見出し画像

人間は大抵本当のことを言えない

私の職業は一応PMなので、なんだかんだと人(主には顧客)から色々な情報をヒアリングしなくてはいけない、というシチュエーションに遭遇する。
この時、ヒアリングしたい情報はもちろん”本当の話”なのだが、これがまあなかなか難しい。
一発で欲しい情報を入手できることなんて滅多にない。
”回答”をもらうことは簡単だ。しかし、回答=本当の話、欲しい情報とは限らないのである。


テクニックでなんとかなる?

例えばよくあるのは質問の使い分けだろう。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン。
また、オープンクエスチョンの中でも、補足を加えて回答の幅を絞ったり、あるいはクローズドクエスチョンを投げて考えさせて、その先にあるオープンクエスチョンに導いたり。

あるいは、こちらで仮説を立てて相手にぶつけ、それに対する(良い意味での)反発を誘発して、ギャップから情報を見つけ出すとか。

あくまで昔に比べるとだが、このあたりのテクニックは現職で色々身についたような気がしている。
一方で、テクニックだけでは欲しい情報を入手するのが難しいとも感じている。

一体何が障害になっているのか?
私は、ヒアリングされる側の人間が持つ『演出家』のペルソナを疑っている。

演出と真実

『演出家』のペルソナとはなにか。

最初に、これは私が適当にそれっぽい名前をつけただけなので、本当にそういう用語なりなんなりがあるかというとない(多分)ということを断っておきたい。
その上で、私のイメージする『演出家』のペルソナについて、いくつかのシチュエーションを例にして説明したい。

  1. うーん、一生懸命説明してくれたんだけど、わりと的外れなんだよなあ……。でも、色々頑張ってくれたのに、バッサリいくのも悪い気がするし、よその会社さんだし……。うん、否定はしないでおくか。

  2. よくわからない部分があった。でもわからないとは言うのはカッコ悪いから嫌だな。みんな何も言わないからわかってるんだろうし。

  3. すごく意見色々出てるな……。これ、このまま黙ってたら、「Aさん打ち合わせ出て何してたの」って思われたりしないか……?
    とは言っても、なんとも思わないし……。まあ、これ分析レポートだし、「分析の根拠が薄いのでは」とかだったら誰か拾ってくれるか。

  4. えっ、”この製品を選んだ理由は何ですか?”
    ええー?ぶっちゃけワゴンセールで3割引きだったからだけど…普段は別の製品使ってるし。でもアンケートにそんなこと書くのもなあ。うーん……”パッケージデザインが良かった”に〇、っと。

さて、これはもちろん、私の想像のシチュエーションだ。とはいえ、ある程度ありえそうなことを書いたつもりでいる。
いずれも、『演出家』のペルソナが仕事をしている状態だ。

  1. 例えば、この場合の演出手法は”優しい自分”
    相手のことを思いやっているように見せかけて、そういう優しい自分を演出している。この人は優しい人になれるが、相手は本当に必要な「この話は的外れ」という情報を入手できない。

  2. 例えば、この場合の演出手法は”弱みのない自分”
    実は”みんな”もわからないのに、プライドが邪魔して言えてなかったりすると、相手は本当に必要な「この話はわかってもらえていない。議論を先に進められる状態にない」という情報を入手できない。

  3. 例えば、この場合の演出手法は”議論の内容を理解して、参加している自分”
    もしかしたら、この適当な指摘にも正しい要素が入っているかもしれないが、そうでない場合、相手は「分析の根拠が薄い」という間違った情報を入手することになる。

  4. 例えば、この場合の演出手法は”ダサくないorセンスある自分”
    セール品を適当に買うより、製品の良さをしっかり理解したうえで選択する方が人に見せる姿としては印象が良い。しかし、相手は「製品自体に決め手はなく、外的要因である割引によって選ばれた」という等身大の情報を入手できない。

「演出家」と呼んだ意味を分かっていただけただろうか。
リアクションや回答を行う上で、各シチュエーションの登場人物が気にしているのは、正しい情報を伝えることではなく、”回答した自分がどう見られるか”なのである。
見られたいように見てもらうための、演出の小道具としてリアクションが使われてしまう。

他人事のように言っているが、もちろん私も同じようなことをどこかでしているだろう。

例えば、最近行き始めたジムのトレーナーさんに「このっこさんはどんなアニメが好きですか?」と朗らかに問われて「呪術廻戦は映画観に行きましたよ~」と流行りものでごまかしたように。
そうそう簡単に性癖はさらせませんね!(にっこり)

”演出”の裏を見抜け!

そう、本当に必要な情報を最速で手に入れたければ、演出家のペルソナを片っ端からはぎとるしかないのである!
ええ……? マジで? はぎとられる側の気持ちになると怖い。

――まあ、それは流石に困難の極みなので、「ぺろっ、これは演出……」くらいはわかるようになりたい。

この難易度を下げるのは、対面での対話だ。
好きか嫌いかでいうと、人見知りなので対面の打ち合わせは苦手なのだが、情報量の多さは断トツである。

  • ……ちょっとあの人つまらなそうな顔をした?

  • どのページかまではわからないけど、なんか資料をめっちゃ見てるな。

  • お、めっちゃ頷きながら聞いてくれてる。

  • めっちゃ声小さかったけど、今「うーん…」って言ったな。

  • 口開きかけたのに回り見て閉じた。何か言いたいとか?

とにかく入手可能な範囲で演出ではコントロールできない細かい反応をチェックするのが重要だ。
また、人によっては「会議だと絶対口を開かないが、後で電話をするとめっちゃ色々意見を出す」みたいな特性を持っていたりもする。
そういった癖を見極めることも、本当に必要な情報を入手するためには欠かせない。

相手が当然本当のことを言ってくれるはず、と妄信するのは失敗の元。
人間というものは、悪気があるわけでもなく、本当のことを言わないし、言えないし、自分が本当のことを言っていないと自覚していないことも多々ある。

人間って、複雑である。

#最近の学び #私の仕事


この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?