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「ミレニアル世代のバーキン」について考えたこと

 上の記事の見出しを見た私は、ユニクロのボディバッグ(商品名は「ラウンドミニショルダーバッグ」というらしい)が「ミレニアル世代のバーキン」と評されたのにはちょっと疑問を感じていました。

 私のうろ覚えの知識では、バーキンというバッグはフォーマルな場所にも持っていけるようにと開発された「金持ちのトートバッグ」って感覚であり、くだんのユニクロのバッグは「貧乏人のプラダ(のナイロンバッグ)」と呼ぶべきなのでは?と思ってしまったのでした。

 世界中が貧しくなっているのか、高価で長持ちする職人の手仕事よりも、安価にその場しのぎができる大量生産クオリティでよしとする合理性重視の価値観の変化が可視化されたのかはわかりません。

 冒頭から悪口をかましておいてなんですが、私はプラダというブランドのことをよく知りません。バーキン(エルメス)と並ぶブランドなのかもしれませんが、なぜか良いイメージがありません。
 まず人生でのファーストコンタクトがよくなかった。

 令和からさかのぼること数十年前のバブル期。私は寮母さんがいる会社の独身寮に暮らす新人OLでした。
 夏のボーナス時期のある夜、食堂でひとり晩ご飯を食べていると、ご機嫌で帰ってきた「イケイケギャル」の1年上の先輩が騒々しく、
「見てみて~コレ! プ・ラ・ダ、だよぉ~」と、
 「PRADA」と刻印された三角形の金属タグが打ち付けられた黒いナイロン製の小ぶりなリュックサックをこれ見よがしに見せてきたのでした。
「アレっ? ヤマグチしかいなーい……。わかる、コレ?」
 明らかに残念そうです。ええ、私は寮でも通勤1時間コースの支店勤め。キラキラ本店勤務の先輩方のように毎夜ディスコがよいができる身分でもなく、ファッション情報にも疎い、今でいう「陰キャ」ですからね。
 夜遊び帰りの鮮やかな色彩のボディコンスーツと、カジュアルの権化とも呼ぶべき「リュックサック」のアンバランスさを、その時の私はヨシと思いませんでした。
 ですが、食堂は共同スペース。無駄な騒動を起こしてはなりません。
「有名なブランドですか?」
「そうよ! イタリアの。今すっごい流行ってんの! たっかいんだから」
 見せつけていたバッグを上機嫌で抱き寄せる先輩の様子から、欲しいものを手に入れて満足していることが伺えます。とても幸せそう。
 しかし第一段階はクリアできましたが、続く言葉でハンターの獲物をくさすようなことを言ったら、私も彼女もただでは済まないな……という気持ちから、続く誉め言葉をひねり出さねば、と考えていました。
 先輩の瞳も訴えかけています。
 ほら、ヤマグチ。もっと言うことあるでしょ? ねえっ。ホラほめれ!!
「(黒一色で)かっこいいですね」
「でっしょお~!! フフフ、あんがとね💕」
 そしてイケイケのハンターは踊るように自室に引き揚げていきました。
 よかった。サクッと会話が終わった。下手に買った経緯なんか聞こうものなら、どんな長話に付き合わされるかわからなかった。これでよかった。
 しかし本音では、「なんでナイロンバッグに高いカネ出すんだろ……」って思ってました。あの三角形に1万5千円以上かかってんのかもしれない。そう思っておかないと納得できんぞ、と。
 今でこそ、一流ブランドと呼ばれる会社の製品には、そのメゾンの誇りがかかっているのであり、最高の素材を最高の技術で加工されているということを理解しているつもりですが、化粧の仕方すらわかっていなかった当時の小娘には「ナイロンのリュックサック」にしか見えないものが、ヘタしたら十数万円もするというショックの方が大きくて、お金の使い方としてどうなの?という不信感しかなかったのでした。

 でも当時の日本の流行ファッション事情はなんかおかしかったです。
 デザイナーズキャラクターブランドを略して「DCブランド」大流行の時代で、どこに行ってもローマ字のブランドロゴが印刷されたものが、そこかしこで販売されていました。ロゴ入りのトレーナー、ロゴ入りマグカップ、ロゴ入りクッションにまくらカバー、トイレファブリックまで複数色展開されていたし、ロゴステッカーを貼ったら愛車ですらブランド品の仲間入りをしてしまう勢いでした。ファッションブランドがロゴマークによるロイヤリティ収入で食っていけた時代だったのかもしれません。
 大流行しすぎて、正規のロゴマークを入れられないメーカーと高価すぎるロゴ入り商品を購入できない消費者をつなぐ「それっぽいロゴ入り商品」も流行しました。「シャ●ル」っぽいフォントを使用したロゴをよくよく読むと「チャン●ル」だったり……とか。今でいうと同人ゲームの中で、友達との連絡を取るメッセージアプリが「ライム」という名で登場したりする感じ。
 法整備が整ってない頃は、リアルでそういうことが行われていましたが、そういう「偽物パチモン」で大儲けする会社も出てきて、正規のロゴやテキスタイルパターンの権利関係者のお目こぼしがなくなり、法律が整って駆逐されるようになったのもその頃あたりからでしょうか。
 そんな経緯があるせいか、社会的ステータスを図る目安となるような一流のファッションブランドと、庶民が身につけるファストファッションを同じまな板の上に載せていいものではない、という固定観念が私にはあったようです。(DCブランドはそのはざまに生きてる印象を、私は持っています)

 そう。固定観念。
 最初に感じた私の疑問の根っこには「ファストファッションと一流ブランドを同列に扱うなんてよくないのでは!?」みたいな、義憤ぎふんのようなものがあったのではないだろうか。
 しかも記事の見出しだけ見て。ちゃんと本文を読んできた方がいいんじゃないの? そう思って、読んできました。

エルメスのバッグコレクションには、多くの人々が憧れる「バーキン」があります1。1984年にイギリス人女優ジェーン・バーキンがエルメスの会長と出会ったことをきっかけに誕生しました1。バーキンは、卓越した収納力が魅力で、そのデザインはシンプルでありながらも品格を保っています1

マイクロソフトのBingAIによる解説

 「ミレニアル世代のバーキン」と評されたのは、ひとえにユニクロのラウンドミニショルダーバッグがその見た目に反する高い収能力によって「非常に使い勝手が良い」という理由で、それをインフルエンサーがショート動画にして多くの人に周知したことでその実用性が広く知られ、使った多くの人が納得したからだそうです。
 実用性によって「一流ブランド並み」と認められたのであれば、むしろユニクロにとってはありがたいのかもしれません。
 しかし引き合いに出された「エルメス」「バーキン」としては、この評判はどうなんだろう? 許せるものなの?と思いましたが、誉め言葉として出してくる分にはいい(スルーしておいてやる)けど、素材や縫製のクオリティでユニクロが張り合って来てたのならその時は全力で叩き潰すっていう感じなんだろうな。たぶん。
 ヨーロッパの老舗ブランドってそんなキレ方をするイメージがある。
「ウチの店に妙な人らがお客ヅラして入り込みはらへんのやったら、ウチもありがたいですしなぁ」(イマジナリー京都弁)
 うん、なんかそんな気がしてきた……。
 海外ブランドとはケンカしちゃだめだ。怒らせないようにしなくては。

 そして私は、PRADAの製品の良さを理解する機会を失い続けているので、その良さをわかるように教えてくれるインフルエンサーの動画があったら、それもちゃんと見てみるべきかもしれないですね。情報求む。

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