[1分小説]新聞屋のSくん
同級生のSくん家は新聞屋。新聞を印刷して毎朝配達している。
Sくんが新聞屋だってことは、同級生の全員が知っている。
僕の家ではその新聞をとっていなかった。親同士の会話で、子供向けの新聞をとらないかとすすめられたこともあったけど、結局とらなかった。
Sくんの家にはゲームソフトがたくさんあった。見たこともないゲーム機や変わったコントローラもあった。同級生数人でSくんの家にいくと、いつも対戦ゲームやパーティゲームで遊んだ。
Sくんの家にいくと、いつも独特な匂いがする。新聞のインクの匂いらしい。
そのおかげで、Sくんもよく同じ匂いがした。別に嫌な匂いじゃないけど。
あるとき、教室にハンカチが落ちていた。見つけて拾った同級生が、その匂いを嗅いで
「あ、これ、Sくんのでしょ!」
と渡していた。
悪気はなかったと思うけど、「そんな風に言っていいのかな?」と心配になった。
Sくんの顔を見ると、笑いながら受け取っていた。
あるときSくんにマンガを貸したら、なかなか返ってこないことがあった。
「返して」といっても、「ごめん、まだ読んでるからもうちょい待って」と言われる。
しばらく経って、マンガを貸したことも忘れたころにSくんが転校することを学校で聞いた。家族みんなで引っ越すらしい。
その日の夕方、僕の家にSくんが訪ねてきて、貸したマンガを持ってきた。
「返すの遅くなってごめん。表紙やぶっちゃって、返しづらくなっちゃった」
正直いやだったけど、「まあいいよ」と玄関先で僕は言った。
ドアを閉めて、なんとなくマンガに鼻を近づけると、Sくんの家の匂いがした。
Sくんの新聞屋の跡はしばらく空き家だった。あるとき気づいたらお弁当屋になっていた。
土曜日、お母さんが開店セール目当てに買ってきた。僕はシャケ弁当を選んだ。
お店の名前が入った包み紙を嗅いでみても、あの新聞の匂いはしなかった。
*****************************************************************
よろしければサポートお願いします! 物理学の学び直しに使って次の創作の題材にします!