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「やっぱり子ども生みたいよね」って思えない2019年の私と夏物語

13歳の時、親に「なんで生んだの」って言った。

可愛くなければ、成績優秀じゃなければ、愛されなければ価値がない。価値がないまま生きるなんてつらいだけ。がんばりつづけろ。価値を生め。かんばりつづけて22歳になったら労働も追加しろ。

絶望していた。はじめて手に入れたい人ができて、はじめて100点のとれないテストを受けた。はあ、生きるのって全然簡単じゃないじゃん。

こんな可愛くない容姿に生みやがって。生む前から失敗するってわかるじゃんそんなの。お母さんとお父さんが結婚して可愛い子なんて生まれるはずないじゃん。鏡見てよ。生むほうは勝手だけど、生まれたらがんばりつづけなきゃいけないんだよ。かなりの年月を。このステータスで。人生は顔ゲーなんだよ? しんどいじゃん。

がんばった。欲しいものは何でも手に入るように。

ちょっとでも気になる人が「3組のゆりちゃんと付き合いたい」って言ってるのも心のなかで全然許せなかった。は? 顔が可愛いだけでは? (顔が可愛いのは最強である) 単純接触効果でもベンジャミン・フランクリン効果でも何でも駆使して手に入れた。ヤンキーも先生も、私のものにしたかったら、全部そうした。そうなるようにした。

そうじゃないとつらかった。「欲しい」と思って手に入らないなんて。つらいよ。「欲しい」って思わなかったらよかった。ああやっぱり、生まれてこなければ、何かを欲しくなったりしなくて済んだのにな。


それでやっぱり、母が私を生んだ歳、27歳になっても、私は子どもを生みたいと思えなかった。それには『夏物語』の緑子的な「体が変わることへの恐怖」もあるんだけど (私が『夏物語』でもっとも簡単に共感したのは緑子である)(詳しくはプロジェクトAへ) 勝手にこちらの都合で他人の人生をスタートさせて「はい、じゃあがんばってね」ってできないなっていうのがあるのだった。私と精子提供者の遺伝子のスペックがトップクラスじゃない限り。

なんだかんだ生きづらそうに見えても、結局みんな結婚して子どもなんか生んじゃってさ。ええ、そういうの大丈夫な人間だったの? って、裏切られた気持ちにはならないけどさ。でも、ずっとわかんないなって。

「いや、でも生んでみたらさ、このみもわかるって」
?????

「結婚おめでとう」は心から言えるけど、「妊娠おめでとう」と「出産おめでとう」を言うとき、変な顔してないか心配になる。ちゃんと笑えてる? ほんとは、ほんとはね、生まれたての赤ちゃんの写真が送られてくる時、少年アヤちゃんが言ってたけど「これは変な形の野菜なんだよ」って言われたほうがしっくりくる。ああほんとごめん。私がいるグループラインに写真送りたくなくなるよね。

この世に新しい命を生むことを、みんな圧倒的に正しいと讃えられてすごい。なんで? 本能? 「産めよ殖やせよ」国家の煽動?

昔は国のものだった子どもたちが、やがて家庭のものになり、個人のものになっていく。子どもを生むことについての倫理観は家庭に、個に、託されつつある。だから。

「私はこうだったから、あなたもきっとこう」って言わないで。「あなたもきっと」なんてないのよ。

私も一応「おめでとう」って言うべきところは「おめでとう」って言うからさ。

(「生むことはめでたいこと」と同じように「苦労して生んでもらったのは感謝すべきこと」となっているのも謎。五歩譲って、生むのは主語が本人だからまだわかる。「生みたい」という望みが叶っておめでとう。しかし「苦労して生んでもらったのは感謝すべき」は主語が子どもじゃん。子ども、うまれるまえに生んでもらうかどうか選べないじゃん。なぜ望んでもないのにありがたがらなければならないのか)

(さすがにもう「なんで生んだの」と親にいうことはないけれど)



私もいつかは誰かを裏切って、自分の子どもにただ「会いたい」って思うのかなあ。

生きててよかったってことはあるけど、生まれてよかったって思うことは未だにない。「こんなに綺麗なものがただで見られて、生きててよかったなあ」って夕焼け見て思うけど、夕焼けを見ている瞬間、生きててよかったと思うだけ。

つらいこともかなしいことも全部ふくめて今までの人生をまるごと「生まれてきてよかった」とは思えない。もう生まれてしまった時点で他の何かを奪っているのだ。まるごとよかったなんて、もう私に言えたことじゃなくなってるのだ。

『夏物語』の主人公、夏子は最後、「ただ会いたい」っていう気持ちで子どもを生む。「生まれてきたことを肯定したら、わたしはもう1日も、生きてはいけない」という善百合子は、「わたしはあなたとは違うから」と夏子にいう。あなたは「生まれてきてよかった」って思ってるから生むんだよねって。

善百合子の説が私にもあてはまると仮定すると(すげえ安直な仮定だな)「生まれてきてよかった」っていうことを思えて、なおかつ、緑子的な問題(プロジェクトA)を解決した時、私は子どもを生むことが精神的に可能になるということだね。

まだ現代思想読んでません。早く読めや。

#反出生主義 にすらならない
#日記 #夏物語 #川上未映子 #夏物語と私 #妊娠 #出産 #子ども

ちなみに今は、どこかに書いたか覚えてないけど、諸々の理由で養子をとるのがいいなと思っています。
(これは現時点で「子どもを生む」のをしたくない話で「子どもがいらない」話ではない)

急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。