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特集■アマビエな日々『煙る男、その正体』

米栗久三郎です。

我が家には、このコロナ禍の渦中にあって、緊急事態を理解していない人間が2人いる。

一人は2歳児。もう一人は親父だ。

うちの親父さんは、ここ1,2年で急激に【記憶力の故障】が加速してしまった。

砕けた言い方をすれば、あるいは放送禁止用語で言えば、ボケ老人になってしまった。

おかげで毎朝、散歩に出かけようとして、それを止める妻と諍いが起きる。

親父「どうして散歩にいっちゃいけないんだ?」
母 「散歩はいいけど、煙草はダメ。」
親父「一本だから」
母 「数の問題じゃなくて、コロナだから!」
親父「コロナって何だ?」

ある意味で牧歌的な、ある意味でシュールな会話を母との間に繰り広げている。

親父には、近所に散歩がてら行けるお気に入りの喫煙スポットがあった。
が、この事態である。その喫煙所は、一週間ほど前から閉鎖となっている。
親父はスーパーで煙草を買うと、煙草を吸える場所を聞き出し、そこまで散歩して喫煙を楽しみ始めた。

母は毎朝怒り、呆れ、同じ会話のリピートに疲れ果て、もはや諦観の面持ちである。

私はと言えば、親父に2日に一度くらい「コロナウィルスが、いま世界中に蔓延していて…」と説明をする。
新型の肺炎で、高齢者・喫煙者の致死率が高いことを説明すると、親父は「ふうん」と言って目を逸らせる。
そしてその先はあまり、いやほぼ聞いていない。
そもそも難聴気味だったことも幸い(?)しているらしい。
煙草を止めるくらいなら死んでもいいと思っているのか。
それとも自分は罹らないとでも思っているのか。
まさか自分は高齢者じゃないと思って…はないと思いたい。

さてこの男の正体だ。
スモーカーで肺病に無関心を装う男は元外科医。しかも胸部外科で、しかも肺がんの専門医だったのだ。
医者の不養生ここに極まれり、だろう。

さっき食べたお昼ごはんも忘れるくらいなので、
コロナの説明をしても30分後には煙草を吸いに散歩に出てしまう。救いがあるとしたら、もともと潔癖症なので、手洗いとうがいは昔から入念にすることと、人見知りだし、近所に友達はいないので立ち話もないことだ。

それにしても、この稀有なる非常時に事態を理解しない彼を見ていると、記憶力の故障というのは、ある意味で己の身の内に平和を飼っているようなものだな…と思う毎日である。

写真は、PCR検査待ちの行列。ソーシャルディスタンス。もうすぐ3歳の小さな人と並べました。

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取材、執筆のためにつかわせていただきます。