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卑弥呼伝説を科学する

日本は3連休真っ盛りですが、私は以前から行きたかった吉野ケ里遺跡を訪れました。
行こうと思ったきっかけは6月の予備発掘で待望の有力者であろう墓が見つかったニュースです。

吉野ヶ里遺跡では、弥生時代中期の王の墓は見つかっていますが、邪馬台国があったとされる弥生時代後期の有力者の墓は見つかっていません。

高島さんは「吉野ヶ里の巨大な環ごう集落が形成された弥生後期とリンクする今回の墓の調査は『邪馬台国論争』にインパクトを与える発掘につながるのではと期待している」と話しています。

佐賀県では、今後2週間ほどかけて墓の内部を調査し、副葬品がないかなどを調べることにしていて、邪馬台国が存在したとされる時代の新たな手がかりの発見につながるかが注目されます。

出所:上記記事

「邪馬台国の場所と卑弥呼の死因」の謎がついに解明されるのか?
という甘酸っぱい期待です☺

現時点では、まだ発掘継続中でしたが、サイエンスで見た邪馬台国、そして卑弥呼伝説について触れてみます。

邪馬台国はAD2・3世紀に存在していたとされる国で、手がかりは当時三国に分かれていた中国で最大勢力を誇っていた魏の「魏志倭人伝」です。

この史書(といってもわずか2千文字)は、大まかに下記の情報が記載されています。
・邪馬台国への航路
・倭人の生活風景
・統率した卑弥呼について

このように、邪馬台国所在の手がかりはあるのですがやや曖昧で、
・九州説
・近畿説
という論争の引き金になっています。(他にも説はあるらしいですが割愛)

当時の倭国は争いが絶えず、それを収めたのが女王「卑弥呼」でした。
神のお告げを使った「巫女(またはシャーマン)」のような立ち位置で大衆に姿を見せずに統率した描写があります。(鬼道と表現)

なにより女王であることと、「死因に気になる点」があり、日本史ファンの心を今も掴んでいます。(私もその1一人)

出所:Wiki[卑弥呼]内の図で、 Toshihiro Harada氏の作品(タイトル画像も引用)

Wiki(自己責任で)によると、卑弥呼は対立国(狗奴国)と争いの最中、247-8年に亡くなってますが、結果だけで死因は言及してません。

実は卑弥呼が亡くなった時期には、珍しい「天文現象」が起こったことが知られています。

日本の天文学について過去にふれましたが(下記参照)、邪馬台国の数百年先に畿内で形成された「大和朝廷」になってやっと、中国由来の暦・占いを調べる技法が登場しました。

つまり、邪馬台国の時代には、天文現象は神秘的な現象として畏れらていたのではないかと思います。

その天文現象というのは「皆既日食」です。

実は、それが分かったのは20世紀末からで、日本の天文学者斎藤国治氏の貢献が大きいです。

斎藤氏は、旧東大を定年退官した後、在野で古来の天文現象を科学的に解析する「古天文学」を提唱しました。

余談ですが、古代遺跡の解析に最新科学機器が活用されているのは、過去にも紹介しました。

斎藤氏は、研究テーマの1つとして、卑弥呼が亡くなった時期に起こった皆既日食がどのように見られるのかを調べたわけです。

もう少し丁寧に背景を補足すると、
この皆既日食が卑弥呼の死に関係していたのではないか?
という仮説に基づきます。

ここは角を立てないように、私の意見または想像、としておきます。(思いが強い方は多いと思料・・・)

真昼間に皆既日食が起こると世界が闇に包まれたかのようになり、さながら神の怒りを連想させます。

その神と唯一やり取りをしていたのは卑弥呼です。そして上述の通り、当時対立国との争いは続いており、その統率を担う卑弥呼への風当たりは強かったのではないでしょうか?

つまり、彼女にその外部環境の責任を取らせるために、その魂を差し出すことにした、という発想です。(道義的な価値観はふれないで・・・)

この仮説に従うと、皆既日食は明るい昼間に起こる必要があります。

斎藤氏の原案はほかの専門家も刺激し(人気の証拠ですね☺)、より精緻な研究に発展しています。

斎藤氏の原案では、自転周期を一定、としていましたが、実は微妙に変化しています。

その原動力は、海の満ち欠けで有名な潮汐力、もっと言えば月や太陽など他天体からの重力作用によるものです。

微小な変化ですが、今回のような数千年で見ると無視できません。今でも古文書の日食状況からその変化を探索する研究もおこなわれています。(1つだけ引用)

冗長になりましたが、下記で比較的最新の成果を紹介しています。

ΔT=TT(理論計算)-UT(実測値。こちらがファクト)
としていますが、出所によって解釈の余地があります。(今回は中国の史書の記載からUT値を解釈)

ΔT=7750秒:大宰府(九州説)で皆既日食、飛鳥(近畿説)は日没後
ΔT=8500秒:大宰府でほぼ皆既、飛鳥は日没後
ΔT=8900秒:大宰府でほぼ皆既、飛鳥は日没後
ΔT=9700秒:大宰府でほぼ皆既、飛鳥は皆既日食

つまり、
九州のほうが明るいときに真っ暗になる天文現象が起こる可能性が高い
というわけです。

もちろんこれだけで邪馬台国の場所論争を決着させる物的証拠とはなりえませんが、科学が古代の謎を解き明かせるひみつ道具にはなるでしょう。

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