見出し画像

『夏物語』(川上未映子)をこれから読みます日記

唐突ですがわたしのしごとは教育関係の事務です。

***

しごとでたびたび目にする「文責」という文言がある。
「文責」を目にすると、責められてるような気分になる。
わたしはじぶんの文章に責任を持つことをしてこなかった。

***

唐突ですがわたしはギリめの昭和生まれです。

***

高校生になったら携帯を買ってもらえた。
クラスの半数以上が持ってたけど、持ってない子も珍しくはなかった。
カメラ機能なんて普及してなかったから写メよりプリクラだった。
携帯で何をするかっていうとメールと電話だった。
女子高に通っていた。
親から携帯を買ってもらった途端、彼氏ができる子とかいた。
そういうの、おもしろかった。
魔法のiランドとかはあったけど、携帯はやっぱりメールと電話だった。
その頃は家にデスクトップのパソコンがあった。
だから、インターネットとの付き合いは高校生頃からのスタートだ。
とはいえ、インターネット空間にじぶんの文章を投げた最初の一投は何だったのか、全然思い出せない。
インターネットとの初期の付き合いは、検索だった。
家のパソコンの前に座って、ヤフーの小窓に向き合う。
なにか調べたいことがあってパソコンをつけるのではなく、パソコンをつけたからなにか調べたいものを捻りだす。
という、感じだった。
インターネット=検索エンジンだった。

転機は友人だった。
高校の友人のひとりが、インターネットで日記をつけていた。
当時はブログなんて言葉はなかった(あるいは知らなかった)。
友人は「無料レンタル日記」というサービスに登録して、インターネット上に死ぬほどおもしろい日記をつけていた。
その友人からは「侍魂」も教えてもらった。
すぐにわたしも登録した。
レンタル日記のほかにも、「無料レンタル掲示板」などに登録して、仲のよい友人とネット上で交換日記的な遊びをしていた。

気軽だった。ものすごい気軽。
「文責」なんて考えたこともなかった。
べつに拡散されたところで問題になるような書き込みをしていたわけではない。
他愛なくてくだらなくて最高で最低なことばかり書いてきた。
そして、しばしば唐突に恥ずかしくなって投稿を消した。
大学生の頃はmixiだった。
ブログやSNSは、手当たり次第無節操に登録した。
そういえば「キヌガサ」というSNSが好きだったけどいつの間にかなくなってた。
登録のためにはメールアドレスが必要で、大学時代は在学生用のメールアドレスを使ったりもした。
もちろん卒業後は使えなくなるので、そのアドレスで登録したブログをいまやどうすることもできないでいる。
なんか方法はあるのかもしれないけど、調べてない。

「文責」なんて考えたこともなかった。
わたしは病的にこまめに投稿を消していったし、病的にこまめにアカウントを削除してきた。
mixiもアカウントごと消した。

わたしはわたし自身へたいする「文責」を考えておくべきだった。
無数に書き散らかしてきたネット上への投稿。
それらと再会できる手立てはもうほぼない。

***

川上未映子さんの新作だ~と思って、今月は文学界を買った。
最初の数ページを読んだ。
乳と卵…
びっくりした。
『乳と卵』いつ読んだっけ、と思って、振り返った。
たしか「読書メーター」に感想書いた気がするから調べた。
けど、なかった。
読書メーターのアカウントも消してた。
なんで消したのか忘れた。定期的に消す病気なので。
そこではたち頃から書いている日記のようなノート(紙)を読み返そうと思ったけど、しまい込んでるので引っ張り出すのが億劫でやめた。何冊もあるどのノートに書いたのかわからないし、そもそも『乳と卵』のことを書いたのか覚えてない。

『乳と卵』を読んだときのじぶんの感想が行方不明だった。

***

文章を読んだり、絵をみたり、映画をみたり、する。
はたち頃はそれらを忘れていくことが怖かった。
でも次第に、忘れないことより「読んだりみたりしているその瞬間にじぶんのなかに去来する感情や意識」のほうが大事だ、と気がついてきて、内容を忘れることはどうでもよくなった。
作品は存在しているので、内容を忘れてもなんとかなる。
でも「その瞬間にじぶんのなかに去来する感情や意識」を後から参照することは難しい。
そっちは大事にしておくべきだった。
後から読んで、恥ずかしく思ったり、間違ってるなと思ったりしても、大事にしておくべきだった。

***

後悔する一方で、そんなもの残ってないほうが清潔で健全な気もしてる。

***

さて今から『夏物語』を読む。
読みはじめてすぐ、投稿削除癖を後悔する感情にザワと支配されたことを、記録したいと思って、記録してる。
でもそのうちnoteもアカウントごと消すかもしれない。
定期的に消す病気なので。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?