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凡人イノベーションと量子力学

ビジネスの世界で最も使われる言葉は「イノベーション」かもしれません。
何となく「発明」を連想し、人によっては一部の天才によって行われる特別なひらめきと感じるかもしれません。

こんな記事が目に留まりました。

タイトルの通りですね。とても共感します。

産業だけでなく、基礎科学においても各分野が高度化・複雑化しており、一人の天才による発見が世の中を変える、ということはほぼ不可能ではないかと思います。(それを成し遂げた最後はアインシュタインかもしれません)

文中に、「20世紀半ばに量子力学が生まれ、それから100年を待たずに半導体やコンピュータが生まれ第4次産業革命が起こった」とありますが、今年ノーベル賞で話題になった「量子力学」は多数の人の知恵を結集した結晶ともいえます。

丁度今、日本企業が出資して新しい半導体製造会社を作ろうとしています。1つだけ記事を引用しておきます。

タイトルに「雪辱」とありますが、過去は一時期日本勢が寡占していました。
今は米国・韓国・台湾、そして中国が上位を占めています。特に中国は今年初めて半導体系の論文数が1位になりました。

この半導体は、我々のコンピュータの基本動作を支える極めて重要な要素技術で、「量子力学」の原理を利用したものです。

量子力学は、原子レベルのミクロな世界で起こる奇妙な法則で、我々が観測するまでは位置と運動量を同時に把握することが出来ない、という原理があります。
アインシュタインは相対性理論で世間と真逆の発想で世の中を一変しましたが、この理論に対しては皮肉にも彼自身が既存の枠組みに固執し続けました。ただ、その反論が量子力学の発展を進めたのも事実です。

今ではその原理はある程度受け入れられ、その応用として情報理論・化学・生物学などその範囲は広がっています。

半導体は名前のとおり、電気を通しやすい導体と通さない絶縁体の中間にあたるところから名付けられました。

コンピュータは電子回路から出来ており、そのスイッチONとOFFで二進数を表現して演算をします。その通す・通さないという表現に半導体が適していたということです。
そのスイッチ切り替えを担うデバイスが「トランジスタ」で、ベル研究所が1940年代に発明したとされてますが、その基礎理論は以前から知られていました。

量子力学の効果が感じやすい現象に、半導体で起こる「トンネル効果」というものがあります。初期のトランジスタ不良を解析している過程で発見されたものです。

1つ分かりやすい例を紹介します。

下記のアニメーションの中間にある壁は、古典理論では絶対に越えられないのですが、量子力学では波の性質をもちその存在は確率的なので、「原理的」に壁を越えた領域にも存在しています。

出所:トンネル効果

トランジスタの解析から上記のような効果を発見し、ノーベル物理学賞を受賞したのが江崎玲於奈です。江崎氏が考案したものは「エザキダイオード」とも呼ばれています。

基礎物理の話題で言えば、原子核崩壊(α崩壊と呼びます)も従来の理論では説明がつかなかったのですが、トンネル効果(量子力学)で初めて説明がつきます。
ちなみに提唱者は「ビッグバン」の伝道師としても名高いジョージ・ガモフです。

デジタルコンピュータの基本動作を支える半導体、そしてさらに高速化を目指す次世代型「量子コンピュータ」は、名が表すようにその理論の持つ不思議な性質をもっと大胆に計算に使おうというものです。

日本政府も、量子力学を活用した施策を「量子技術イノベーション」と名付けており、まさにこれからが我々にとってのイノベーションの時代です。

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