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Psy-Borg3~邂逅㉚
「左衛門です、伝馬町、人形師の左衛門と申します。火急の事、失礼ながら門を開けてくだせえ」
彼はできる限りの力で門を叩いた。
「どうした、ひでえ傷だ。おめえも夢千代にやられたってのかい」
勝手門から先日の門衛が出てくると、うずくまる左衛門を見て驚いた様子で、駆け寄ってきた。
「そんなこたぁどうでもいい、蔵、蔵を見せてくれ」
その騒ぎを聞いて、数人が勝手口から顔を出した。その中に新門辰五郎も
Psy-Borg3~邂逅㉙
浅草奥山「てめえ…何を」
ゆっくりと短刀を抜くと、見る間に着物が赤く染まる。
「毎日あいつの顔をみながら、俺はいつも問うていたよ。俺はまだ大丈夫か、抜け出せるか、立ち上がることができるか、真っ当に生きていけるかってな」
左衛門は傷口を抑えてうずくまり、男の顔を見上げた。
「でも人形は何も返しちゃくれねえ、ただ優しく見つめるだけだ。でも、人形に魂なんざ入らねえ。あいつの心が鏡だったんだからな
Psy-Borg3~邂逅㉘
そして優しい笑顔のまま良介を見つめながら話し始めた。
「心配してくれてありがとう。月島華音にそんな事はさせないわ、安心してほしい。ただ…」
「ただ…何ですか?」
「なんでこの時間のよどみにあなたがいるのか、あなた自身が理解できないと思うの。でも、どうしてもこの顛末を最後まで見届けてほしいの、あなたに…」
良介を、何か抗えないような大きな意識が包み込む。彼は覚悟したようにコクリとうなづいた、
Psy-Borg3~邂逅㉖
「どんなに抵抗したくても、自分の力では抗えない時の流れが、飢えという暴力が容赦なく私たちを襲ってくる。それも何年も何年も…。雑草や木の根を食い、時には牛馬の腐肉をあさり、時には…」
そう言って、彼女は自分の腹部を見つめ、まるでそこに自分の赤子を宿しているように、ゆっくりと撫でた。
その様子を見て、良介はゾッと背筋の凍る思いがした。
今は屋内で餓死をする者もいるという。しかし、金銭不足の購買力
Psy-Borg3~邂逅㉕
「わかってたよ、そんなこと。わかってたから許せなかったんだ。俺自身をよ」
そういってゆっくりと近づいてきた。左衛門は身構えを解いて、その様子を眺めていた。
「いつまでもあいつの影を追ってる俺をよ。真っ当に生きてくれと、そう言って離れたあいつの心を、何も受け取っていなかったのはおいら自身だ。こんなに近いのに。近いから目が眩んでたのか。あいつはいつでも俺の鏡だった。性根を映す鏡だった」
左右に力
Psy-Borg3~邂逅㉔
夢千代は顔も、体つきも、声もどこもお千代と似ているところがなかったが、なぜか彼女の姿を重ね合わせていた。
それでも長く時間を共にすれば、情も移ってくる。何度も夢千代を抱きたい誘惑に駆られた。しかし、肌を合わせたら、お千代を汚してしまいそうで、ひたすら自分に言い聞かせて人形作りに没頭した。
そんな左衛門の気持ちを知ってか知らずか、ある日夢千代は彼にしなだれかかり、彼もたまらず彼女を抱きしめた。
Psy-Borg3~邂逅㉓
「私はそんな菩薩に近づきたかった。暗く淀んだ想いの奥にあるその人の良心を映し出す。そんなことって不可能かしら。人の心に感応して、それを映し出す鏡。満たされない半身を鏡に変えて、人の持っている仏心を導くような。そんなことができないかって」
日にどのくらい他人のことを思ったりするのだろう。自分の利益を考えずに、純粋にその人の幸せのためだけに気持ちを寄せる事なんてできるのだろうか?
親として、子とし
Psy-Borg3~邂逅⑱
「あいつがいなくなってからよ、俺はもう俺じゃねえ気がしちまってな」
そういうと、力を抜いて腕を垂らし肩を落とした。
「行くあてもなくなって、ここの頭に拾われたのさ」
そう言って裏手の塀の外を顎で指した。左衛門はそちらのほうに視線を向ける。その意味を探ろうと頭を巡らせたが、一向にわからない。
「わからねえのか?」
男は諦めたような、それでいてこちらを蔑むような表情を見せた。
「俺たちはな