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α(アルファ)がもたらす生命科学革命

AlphaGo」を覚えている方は、まだ多いのではないでしょうか?
2016年に囲碁の世界チャンピオンを破ったDeepMind社のAIです。

実は同年に、Alphaを引き継ぐ「AlphaFold」というプロジェクトが静かにスタートしており、それが今生命科学の研究を一気に底上げする可能性を秘めています。

Foldとは直訳すると「折り畳み」を意味します。

一言で言うと、タンパク質の3次元折り畳み構造を解析するAIです。

一般的には、親から子への遺伝作用は、DNAからアミノ酸、それが合わさったペプチド、それが3次元に畳まれたタンパク質への形成を通じて発現されます。

影響を与えるのは、単なるDNA内の塩基配列情報だけではなく、そのタンパク質が物理的にどのような3次元構造をとっているかも影響することが分かってきました。

分かりやすい例では、主に脳の神経細胞に異常をもたらす「狂牛病」が挙げられます。

健康な牛と狂牛病に罹ったそれとでは、遺伝子情報の異常差異は認められず、「プリオン」というたんぱく質の物理的構造に異常があることが分かりました。

同類のことが分かってきて、その3次元構造解析が注目されていましたが、遺伝子配列を読み取る技術よりも難易度が高く、何十年も大きな解決策はない状態でした。

そういった膠着状態にブレークスルーを起こしたのが、AlphaFoldです。

丁度その経緯と今後の生命科学にどういった影響を及ぼすのかに触れた記事が公開されているので紹介しておきます。

上記サイトを踏まえて、そのポイントを記載しておきます。

まず、AlphaFold参入前より、この構造解析は結晶化させたX線解析や、最新電子顕微鏡で行われていましたが、非常にコストと労力がかかるやり方でした。
余談ですが、元々DNAの2重らせん階段構造も、それを結晶化させてX線で解析に成功したことが重要な役割を担っていました。

その課題解決を目的に、タンパク質の3次元構造解析をコンピュータで予測する国際コンテスト「CASP(タンパク質構造予測精密評価)」が1994年より行われていました。

じわじわと予測精度が高まってきた中で、2018年に参入して一気にその精度を高めて一位を獲得したのがAlphaFoldでした。今はそれを改良した2がリリースされています。

アルゴリズムはAlphaGo同様に深層学習(Deep Learining)を採用しており、ついに2020年にAlphaFold2での予測誤差は原子直径レベル(10のマイナス10乗スケール)にまで到達しました。

上記サイト内にある、従来からの(労力がかかる)X線結晶解析結果とAlphaFold2による予測結果をご覧ください。ぞくっとしませんか?

出所:上記サイト内のX線結晶解析画像
出所:上記のAlphaFold2予測画像

そして2021年に、このAlphaFold2のソースコードを公開して、誰でも利用できるサイトをオープンしました。下記サイトです。

さらには、DeepMind自身もバイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI)と共同で解析したタンパク質データベースを公開しています。

ヒトのタンパク質はヘモグロビンやコラーゲンなど約10万種類ですが、3割程度しか解明されていません。
ところが既に上記DBには100万種類が登録され、ヒトの未解明領域も明らかになりつつあります。

これによるインパクトは、もしかしたら従来と逆の発想を可能にするかもしれません。
というのも、従来は今あるタンパク質の構造を解明すること自体が精一杯でしたが、その構造が先んじて分かると、その結果を元に作りたいタンパク質を合成できる可能性をもたらします。

それを可能たらしめたのが「遺伝子編集技術」と「合成パーツ」です。
前者はノーベル賞も受賞したCRISPERのことを指します。こちらは良く報道されるのがその仕組みについては割愛します。要は簡単にDNA配列を編集できるようになりました。

合成パーツとは、「BioBrick」と呼ばれる標準化プロジェクトです。

生物を構成する部分要素は、ある程度標準化出来ることが分かっており、であればそれをさながら修理用パーツのごとく汎用化していこう、という企画です。iGEMというそのデバイス制作を競う国際コンテストもその普及に一役買っています。

まさにこの生命科学の革命は始まったばかりです。

しかも我々一般人には日常的に接することが少ない分野ですので、そのインパクトは医療などの具体的な貢献を通じて一気に広まると思います。

ただ、これは同時に誰でも生物をデザインできる時代の到来を示しているので、生命倫理とのバランスは忘れずに時代の節目(Fold)を乗り越えてほしいです。

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