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好きな人と一緒になれない、バングラデシュの青年の話

去年の終わりころ、バングラデシュ人の男の子と友達になった。オンライン英会話を初めて1年以上経ち意思疎通と雑談には困らなくなったが、活きた英語を使い続けるためにいろんな国の人と話したかったので、英語での軽いチャットに付き合ってくれるような人を探して海外の語学学習をメインとしたペンパルサイトを利用していたころ、彼が話しかけてくれた。
彼のおじさんが日本語学校をやっていて今まで何人もの生徒を日本へ送り出した。自分も日本にとても興味あり、近い将来日本で映像技術を学びたいから日本語を勉強中なのだという。
彼はこのペンパルサイトで何人もの日本人(英語を学びたい人)に「私が英語を話すのでときどき日本語を教えてほしい」と言ったが相手にされなかった、と言った。私が「初めてまともに取り合ってくれた」のだそうだ。

彼は現在、バングラデシュの首都・ダッカの、とても勢いのある映像会社で映像編集クリエイターとして働いている。彼の会社「ダッカライブ」は、大統領や各大臣の演説をライブ配信したり、海軍のプロモーションビデオを撮影したりと、国や行政、自治体の仕事を受けている実力派の映像会社で、彼もたびたび大きなイベントやシンポジウムで仕事をしている。バングラデシュのコカコーラのプロモーションミュージックを作ったりと、彼がときどき共有してくれる仕事の内容はとても興味深い。彼の作る映像はとても面白いし、美しい。

さらに彼はYouTuberとしても活躍し、フォロワーは4万人を超えている。
正直、けして最先端とは言えず勢いもあるとは言えない今の日本より、今の彼の立場でいる方が収入など諸々含めてもいいのでは?と思うけれど、まだ若い彼だから海外を経験するのもいいと思う。

そんな彼とは、3日に一回くらいの割合で、英語と少しの日本語を交えてチャットしたり、ときどきビデオ通話をする。日本語能力検定に向けて漢字を勉強中らしく、ここ数日は特に苦戦しているようだ。
昨日はチャットで
「なんで漢字を覚えないといけないの?ひらがなとカタカナあるやん!それでいいやん!」
と弱音を吐いていた。
「うん、それは日本の小学生が一度は思うことなのよ」
と返しておいた。
私が
「漢字がなかったら多分日本語ってよみにくいよ?」
と返すと
「なんで聖徳太子は中国行って漢字持って帰ってきたのさ!おかげで日本語が難しいじゃん!」
と悲痛な叫び。
「でも、聖徳太子の頃はたしかひらがなもカタカナもないはずだから、なんやったら漢字が先だと思うよ、日本語は」
というと、他の話にすり替えられた(笑)


唐突に「私が作りました」と映像が送られてきた。
動画の中で彼は可愛い子とダンスしていた。ので、冗談で「ガールフレンド?」とメッセージを返すと(前彼女いないって言ってた)、彼は「そう。でも彼女を恋人にする気はない」といった。
どうして?と聞くと、
"Both our religions are different. Marriage between two different religions is not allowed in Bangladesh due to social influence.
バングラデシュでは宗教の違う男女は社会的影響から結婚することを許されていない)
と彼は答えた。

バングラデシュではほとんどの人がイスラム教だけど、他の宗教もあったり宗派が違ったりといろいろあって、同じ宗教じゃないと結婚は認められないのだそうだ。
彼女とは宗教が違うことをわかっていたから、恋に落ちるつもりはなかった。ここまで好きになるとは思っていなかった、私たちは本当に愛し合っているのにつらい、と。

「それって悲しい。家族も重要だけど、宗教も大事。でも、愛する人も大事だよね」
と私が言うと、
"Now she and I are both suffering."(私も彼女も今とても苦しんでいる)
と彼は答えた。神様が許してくれない限り可能性はない、と。

「もし将来、本当にあなたたちが一緒になりたいとしたら家族のもとを去るしかないし、それって辛いよね」と言うと、彼は「家族の元を去ることは、私も彼女も考えていない」と即答した。
「えっじゃぁさ、君はそのうち日本に来るじゃん?仕事も順調で日本に長く住むことになったとして、もし日本人と恋に落ちたとしたらどうするの?例えばだけど」
と聞くと、
「……考えたことなかった」
と言った。
(宗教も含めたデリケートな問題に首を突っ込んでいるけど、彼にちゃんと了解とって質問してます

そのあと、二人で撮った写真を見せてくれたので、「デートはOKなの?」と聞くと「デートはOK、結婚はNG」と。

このご時世に、iPhone持っててSNSもあって日本と全く同じようにフェスに参加してライブに参加してイベントに参加してお酒を飲んでYouTubeも配信してと最新のテクノロジーに触れている彼が、大好きな相手と結婚できないということに、あまりにもギャップを感じた。
なんて悲しい話なんだろ。
デートまでして結婚はさせてもらえへんのかい。そして、宗教の違う人と結婚するなんて考えたこともなかったなんて、日本のように自由が許されている国の価値観で育った私はクラクラした。

" I respect your religion. But these are not the times we live in anymore."
(あなたの宗教を敬意を払います。でも、今はもうそんな時代でもないよね)
と私が言うと、彼は私のメッセージに「❤️」という反応をしただけだった。
きっと、そう思ってはいるけれど言葉にはできない、しないのだと思う。


なんて切ない話だろう。2024年に。
いや、2024年だぞ、と思うのはこの自由で安全な日本という国に住んでいるお気楽おばさんだからだろう。
外国の文化に触れるということは、私たちが想像できない価値観に触れるということ。
家のしがらみとかそういうこと以上の何か大きなもの、大きな大きな価値観に従わないといけない。というか従うという考えまでもないのかもしれない。
好きな相手と一緒になることやそれを祝福してもらうことも叶わない。終わりが来るのをわかっているのに、今を過ごす。
なんてせつない話なんだろう。

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