見出し画像

「戦記サブカルチャーと軍国主義」という話

立秋の日を迎え、暦上は秋になりましたね。
今年の秋は、例年通りの秋という訳にはいきませんが、それでも変わらずあの日は来ます。
8月15日、終戦記念日です。
私自身も、なぜ、あの戦争が起きてしまったのか、ひとりの日本人として考えてしまいます。
今日は、そんな戦争に関係のある話をしたいと思います。

戦記サブカルチャーと歴史否定
昨今、日本国内では、歴史否定論や歴史修正論とも受けとれるような意見を耳にします。
それは、一般人からサブカルチャーを作っているクリエイターまで、幅広く、「日本兵による残虐な行為はなかった」や「日本は悪くない」というような意見です。
一般人ならまだしも、本来、反体制的な性質を持つサブカルチャーを作っているクリエイターまでもが、かつての体制を支持するような発言をするのは何故なのでしょうか。
こうした、日本の右派的な言説とサブカルチャーが強く結び付いたのには理由があります。
その理由を考えるにあたって、まず、サブカルチャー(今回は戦記物のサブカルチャー)がどのように誕生したのか考えてみましょう。

戦記サブカルチャーの誕生
戦記物のサブカルチャー(以下.戦記サブカルチャー)と言えば、『ガンダム』や『エヴァンゲリオン』、『宇宙戦艦ヤマト』などが例に挙げられると思います。


これらの戦記サブカルチャーが誕生したのが、1960年代前半、日本が高度経済成長期を迎えたころだと言われています。
当時の学校教育では、戦後民主主義の重要性を教えるために、戦争というものは「絶対悪」として教えられるようになりました。
しかし、この教育には、一つ問題点がありました。
それは、戦争を絶対悪として全否定しようとする意気込みのあまり、戦争に関わる一切の思考をヒステリックなまでに排除しようとしたのです。
その結果、日本社会から戦争の記憶が徐々に薄れていくことになります。
そんな中、「戦争」の記憶を失わないように作られたのが戦記サブカルチャーでした。
戦記サブカルチャーには、戦記サブカルチャーを通して、戦争のリアルを子供達に伝えるという重要な役割があったのです。
つまり、戦記サブカルチャーは、戦後民主主義という立場が傾きがちな教条的・独善的な態度への反発で生まれたという背景があったと言えます。
とはいえ、戦記サブカルチャーは戦後民主主義を否定しようとはしていませんでした。
あくまで、彼らなりの目線で戦争を理解しようとする戦後民主主義的な一つの現象だったからです。
戦記サブカルチャーの主な特徴は、戦争の複雑さや、戦争の不条理さが描かれているということです。
なぜ戦争が起きたのか、起きなければならなかったのか、『ヤマト』のガミラス帝国や『ガンダム』のジオン公国のさまざまな事情を描きながら、戦争は善悪二元論で語れるほど単純ではない、という考えが戦記サブカルチャーでは示されています。

戦記サブカルチャーと右派勢力
一方、1990年代、右派勢力の間では、55年体制の終焉という動きへの危機感から、「東京裁判史観」を見直そうとする運動が推し進められ、「歴史修正主義」の動きが大きな盛り上がりを見せていくことになります。
戦記サブカルチャーと右派勢力が強く結び付いたのは、両者に相同性、類似性、親和性があったからと考えられます。
戦記サブカルチャーは教条的・独善的な態度への反発で生まれた背景がありますが、そうした背景がリベラル勢力の独善的な啓蒙主義に反発する右派勢力と強い相同性がありました。
また、「歴史修正」や「歴史否定」というアジェンダを組んでいた右派勢力にとって、「善悪二元論」を否定する戦記サブカルチャーは、「日本にも正義があった」という日本の戦争責任を誤魔化す材料として利用しやすかったものであり、両者の間には強い類似性がありました。
そして、戦記サブカルチャーは、軍装、兵器、儀式などへのマニアックな関心から、「ナチサブカルチャー」の意匠に彩られたものであり、ネオナチ的な思想を持つ右派勢力と強い親和性がありました。
これらの相同性、類似性、親和性のゆえにこそ、右派勢力は戦闘サブカルチャーと取り結び、それを彼らの「部族文化」として採用することになったと言えるでしょう。

まとめ
右派とサブカルチャーがなぜ結び付くことになったのか、その理由の背後には、戦記サブカルチャーというジャンルを介したこうした経緯がありました。
彼ら右派は、戦記サブカルチャーを部族文化として採用することにより、過去の軍国主義を賛美しています。
同じ過ちを繰り返さないためには、軍国主義の失敗を認め、反省することが大切ではないでしょうか。
終戦から75年、戦争の記憶が遠くなるからこそ、改めて戦争について考え直したいものです。

参照
https://synodos.jp/society/23151

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?