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江戸時代の男子教育の内容とは?一日のはじめ編。古文書『前訓』を訳してみた

江戸時代の女子教育の内容については、以前『女今川千代見種』という古文書を取り上げてみましたが、男子教育についてはどうだったのでしょうか?

今回、安永二年(1773年)発行の『前訓』から、子ども自身が身につけるべき作法や、大人に対しての子どものしつけや教育方法の詳細を見ていきたいと思います。

『前訓』は、子どものみならず、大人でも誰でも聞くことのできる講釈をまとめたもので、男子編と女子編とで構成され、女子編はおおむね『女今川千代見種』と同じ内容と思われます。

ここでいう子どもとは、男子は7~15歳、女子は7~12歳を対象としており、この時期に学んでおかねばならないことが、ここで語られています。

まず、男子編より、朝起きてからすること、食事の席での作法について、そして孝行についてみてみましょう。

※『女今川千代見種』についてはこちらをご覧ください。

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口教1

1.朝起きたら、お手洗いに行きましょう。
  そしてまず、神様を拝みましょう。
  
  日本は神様の国ですから、
  神様のおかげで皆がごはんを食べ
  衣服を着ることができるのです。

  これはすべて神様のおかげですから、
  一番に神様へお辞儀をしてお礼をするのが、
  まずはじめにすることなのです。

2.次にお仏壇に向かって拝みましょう。
  
  皆様のご先祖の
  曽祖父・曽祖母・祖父・祖母なども
  お仏壇の中に

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  いらっしゃるからです。

  これは大おじい様方のおかげですから、
  皆々様、成人されて今日ごはんを
  食べられなかったことが一度もなかった
  のは、大おじい様のおかげでしょう。 

  ごはんを食べることに終わりはありません。   
  年を取る前に、食べることができるのは、
  どなたのおかげでしょうか。

  もっとも、すぐに親御様方のおかげが
  なければ食べられないということを
  よくよくお考えになりましょう。

  そのため、お仏壇にお礼をしましょうと
  申し上げるのです。

  すなわち、ここには、ご存命の親御様方への
  お礼も含まれているからです。

3.三度のごはんを食べるときと寝るときは、
  おじい様・おばあ様・お父様・お母様へ
  手を合わせてから、「いただきます」
  「おやすみなさい」とご挨拶しましょう。

  そしてこれは、親御様方が先に
  「いただきます」「おやすみなさい」と
  言いましょう。

  そのときはこれが作法だからと手を合わせ、
  「いただきます」と言ったあとで
  食べるのが良いでしょう。

  寝るときもまたそのようにするのが
  良いでしょう。

  どんなときでも、何も言わずにおれば
  子どもはずっと待っているか、
  一緒にするようになるからです。

4.どこかへお出かけのときには、手をついて

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  お父様・お母様へ「行ってきます」と
  言うのが良いでしょう。

  行きなさいと言われたときも、
  手をついて「行って参ります」と言ってから
  出かけるのが良いでしょう。

  お帰りの際もまた手をつき、
  「ただいま帰りました」と言いましょう。

  遊びも久しぶりに外出するのであれば、
  親御様が心配している間に、ときどきは
  早くお帰りなさるのが良いでしょう。

5.お二人の親御様の言うことには、
  どんなことでも「はい」とすぐに
  お返事しましょう。

  そして、機嫌良く言われた通りに
  しましょう。

  そのようにすれば、成人されても
  後々幸せになります。

  親御様のお心に背けば、後々
  不幸せとなり、難儀なさるでしょう。

  子どものときの孝行というものは、
  ほかのどんなことにも代えられません。

  まず、朝起きてから晩寝るまでに、
  お父様・お母様の言うことに
  「はい、はい」とお答えしましょう。

  口ごたえせず、お父様・お母様の言う
  通りにしましょう。

  衣服や三度のごはん、髪を整えること、
  そしてお手洗いを使うこと。
  このほかどんなことにも「はい、はい」と
  機嫌よくお返事しましょう。

  親御様に逆らわず、嫌な顔をせず、
  少しも泣かず、朝から晩まで
  元気よく遊びましょう。

  また、手習いや読み物を学びに行くのも
  良いでしょう。

  お父様・お母様のお世話にならぬ

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  ように、寺に行きましょう。

  読み物をしなさいと言われたら、
  早速行ってみましょう。

  また用事があるから休みなさいと
  言われれば、休みましょう。

  とにもかくにも、一言も背かず、
  お父様・お母様の言う通りにすることが、
  この上もない孝行なのです。

  また、おじい様・おばあ様は
  お父様のお父様とお母様ですから、
  さらに大事にしなければなりません。

  以上のことをよくよく覚えていてください。


【たまむしのあとがき】 

こうした日本独特の教えについては、それぞれ思うところがあると思います。

良い点もあれば悪い点もあります。

今回取り上げた中では、神様に感謝しましょう、そして、ご先祖様へ感謝しましょう、と説いている部分については非常に大事なことで、今の子どもたちはこれをしっかり教えられているのかなと思います。

個人的なことですが、私たまむしの実家は神道で、神棚がありましたので、お参りすることは日常茶飯事でしたが、だからといって、子どものころから神様へ感謝していたかというと、正直言ってそれはありませんでした。

感謝をするようになったのは、お恥ずかしい話ですが、自分の家に神棚を置くようになったわずか3年ほど前からです。

神様に本気で感謝している子どもがいたら、それは神童ではないかと思うのですが、では、教える意味がないかというとそれは違って、一番大事なことは、「教えることを習慣化する」ということだと思うのです。

今、それをしている人がいるのでしょうか。

江戸時代のように、講釈師や僧侶のような役割の人がいるのでしょうか。

ネガティブな人は感謝の気持ちが足りないのも原因のひとつとされていますが、そうしたことも、こういった教えがなくなったことに関わっているように感じるのです。

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