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遺伝子という物質は幻想だった!?

「遺伝子とは何?」と聞くと、ある程度関心のある方は「DNA」と回答すると思います。

ところが、21世紀の研究を通じてそんな簡単なことではないことが分かってきます。

丁度それを簡易に説明する連載が始まってますので紹介しておきます。

要は、
親から子へ伝わる遺伝子情報はDNAの塩基配列と思われていたが、環境で受けた刺激が子孫に伝わる現象を明らかにした、
という話です。

もう少し補足すると、生殖細胞内にあるDNAの塩基配列は確かに継承されますが、1つ1つを電球だとすると稼働させるスイッチの機構があることが分かってきました。

スイッチにもいくつか機構があり、総称して「エピジェネティクス」と呼ばれます。
ジェネティクスは元々「遺伝学」を意味する英単語なので分かりやすいですが、「エピ」とは「~より上の」を意味する接頭辞です。

上記サイトでは、マウスに恐怖を与えると、その反応が子供にも継承される実験を引用しています。

ふーん、と流すかもしれませんが、実はこれ結構謎が深まります。

繰り返しですが、DNA継承はいわゆる生殖細胞経由で引き継がれます。ところが、外敵環境による刺激はそれと物理的に離れた感覚細胞が反応します。

この物理的に離れた細胞間を媒介する「何か」が必要なのです。

その仮説が「エクソソーム内にあるRNA」です。

RNAはともかくエクソソームは、なかなかなじみがない用語だと思います。
ざっくりいうと、「細胞間を旅する謎のコブクロ」で、近年この研究が進んでいます。

ちょっと余談ですが、今回のRNA(核酸)だけでなくタンパク質・糖など生体活動に必須の物質を含み、かつあらゆる細胞で分泌されているだろうと目されています。

最近、ちょうど東北大学がその輸送機構に関する興味深い研究発表を行っています。なんと神経疾患の代表格である「パーキンソン病」との連関についても示唆しています。

今回の趣旨では、主役は遺伝を司るRNAなのでこれ以上は深入りしませんが、「エクソソーム」は今注目の銘柄(?)です。

その伝達される物質がRNAなわけです。
あくまで仮説ですが、他の実験である程度解明されています。
具体的には、RNAを受精したばかりの生殖細胞に注入することで、実際にその性格が変わったという実験です。

ということで、ある程度仮説の確度は高まってきました。

最後の謎は、外的刺激に影響を受けたRNAが生殖細胞に到着して、どのように作用するのか?です。

今までの遺伝プロセスは、
「DNA」内の塩基配列情報を引きついでタンパク質に変換(セントラルドグマ)
でしたが、これにどのようにRNAが関わるのか?というものです。

まさにこれが、上記で総称した遺伝子のスイッチを制御する「エピジェネティクス」です。

実はこの仕組みを解明しようという野心的な試みが現在進行形で進められています。

そのなかで最大級のプロジェクトが、過去に米国を中心におこなわれた「ヒトゲノム」計画の発展版にあたる「ENCODE」計画です。

下記が公式サイトです。

ヒトゲノム計画は、ヒト(サンプル)のDNA内にある塩基配列情報を解読するプロジェクトで、一旦無駄に見える箇所を覗いて2003年に完了報告されました。
丁度今年に割愛した箇所も解読してパーフェクト達成の記事も出ています。


結果として遺伝子の数は約2万個であることが分かり、これはマウスなど他の哺乳類に比較して際立ったものではないです。(もっといえばヒトよりはるかに遺伝子の数が多い種もいます)

つまり、遺伝子の絶対数は生物の複雑さ(知能獲得含む)を表すものではないことがヒトゲノム計画で分かってきました。

そしてその謎を埋めるのが、エピジェネティクスであり、その解明を目指した「ENCODE」計画というわけです。

既に段階的に成果物が発表され、スイッチの数は少なくともスケールとしては数十万・百万(スイッチ自体も複数種類)であることが分かってきました。

つまり、遺伝学の視点で人類を複雑たらしめているのはこういった機構ではないか?ということが見えているとも言えます。

そうなると、そもそも「遺伝子とは?」という問いへの回答も変わってきます。

仮にこの一連の考え方が正しいとした場合、現時点でいえることは、
遺伝子とは、

複数の物質の相互作用からなるダイナミックなシステム

ということです。

ある意味話が複雑になってもやもやするかもしれませんが、コンピュータシミュレーションも活用しながら、この新しい土地が開拓されて生命科学のステージが1つ上がっていくのだろうと予想されます。

今回の内容は、冒頭記事著者が刊行した下記の書籍で非常に分かりやすく解説されていますので、もっと深く知りたい方にはお勧めです。

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