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建築の10年前の異端が今では最先端に。「場の産業 実践論」を読んで

こんにちは。毎日投稿56日目です。

今日はリノベ学園の課題図書として出されている「場の産業 実践論」の読書レポートです。

この本は東大の建築の松村先生が、建築だったり不動産だったりの業界の実践者たちとの対談?懇談会?を収録したものででした。
冒頭から、ブルースタジオの大島さんから、これからの建築は「物件から物語へ」「建築士にはマルチリンガルが求められる。」などの名ゼリフが出てきており、全体を通して、建築に求められる職能が変わってきている、広くなってきていることがよくわかりました。

特に関心のあった3テーマの側面から書きます。

①エリアマネジメント

全章とも、エリマネについて議論されていて、特に「エリマネは業になるのか」という大きいテーマが与えられていました。
私が印象に残ったのは↓の2点

・点が集積して面になり結果としてマネジメントされていくもの。(馬場さん)
・大丸有だからできるのではなく、公共と民間オーナーが連携できたらエリアの復活は不可能じゃない(清水さん)

きっとこれは、小さい動きが大切ということだと私は考えました。そして出てきたのが、嶋田さんのフレーズで「電気工事、給排水工事の資格と宅建の3つの資格があれば食っていける」と事務所のスタッフの方には言っているそうです。↑の小さい動きを担える人になれるということかと思います。

あとは、まさに、点をつなぐ事例として、貞国秀幸さんが不動産管理の側面からエリアをマネジメントしていくことを語っておりました。
管理料を高くしても、イベントを仕掛けたりコミュニティを作るような良い管理をすれば、入居率や賃料のUPにつながる。それを建物単体でなくて、複数の建物でやっていくとエリアが面白くなっていく。
でも現状は不動産管理の市場で大手の不動産会社が囲い込んでいる状況。そこに切り込んでいきたい、という話で「なるほど〜」と思ったのでした。(HITOTOWAさんもわりと近いことをやっている印象です。)

②コミュニテイと経済価値

これは主に第3章で語られていました。橋爪大輔さんがコミュニケーションデザイン(広告業務)と都市計画・まちづくり業務の親和性を語っていました。
都市・まちづくりの人は概念の構築は得意だけど、人を巻き込むのが苦手。広告はその逆。
橋爪さんの”ダイスプロジェクト”さんでは両者を組み合わせた業態に挑戦されているということでした。

そんなまちづくりと一緒にされている広告業の中で言われていたのが、
「既存の広告の手法(DMやチラシ)」と「面白い人が面白い人が呼ぶ口コミ的広報戦略」の話。

もうこの本が書かれてからもう10年経っているので、後者のほうもだいぶ全国で戦略として使われるようになってきている印象です。私としては。

「社会性やコミュニティについて、お金で評価できるようにしないと、社会に定着しない。」
「賃貸物件がコミュニティの力で経済価値が上がっていくこと、築年数が増えても社会的価値が上がれば家賃が上がることを証明したい」(吉原勝己さん)
と言っていて、まさに!と思いました。

これって、公共空間・街路空間の再構築に税金を使う際に、その効果って?と問われる、B/C論争と同じですね。

③開かれたデザイン、建築の民主化 

全章で触れられていたけれど、印象に残ったポイントを書き出すと、
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建築の民主化が進んでいる。住宅・住まいづくりではまさにそうだし、コミュニティデザインや宿泊の業界も進んでおり、例えば宿泊ならば、ホテル→ホステル→民泊→カウチサーフィン!のように、より小さい主体が志向するものを提供しやすくなっている。
また、これまで大学・研究機関と仕事をするのは行政を介してだったのが、自治会が直接、大学の研究室に仕事を依頼するようになってきている。

まちづくりも行政が全てをやるべきでないし、そもそもできない時代になっている。システムの外で動くことが増えてきている。
そんな状況のなかで個人事業主が活躍しているし、個人事業主が増えていけばもっと世の中は面白くなるだろう、という論調だった。
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というものでした。
(同意だけど、なかなか個人事業主に踏み出せない私…!)

リノベーションの民主化としては、ツールボックスの存在が挙げられると思いますが、林厚見さんは「ユーザーの空間創造へのリテラシをあげていくこと」が業界の(または社会の?)あるべき前進で、市場の新しい方向性だと語っていました。

本書は2014年発刊のものですが、10年経った今では、YouTubeやインスタでも、個人がセルフリノベ・DIYしている動画がとてつもない数上がっています。
世の中、この本で議論されていた方向に進んでいるんだなと感じました。
その一方で、用途を変える・物語を語る、という点は、まだまだプロの人たちには及んでいないですよね。そこにあるハードルの高さを感じたし、そこがプロに求められるものなのでしょう。

終盤でツールボックスがクックパッドに例えられて話されており、「集合知」という単語が出てきていました。
空間編集も集合知の活用でさらに進んでいくのだろうと思いました。

おわりに

といわけで、2日間かけて読みました。
対談形式だし、読みやすいんですが、自分の言葉でまとめようと思うと、
ビビビ!とくるポイントが各所に散らばっていて、それを自分の脳内で再編するのが難しかったw

10年前の最先端で、むしろきっとその頃は建築の中では異端と言われていたような世界だったんじゃないかと思います。建築・不動産・メディア・コミュニティが全て混ざって進んでいく世界。
それが10年経った今では、堂々と最先端として脚光を浴びている、そんな印象を持ちました。

私も、15年前はデベロッパーに憧れていた気持ちが、今では、「自分で小さいお店をやってみたい、そこからそのエリアのまちづくりに関わりたい」と考えるようになりました。年齢的なものだけじゃなくて時代が変わった、ということもあると思います。

というわけで、面白い本でした、建築分野の方にはおすすめです!


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