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江戸時代の男子教育の内容とは?これはやっちゃダメよ編。古文書『前訓』を訳してみた

前回は、神様・仏様に感謝すること、孝行についてのお話しでした。今回は、ダメなこと5つ。「嘘はダメ」「ギャンブルはダメ」「殺生はダメ」「おしゃべりはダメ」そして「男女交際はダメ」。どうしてダメなのか、その理由を見てみましょう。

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口教2

1.何に限らず嘘をついてはいけません。

  これは人として一番大事なことです。
  人の心は生まれつき正直です。

  ですから、人は少しでも嘘をつけば、
  たちまち自分の心の中にきっと気味悪く
  感じることがあるでしょう。

  恥ずかしく恐ろしいことです。

  盗賊あるいは人殺しでも、幼少のときは
  同じ人間で、変わり種ではなかったのです。

  皆、嘘をつくことを覚え、だんだん
  上手になり、ひときわ嘘のうまくなった
  者がすべての悪事を

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  するようになるのです。

  場合によっては、盗賊をも殺すように
  なってしまうこともあります。

  悪いことを隠して、誰も知らないと
  思っていても、自分の心の中では、
  自分がよく知っています。

  この知る心に正直に、
  神様や仏様と一体となるのです。

  そうすれば、言わぬはずしないはず
  のことを、言ったりしたりするのは
  神仏のお嫌いなことですから、
  心が受け入れなくなるでしょう。

  ですから、本心が気味悪く感じて
  受け入れないことには、
  きっと嘘を言ったりしたり
  しないようになります。
  
  そうした心になりましょう。

  <古歌に>
  いつわりも 人には言いて やみるまし
  こころのとはば いかがこたへん
  (嘘を言ってしまったものの
   やめたほうが良かったかな
   心に問えばどう答えるだろう)

2.総じて、遊び事でも悪いことはしない
  ようにしましょう。

  その悪い遊びの代表的なものは
  以下の通りです。

  ①穴一※そのほかの勝負事。
   銭扱いを堅く禁じましょう。

   ※穴一=近世の子どもの遊び。
       穴打ちともいう。

   第一、博奕の兆しともなり、心持ちが
   賤しくなり、その上、友達とも争いが
   起こり、互いに気をもむようになります。

   そうした恨みつらみは、皆この勝負事
   から始まったものなのです。
   甚だ悪いものでしょう。

  ②何事でも人に隠してする遊び事は、
   固く禁止しましょう。
   これは前に言った嘘と同じことです。

  このほかも、この二つの例から推測して
  ください。とかく悪いことと気づいたら、
  しないほうが良いでしょう。

3.殺生をすることは、非常に悪いことです。

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  およそ殺生というものは、決まった料理や
  あるいは薬などのために、魚鳥の命を
  取ることではありません。

  ただ、無益にものの命を取り、また、
  傷め苦しめることをいうのです。     
   
  ですから、一時的にもてあそんで生き物を
  飼い繋ぎ苦しめ、たとえ飼わずとも
  犬を打ち叩いたり、走らせたり、
  鶏鳩鼠などを捕まえて苦しめたり、
  虫けらの首を取ったり羽を抜いたり
  などはしてはいけません。

  あらゆる悪さをする子どももいますが、
  これはまったく聖人仏の教えを聞かない
  からです。

  すべての万物の源はまさに我が身です。

  草木虫魚鳥獣、生あるものはなおさら
  我が身にとって近く重いものです。

  だからそれを傷めてなんとも思わないのは、
  今の自分の身体でも、髪の端、爪の端を
  我が身の一部と思わないのと
  同じことなのです。

  痛みは感じなくても、
  我が身には違いありません。

  それを傷つけ痛め殺すことは
  我が身を亡ぼすことに似ています。

  深く重い罪科です。

  今の我が身の命を惜しく思っても、
  痛みの大きさを知るのは難しいので、
  これらと比べてやっと思い知り、
  殺生を断じてしなくなるでしょう。

  これも嘘と同じことですが、
  子どものころから殺生をしていれば
  後には生き物を殺すことが上手くなり、
  とても不気味で恐ろしい人間と
  なっていくものです。

  物の報いというものは、悲しく恐ろしい

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  ものです。

  罪科の報いは打てば鳴る響きのような
  怖いことだと覚えておいてください。

4.総じて、慎み寡黙でいること。
  無礼で大口を叩かないようにしましょう。

  子どものころから大口を叩くことが習慣に
  なっている子どもは、後にたいてい
  悪者になります。

  親御様から勘当されるようになった子ども
  たちを、これまでたくさん見てきました。

  この子たちは幼少のときに
  行儀の悪い癖がついてしまったために、
  人に無礼を働くことを慎む心を失い、
  ついに哀しい身になってしまったのです。

  ですから、お互いに小さな子どもたちへ
  気を配り、少しでも大口を叩くことを
  させないようにしましょう。

  とても悪いことで、恥ずかしいこと
  なのだという、その理由をよくよく
  覚えておいてください。

5.男女の違いは大事なことですから、
  幼少のときから男子は女子と一緒に
  遊ばないものだということを、
  よくよく理解しておきましょう。

  総じて、幼いころから男女が一か所に
  集まることを恥ずかしく思うことが
  極めてよろしいです。

  こうしたことを幼少から教えられた
  子どもたちが成人

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  してから悪者になるのは少ないのです。

  行儀はとかく幼少のころからの
  習慣が大事です。

  男女間の過ちは人間の大罪で、
  一命に関わる災難も起こる
  根本にあるものですから、
  聖人も仏もこれを強く悲しみますし、
  振る舞いを正しくしなくては
  ならないのです。

  これにより大慈大悲の思し召し、
  ありがたきいわれがありますから、
  よくよく理解しましょう。

以上の通り、しっかり熟読しましょう。
そして、飲み込んで覚え、努力しましょう。


【たまむしのあとがき】

「嘘」「ギャンブル」「殺生」は、自分自身に背き、自分自身を痛めつけることだからというのが、やってはいけない理由でした。

ごもっともですね。

自分自身正直に生きる、自分自身を大切にする、ということは、この世の大原則ですから。

でも、「おしゃべり」「男女交際」がダメな理由はよくわかりません。

文中でも、大人になったら悪者になる場合が多いからダメなのです、といった調子です。

簡単に言うと、「ダメなものはダメ」「そういうものだから」という感じがします。

日本の昔の文化には良いものがたくさんありますが、中にはこうして賛同しかねるものもあったりします。

よく見極められる目を持つことはとても大事な気がします。  


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