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【書評】松戸清裕『ソ連史』--この世の極楽とは?

 ウクライナで戦争をしているウクライナもロシアも、ともに元ソビエト連邦である。というわけでソ連の歴史を読んでみた。
 ふつうソ連関係の歴史と言うと、マルクスやレーニンといった経典の話が出てきて、そこからの引用やらとともにソ連社会が語られることが多いと思うのだが、この本は違う。
 経典の話は全然出てこない。そして実際のところはどうだったか、という話が続く。それがいい。
 で実際のところはと言うと、正直、むちゃくちゃな社会である。政府の都合で数千万人が殺される。計画経済で質より量が重視された結果、手抜きや嘘の報告が横行する。工場排水やなんかで環境問題問題が起こっても、企業も規制する側も両方が国家なので、結局は生産を優先してしまう。だから環境問題が解決できない。
 読めば読むほどこりゃ駄目だ、という感じが募っていくが、それでもソ連が70年ほど続いた、というのは驚異的である。恐らくソ連の普通の人たちが驚くほど日々頑張っていたからだろう。確かに、どういう政治がなされている場所でも、人は愛し合い、日々をきちんと生きるしかない。
 それにしても、こうした国がこの世の極楽と喧伝されていた20世紀というのはつくづく奇妙な時代だったと思う。

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