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宇宙デブリとの衝突をギリギリで回避

宇宙デブリ(ゴミ)とあわや衝突して衛星が機能不全になるヒヤリとする事件がありました。

ようは、
ESAの衛星Swarmが8時間の緊急警報で宇宙デブリとの衝突を回避した、
という話です。

Swarmは地球磁気を計測する衛星で、名前の通り3つの衛星からなる群れ(Swarm)です。
そのうちの1つに8時間前に衝突検知警告がなされ、4時間で軌道修正計画をして残りの4時間で実行した、というなかなかスリリングな状況でした。

今後こういったケースは増えるかもしれませんが、簡単に今の現状と対策について公開情報からお伝えしようかなと思います。

今回の内容は、環境庁(元ネタはJAXA)が公開しているこちらを主に参考にしています。

宇宙デブリの94%以上が、人類が作った宇宙船・衛星の残骸です。場所は結構偏っていて、高度2000km以下の領域です。

参考:青が低軌道(高度2000km)で黒色が静止軌道(36000km)

より低軌道のほうが、エネルギー消費や地上データ解析の面でメリットがありますが、その分コントロールは難しいとされています。
そして技術革新や国際政治の影響を受けて、21世紀から民間や新興国による宇宙事業進出の増加に伴い衛星の数もふえています。

時系列でみた下記のデブリ数推移をご覧ください。

出所:環境庁「スペースデブリに対する最近の状況」(2020年6月)

20世紀までは増加ペースが一定ですが、21世紀はいくつかピークがあり、吹き出し解説のとおり実験や事故によるものです。

「デブリ化したものは次のデブリを生む障害物となるわけです」

これがまさに、宇宙デブリの脅威を物語っており、専門的には「ケスラーシンドローム」と呼ばれます。

で、だれも監視してないかというと、ソフトボール大の大きさであれば、米国国防省が全方位走査してお知らせしてくれるものがあります。(機関名:CSpOC:Combined Space Operations Center)
例えばJAXAが人工衛星を打ち上げるときに、その予測軌道をこの機関に登録しておくと、日次で報告してくれるわけです。

ただ、それにも限界があるのは冒頭記事でも明らかです。
日本を含めて宇宙衛星を打ち上げる主要国では、独自に宇宙デブリを避けるためのシステム(一般的には宇宙状況把握SSA(Space Situational Awareness))を開発しています。

日本ではJAXA主導のもと、岡山県に宇宙デブリ観測センターを立ち上げており、そのバージョンアップ版を2023年に稼働予定です。(低軌道衛星監視用。静止軌道向けは山口県で同年に稼働予定)

出所:岡山県の美星スペースガードセンターの光学観測設備外観。タイトル画像はその内観(Credit:JAXA)

結局は、自国のことは自国でも責任をもって守る必要があるわけです。

ただ、ISS(国際宇宙ステーション)のような国際的な施設だと結構扱いが厄介です。

実際に、2021年に宇宙デブリによる衝突被害は起こっています。

中国は独自に宇宙ステーションを開発し、つい最近ロシアが2024年以降にISSから脱退する表明をしたばかりで、独自路線を進むことが予想されます。

各国での自己責任とはいえ、宇宙空間では物理的障壁がないためそのリスクは他国の衛星に及んでしまいます。

こうなってくると、最低限の倫理規範とそれに基づく法規制の強制化を望みたいですが、現時点ではガイドラインにとどまっています。(細かくは衝突時での国への賠償責任を課す法律はありますが、あくまで加害者が特定できる状況)

そろそろ地上だけでなく宇宙での持続可能性について、専門家だけでなく我々も意識したほうがよいかもしれませんね。

その意味で、冒頭の事件はヒヤリハット事例として広く知られてほしいです。

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