夜風

読書とほのぼのすることが好きです。図書館に棲みたい。

夜風

読書とほのぼのすることが好きです。図書館に棲みたい。

最近の記事

脱走中②

「入院するー?」 ほわーんとした声で主治医が聞いた。仰々しい単語に思わず怯む。 入院なんて大袈裟な。病気や怪我で手術をするわけじゃないのに、そんなことにお金を使うなんて父親や祖母が許すはずない。 月一から始まった精神科受診は、月二回、三回と頻度を増し、そのうち毎週になった。 受診するたび、「また病院に行ったんか!」と祖母は叱責する。 お金ばっかりかかる! 病院に行くから頭がおかしくなるんじゃ! 薬も飲むな! 世間体が悪い! 怒りの矛先は父親にも向き、「お前が怒るばっかりす

    • 脱走中①

      脱走癖のある子供だった。 大人の目を盗んでは保育園から逃げ出して捕まっていた。 問題児だったと思う。 逃げ出してどこに行けるかもわからないのに、園と家だけが世界の全てだったくせに、私は逃げたくて仕方なかった。 逃げたら知らない大人が私を見つけて、児童養護施設に連れて行ってくれるんだと夢見ていた。 山と田んぼと畑と川。お隣さんは坂の上や橋の向こうで、みんな名字が同じ。坂の上にあるのが本家。その周りにあるのが分家。うちも分家。 小学校にあがるまで、本家以外の近所の人を知らなかっ

      • 有川ひろ(敬称略)が好きだ

        言いたいことは全てタイトルに書いた。有川さんが好きだ。 みなさんご存知の小説家・有川ひろ(敬称略)。 このタイトルでこのnoteを読もうとしたあなたもきっと有川ファンなので、有川さんについての説明はこれで足りる。 私はこれまで何度も、有川さんが好きだと書こうとしては諦めてきた。有川さんのどんなところが好きなのか、いざ書こうとすると手が止まるからだ。 当然ながら私は有川さん本人と面識はないので、有川さんの紡ぐ物語や文章が好きということになる。だから作品について語ればいいはず。

        • 誰か創作を止めてくれ

          書かずにはいられない。 スイッチは突然入る。 自分でも予期せぬタイミングでぶわっと粟立つのだ。ああああまたか! 今かよ!! 来たら最後、うわーんと泣き言を漏らしながらPCを立ち上げるか筆記用具を取り出すしかなくなる。 私がこれをコントロールできた試しはない。暴走とも呼べる衝動が雪崩のように押し寄せるので、書くしかなくなる。書かないと潰される息ができなくなる。なんでなんですかなんなんですかこれ。 同じような人いませんか。これを飼いならしてる人いたら教えてください。 いつか

        脱走中②

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした⑥

          「何が食べたい?」と友人が尋ねる。 「ざくざくしたもの」と私が答える。 「ざくざく? 揚げ物?」友人が聞き返す。 「れんこんとか、ごぼうとか、たけのことか」思い出しながら答える。 「何が食べたい?」と友人が尋ねる。 「あったかいもの」と私が答える。 「パン? 麺? ごはん?」友人が聞き返す。 「パンではない。麺かごはん。白いごはんは嫌」思い浮かべながら答える。 私の感覚的な答えを、友人が具体的な名前に置き換える。 やりとりは会うたびに繰り返された。 「何が食べたい?」

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした⑥

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした⑤

          満腹感ってなんだ。 何度か低血糖でふらつきながらも、「空腹感」は掴めるようになった。 だけど「満腹感」はわからないまま。 苦しくなるまで胃に詰め込んで、吐いて調節する。「苦しい」と「満腹感」はきっと違うのだろうと思いながら。 お気付きのとおり、「好き嫌いするな。出されたものは残さず食べろ」教育の賜物である。大成功だ。 この頃、新しい友人ができた。 よく気にかけてくれ、食事に連れ出してくれる。 どうしよう、ありがたいけれど「おいしい」がわからないから申し訳ない、とここでも

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした⑤

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした④

          一人暮らし5年目の冬。 私は適応障害からの休職→退職→無職のコンボを決めた。 布団の中で終わる一日。 夜10時に寝ても、目が覚めると夕方になっている。 これだけ寝たんだから充分だろうと起き上がっても、身体に力が入らず横たわる。 24時間のうち12時間以上が睡眠。脱水による吐き気で目が覚めていた。 こんなときでも私の中の優等生が叱咤する。 怠けちゃいけない! 一日中寝てばかりなんだから、せめて金銭管理くらいはちゃんとしないと! 予算を決めて、食費を削って、できるだけお金を使

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした④

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした③

          ごはんを食べるのが怖いなら、お菓子を食べればいいじゃない。 それは合理的に思えた。 ごはんを食べなければ料理や食事や後片付けのタスクも減る。 怖い思いをしてごはんを用意し、追い詰められながら食べるという一人SMもしなくて済む。 そっかー、ごはんを食べなければよかったんだー! 夕飯がお菓子になった。 わかりやすい味がした。甘い。辛い。私でも味がわかる。 スーパーに行かなくなった。 お菓子だけ買えばいいのでコンビニで事足りる。 朝はコンビニのジュース。 昼はコンビニのゼリー

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした③

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした②

          一人暮らしの食費節約法といえば、食材のまとめ買いや作り置き。 ごはんもまとめて炊いて、小分けにして冷凍保存。 自炊やお弁当を作るのは当然。 飲み物は買わずに水筒を利用。 コンビニではなくスーパーで買い物をする。等々。 一人暮らし初期、スマホで知識を得た私は早速実践した。 レシピの手順通りに作る。できたものを食べる。洗い物をする。 こなすべきタスクは明確だ。 だが、早々に破綻した。 一刻も早く胃に流し込んで嘔吐する。 私にはそれ以外の食習慣がなかった。 一人暮らしなのだか

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした②

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした①

          「好き嫌いなく、残さず食べましょう」 子供の頃、そうしつけられた人は多いのではないか。 バランス良く栄養を摂ることは健康に過ごす上でも大切だ。 命をいただくことや、食事を用意してもらうことへの感謝の気持ちも大切だと思う。 ただ、何事もほどほどというものがある。 私も「好き嫌いするな。出されたものは残さず食べろ」という方針で育った。 だから食事中は殴られても逃げられない地獄の時間だった。 「好き嫌いするな。出されたものは残さず食べろ」 食べなければ食べないで殴られる。 食

          ごはんをゴミ箱に捨てたらほっとした①

          一瞬だけ人間になった

          特別養護老人ホームで清掃アルバイトをしていた頃、目の前で咳き込みはじめた利用者を見て私は呆然とした。 身体は硬直して、ただ眺めることしかできなかった。 怒られる、と思ったからだ。 恐らく数秒以内に誰かが私を怒鳴りに来る。 なぜなら私は目の前で咳き込む利用者に何をするでもなく、ただ棒立ちになっているからだ。 であれば、私がすべきことはこの場から逃げずに怒られることに違いなかった。 「お前は自分のことしか考えてない」 「気が利かない」 親から繰り返し怒鳴られ殴られた記憶がよ

          一瞬だけ人間になった

          白菜で味覚博打

          白菜を買いました。 なぜって一人鍋をするためです。 汁物っていいですよね。 食べることが苦手な私でも、 「これは汁物だよ。食事ではないよ」 とうやむやにすれば食べてくれます。 料理を忌み嫌う私にも有効です。 「これは地球上の葉っぱや菌類を加工肉とともに加熱してほったらかすだけだよ」 とそそのかせば、それなら料理じゃないなと信じてくれます。 扱いやすい自分で助かります。 ところでご存知ですか? 白菜って甘いんです。 私は「野菜の甘み」なんて単語を長年信用していなかったの

          白菜で味覚博打

          許すまじ。お前呼ばわり

          ノリと勢いで引越してみた。 なんなら、つい先月も引越したばかりだった。 無職なのに連続で引越すなんて、と思わなくもない。 でもほら、思い出してほしい。 この災害大国日本において、老衰まで安全に暮らせる保証なんてどこにもない。 2週間後に事故に巻き込まれてうっかり死ぬ可能性だってあり得る。 そう考えると、やっぱりこれでよかったと思う。 だってあの部屋、下水臭が充満してたし。 蛇口も全滅だったし。 すべての蛇口から水漏れする賃貸に住んだことがありますか? 私はあります。 で

          許すまじ。お前呼ばわり