関わるところだけ書いていきます。本当におすすめなのでぜひ書籍を読んでみてくださいね。)

僕はこの本を読んで、新事業開発における「フィジカル」は「直感」であるという考えに至りました。つまり、大谷選手のフィジカルを鍛えることは、我々にとっては直感を磨くことであるというわけです。伊丹さんは直感についてこのように説明しています。

昔ある経営者から、
優れた経営者は、直感的に川の深さの目分量ができる。自分たちが渡るべき川か、渡れる川か、という目分量ができるものだ
という話を聞いたことがある。その通りだろうと思った。渡るべき川、渡れる川だと思えばこそ、そこではじめてそれが真剣な行動案として検討対象となる。くわしいデータ分析をしてはじめて行動案としての発想が生まれるというのではなく、行動案の候補は直感で発想し、しかしどれが最適かの選択の段階になってはじめて、分析やデータを使った論理的検証が重要になる、ということである。

伊丹 敬之. 直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍経営の知的思考(p.50). Kindle 版

優れた経営者は直感で重要な判断を下す能力があります。行動案を考える際に、まず直感に基づいて発想し、その後で分析やデータによる論理的な検証を行うのです

新事業開発においては、さまざまな事業環境の変化を本質的に理解した上で、「渡るべき川」を直感で判断し、それが正しいのか?実行できるのか?などの論理的な検証に進むことが重要です。観察、インタビュー、データ分析などの論理をいくら積み重ねても、そして生成AIがどんなに優れていようと「正解」は導き出せません。なぜなら正解は存在しないからです。論理は必要ですが、それだけでは発想や決断には不十分で、直感が重要な役割を担います。つまり、直感に基づく判断と論理的な分析をバランス良く組み合わせることが、新事業開発における成功への鍵となるのです。

「直感」は思いと論理の蓄積によって磨かれる

では「直感」をどのように磨いていけばいいのか?

三つの「直感の基盤の整備」である。それは、思いの凝縮、シャープで柔軟な問題意識、観察と経験の蓄積、という三つであった。日頃から、自らの思いがどんなものかをあえて考えるように意識することもいいだろう。それが思いをさらに凝縮させる。あるいは、問題意識のシャープさや柔軟さを向上させるために、自社の問題でない現象でも、鋭く切り込む思考の訓練、多方面からの意外なものも含んだ思考のクセをもつようにする、というのも一つの手段であろう。そして、さまざまなことに興味をもち、現実のディテールをきちんと観察するクセ、さまざまな経験を自ら買って出る姿勢、なども観察と経験の蓄積に役立つだろう。

伊丹 敬之. 直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍経営の知的思考(p.209). Kindle 版.

直感の基盤を整備する=フィジカルトレーニングためには、思いの凝縮、シャープで柔軟な問題意識、観察と経験の蓄積の3点が重要であると伊丹氏は説明しています。

新事業開発において、「思い」とは自分が成し遂げたいこと、理想的な未来など個人(もしくはチーム)のミッション・ビジョンが該当します。個人にない場合は、会社のミッション・ビジョンについて深く掘り下げてみるのもよいと思います。ミッション・ビジョンを脳内に凝縮させることで、新事業の判断軸が明確になります。そして長期的な「フィジカルトレーニング」の計画を立てやすくもなるでしょう。

「シャープで柔軟な問題意識」については、社会、産業、事業、顧客など、どのレイヤーでもよいですが、より構造的な問題について思考してみるのがよいと思います。顧客の課題の解像度を上げていくというよりは、大きな変化のドライバーである技術革新、社会常識、産業構造と現在の事業/サービスとのギャップが引き起こす問題とその根本的な理由について思考してみたらいかがでしょうか?インパクトのある事業は、メガトレンドとその影響に対する問題意識が前提となっていることがほとんどです。

「観察と経験の蓄積」については、実際の新事業の経験数を圧倒的に増やすのは短期的には難しいので、どれだけ「擬似的な経験」できるかが重要になります。そのためには「情報」をどのように取り扱っていくかがポイント。読書、リサーチなどによりインプットするだけではなくアウトプットをしていく習慣とつけていくようにしましょう。なぜなら、アプトプットすることではじめて、自らの頭で真剣に考えることになり「擬似的な経験」を増やすことができるからです。そのあたりの考え方は以下のnoteにまとめています。

また、矛盾するように聞こえますが、いい直感は論理の蓄積によって支えられていると僕は考えています。「フィジカルトレーニング」を特定のパターンやルールに従って実行することで、論理として蓄積し直感がはたらきやすくなります。例えば、様々な事例を同じテンプレートで研究し、差異を理解することや、問題意識や擬似的な経験を図解にして理解するなどの方法が有効です。論理をどのように蓄積し、脳内で利用可能な状態に保つかが、直感の発揮には重要なのです

最後に

大谷翔平選手が指摘するように、フィジカルの向上は短期的な取り組みではなく、長期にわたる計画と持続的なトレーニングが必要です。フィジカルが不足していると、スキルの活用が難しく、怪我のリスクも高まります。新事業開発においては、ノウハウの共通化やAIの活用により、スキルの差はさらになくなっていくでしょう。これからの新事業プロジェクトの成否や人材の価値を決めるのは、フィジカルだと思います。
そして、フィジカルトレーニングを継続するためには、市場や技術の変化に対して興味を持ちながら、柔軟に対応するマインドセットが必要になります。元も子もない話になってしまいますが、自分の仕事が好きであることが大前提になるんだろうなと、大谷選手がベースボールの話を楽しそうにする姿を見ながら思いました。

我々も本番である新事業プロジェクトを実行するだけではなく、長期的な視点でのフィジカルトレーニングを楽しみながら継続することで直感を磨いていきましょう。

最後に、グサっときた伊丹さんの言葉でこの記事は終わります。

論理なき直感は、外れやすい
論理なき哲学は、空回りする

直感なき論理は、貧しい
哲学なき論理は、悲しい

伊丹 敬之. 直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍経営の知的思考より抜粋

ではまた。

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