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孤独・孤立の解消へ-就労支援のアプローチから-

こんにちは。就労支援員のサイトウです。

就労支援をしていると、孤独・孤立の状態にある方と出会う機会は少なくありません。社会的にもこの問題は広く取り上げられており、解決も容易ではないと感じます。

昨今では心理学、社会学、政治や哲学など様々な観点から孤独・孤立について論じられていますが、今回は「働くこと」を中心的なテーマに、この問題について考えていきたいと思います。


よろしければ最後までお付き合いください。


①孤独・孤立の定義

まず「孤独」の概念について調べてみました。タウンゼント(1974)は「孤独であるということは,仲間づきあいの欠如あるいは喪失による好ましからざる感じを持つこと」 ※1と定義しました。つまりこれは主観的な感覚であるといえます。対して「孤立」は浦(2022)によると「サポーティブな関係性の欠如」「普段からちょっとしたことで助け合ったり、世間話をしたりする相手がどれくらいいるか」※2と定義されます。こちらは客観的な状況といえるでしょう。
後藤(2009)は「社会的に孤立していても孤独を感じない人もいる。逆に社会的に孤立していなくても孤独を感じる人もいるということになる」※3 と述べます。
つまり孤独と孤立は関連するリスクは高いものの、必ずしもイコールではありません。ここが、支援の難しいところでもありそうです。なぜなら、支援者から見て孤立していても対象者が孤独感を感じていない場合や、支援者が見て孤立していないように見えても実際は孤独感を感じている場合がありうるためです。

②孤独・孤立の問題

孤独・孤立の問題は近年さかんに取り上げられています。たとえば平光(2015)は「独居は孤独感による自殺死亡の危険因子であると考えられる」※4  と述べ、自殺のリスク要因のひとつとして孤立による孤独感を挙げています。政策の観点からは、2021年には内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設置され、2023年には『孤独・孤立対策推進法』が公布されました。同法は「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」 「相互に支え合い、人と人との「つながり」が生まれる社会」を目指すとしています。

このように、国を挙げて孤独・孤立の問題に取り組んでいます。孤独・孤立は様々な問題のリスクであること、そうした状態にいる方々への支援の必要性については多くの人が認識していることでしょう。一方でそれらの施策や支援がどのような効果を挙げられているのか、まだはっきりとした回答は得られていないように思います。


新型コロナウィルスが流行する少し前から、トー横キッズと呼ばれる若者が話題となりました。東京歌舞伎町にある新宿TOHOビル近くにたむろする若者のことです。フィールドワークの手法でその様子を描いた佐々木チワワ氏は、未成年の少年少女がトー横に集まり、そこで生活する人々を参与観察しました。彼ら、彼女らの多くは家庭環境の劣悪さや学校での馴染めなさなどから、自分の居場所を探し求めてトー横にやってきます。家庭や学校など身近な社会資源があるものの孤独感を感じており、その孤独感を埋め合わせるためにトー横に集まっているようです。佐々木(2021)は「問題があるから逃げてきたのに、問題が起きている場所に追い返すだけでは、問題がくすぶるだけだ」※5 と述べます。筆者も同感で、孤独感を抱えつつも、孤立を避けるためにやってくる若者に対して、支援をしようと声をかけても「困っていない」と一蹴されるだけでしょう。時々一斉補導の様子がニュースでも取り上げられていますが、無理やり家庭に戻せば、孤独感はさらに高まることが予想されます。一方で治安の問題や様々な事件が発生していることや、トー横で孤独感の''埋め合わせ''は出来ても、それは一過性のものである可能性もあり、支援者が全く関与しないことがよいとも思えません。果たして彼ら、彼女らにはどうやって、どのような支援が必要なのでしょうか。


少し話が複雑になってきたので、整理してみましょう。まず、孤独は主観的なもの、孤立は状況的なものであること。孤立が孤独感を生むことは多いが、孤立していても孤独感を感じなかったり、孤立していなくとも孤独感を感じる場合があること。
孤独感のある方々への支援は重要であるが、不用意にもとの場所へ帰すことは、孤独感に対する支援にはならず、かといってリスクある場所に留まることが孤立の解消といえるかは疑問であることについて述べました。


③役割(キャリア)の大切さ

孤独・孤立の問題は複雑かつ介入しにくいものであることがわかりました。筆者は就労支援をしているため、仕事という視点から孤独・孤立について考えてみたいと思います。

まず、孤独・孤立の要因の一つに役割の喪失があるのではないかと想像しています。

役割とは辞書によると以下のように説明されます。

1 役目を割り当てること。また、割り当てられた役目。「大切な役割をになう」「自分の役割を確実に果たす」
2 社会生活において、その人の地位や職務に応じて期待され、あるいは遂行しているはたらきや役目。

デジタル大辞泉|大辞泉|小学館 (daijisen.jp)

特に2番目の意味は、社会とのつながりの中で生まれるものであり、孤立という状況と関係がありそうです。
ネヴィルとスーパーという学者は「ライフキャリアの虹」(キャリア・レインボーとも呼びます)という図を作成しています。

Nevill&Super(1986)をもとに岡田(2007)作成 ※6

キャリアと聞くと仕事におけるキャリア発達を連想する方が多いと思いますが、ここで見られるのは、仕事に限らず、学校や地域生活など様々な役割を並列的に担うのが人間であるということです。このうち、各生活段階における最適な役割が担えないとすれば、それは孤立につながるのではないでしょうか。

松為(2021)はライフキャリアの虹について「人生を通して出会うさまざまな役割の中でも、特に、仕事をする「職業人」は成人期から老年期の中心的な役割となっており、それだけ人生全体に対して大きな重みをもっていること。ですから、ライフキャリアにおいての「働くこと」の大切さを認識することが必要」※7 と述べています。
つまり、人生の中でも中心的な位置を占める「働くこと」を通して孤立の解消を図ることができるのかもしれないのです。これは一つの希望であるともいえるのではないかと感じます。

また、孤独感という主観的なものへのアプローチは、シャインの自己イメージに関する理論 ※8 が参考になります。彼は、人には変え難い信念のようなもの(アンカー:船を停めておく楔)があり、その自己イメージを8つに分類し「キャリア・アンカー」と名付けました。
そして、自身のキャリア・アンカーと実際の職務が適合することで、仕事への主体的な役割を見出すことができるとしています。
松為も、役割を得ることは個人的な満足につながることを述べています(以下の記事にまとめています)。仕事を通して誰かの役に立っていたり、感謝されるという感覚を持つことは、孤独感の解消につながるのかもしれません。
役割とは、役になり役に立つということ。これが現在の障がい者雇用で行われているのかというのは、甚だ疑問です。


④働くことを通して孤独・孤立を解消する試み

孤立・孤独の解消に、仕事を通した役割の取得が1つの手段となる可能性を提示してみました。

一方で、ここまで読まれた方の中には「仕事」があっても孤独・孤立になるだろう。また、やりがいある仕事を見出せる人は一握りだろうなどと疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。もちろんその通りで、先ほどのライフキャリアの虹でも示した通り、人の役割はなにも職業人に限ったものではありません。その方が、その方らしくいられる場所で役割を担うことができればいいのだと思います。ただわたしは、役割を喪失した方に対して、一番の近道はやはり「仕事に就くこと」ではないかと考えています。そして、職業人としての役割から派生し、他の様々な役割を取得できる可能性もあると思っています。

では、孤独・孤立の状態にある方々にどうアプローチすればよいのでしょうか。筆者は以下の2つを挙げたいと思います。

1.会い続ける支援
冒頭で紹介したトー横キッズのように、孤独・孤立は顕在化しにくい問題です。対象者が自ら相談先に出向くことは少ないでしょうし、支援を受けるというスティグマから困り感を表明できないかもしれません。SOSを出す力のことを「援助希求」と呼び、近年その能力を高める教育の重要性などがいわれますが、私はこれに違和感を感じています。なぜなら、助けてと言える人を育てることは、言えない人を作ってはいけない、つまり助けてと言えない人はダメな人であるという議論につながりかねないからです。助けてと言えない人には、その人なりの理由があるはずなのです。

岩室紳也医師、熊谷晋一郎医師、松本俊彦医師は座談会にて援助希求への違和感を語っていました。この中で岩室氏は「「助けて」と言えないうちに助けてもらっている関係ができあがっていることが重要ではないか」※9 と述べます。熊谷氏も「「『助けて』って、なかなか言えないよね」と愚痴をこぼせる人」がいることが大切である※9 と話します。
またフェミニストの上野千鶴子氏も「孤独を癒すのは、「あなたはひとりじゃない」というメッセージではない。もっと正確にいえば、「あなたが孤独であることを、同じように孤独であるわたしが、理解はできないが、知っている」というメッセージである」※10 と述べます。支援者がやりがちな「あなたはひとりじゃない」という月並みな言葉ではなく、インフォーマルな関係で、ただ挨拶をし、近況を語り合うことで「実は…困っていて」という言葉が出てくるかもしれません。

こうしたゆるやかなつながりを作るために「とにかく会い続けること」が必要であると思います。そしてこれは、専門家に限らず非専門家でも行えることです。社会学者の宮台真司は「入れ替え可能な存在として扱われると人は孤独を感じ」る※11 と述べ、人を入れ替え可能な「それ」ではなく入れ替え不可能な「あなた」として見ることが孤独の解消に繋がると指摘します。かけがえのない個人として互いが知り合うため、その人に興味を持って会い続けることが孤独・孤立解消の第一歩なのだと思います。

2.伴走型支援
会い続けることで、孤独・孤立の問題が浮き彫りになり、支援ニーズが把握できたとして、できることはなんでしょうか。
わたしは前回投稿したIPS全国研修会をまとめた記事でも「伴走型支援」の重要性を述べました。


伴走型支援とは、厚生労働省(2019)の報告書によると「つながり続けることを目指すアプローチ」※12 を指します。
同報告書では、伴走型支援を進めることで以下の3つの変化が期待されると示されています。

・ 個人が複雑・多様な問題に直面しながらも、生きていこうとする力を引き出すことに力点を置いた支援を行うことができる
・ 「支える」「支えられる」という一方向の関係性ではなく、支援者と本人が人として出会い、そして支援の中で互いに成長することができる
・ 具体的な課題解決を目指すアプローチとともに機能することによって、孤立した状態にある本人が、他者や社会に対する信頼を高め、周囲の多様な社会関係にも目を向けていくきっかけとなり得る

厚生労働省(2019) 「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(地域共生社会推進検討会)最終とりまとめ,p6.

個人の「力を引き出すことに力点を置いた支援」であることや「互いに成長すること」「他者や社会に対する信頼を高め、周囲の多様な社会関係にも目を向けていく」ことなどは、まさに職業人としての役割を果たすことで達成されるのではないでしょうか。
そのため、やはり働くことは孤独・孤立の解消に向けた入口として効果的であると感じます。就職活動、就職後のサポートまで個別的に支援できる伴走型支援は、仕事を手段に孤独・孤立の解消に役立ちます。
現在の障がい者就労支援の多くは、キャリア発達の視点が置いてけぼりにされているように思います。就職することが目的であり、その後の支援がないがしろになってしまうことは、新たな孤独・孤立を生み出しかねません。価値判断は対象者自身で行い、その選択を常に支える伴走支援は、孤独・孤立の問題に対して有効であると思われます。

⑤課題と展望

孤独・孤立の問題と役割(キャリア)の関係、働くことを通してこの問題を解決できる可能性について述べてきました。

もちろん生命の危機がある場合は居住確保や安心・安全を確保する支援が最優先である場合もあります。また筆者の経験の乏しさから、今回の記事では若者や障がいのある方の就労支援をイメージしているため、ここで論じた対象者像にはある程度偏りがあることは否めません。

それでも、仕事を通して役割を担うこと、そのための伴走型支援が孤独や孤立に対して希望の光を当てる可能性は否定できるものではないと思っています。

最後に展望についてです。トー横キッズの問題については現在、公益社団法人日本駆け込み寺という団体が支援を行っているようです。また、関西圏には大阪・ミナミのグリコ看板下(グリ下)にたむろするグリ下キッズと呼ばれる若者もいるようです。そうした若者たちに対しても、弁護士の田村健一氏が「一般社団法人ひとりぼっちにさせへんプロジェクト」を結成し活動しています。この2団体が包括連携協定締結を結んだことが最近ニュースになっていました。


こうした、地域ぐるみで問題を共有し連携する動きが出てくるのは喜ばしいことだと感じています。わたしの勤務する事業所でも、支援の質を評価する外部調査において課題として以下のようなご指摘をいただきました。

JIPSAフィデリティ調査 2023年度フィードバック資料より

単にサービスを受けに来る方だけへの支援のみならず、地域全体で孤独・孤立を無くしていくような試みを今後は行っていく必要があるのかもしれません。就労支援で培ったノウハウをもとに、地域全体とゆるやかにつながる支援を模索していきたいと思います。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


-引用文献-

  1. P.タウンゼント著・山室周平監訳(1974)『居宅老人の生活と親族網―戦後東ロンドンにおける実証的研究』垣内出版株式会社,p227.

  2. 浦光博「なぜ社会的孤立・孤独の予防が必要なのか」『SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)について』2022年ワークショップ資料(https://www.jst.go.jp/ristex/info/files/02_2022workshop_ura.pdf)2024.3.23閲覧.

  3. 佐々木広史(2009)「社会福祉援助課題としての「社会的孤立」」『東洋大学/福祉社会開発研究』2号,pp7-18.

  4. 平光良充(2015)「孤独感による自殺死亡と同居人の有無の関連」『厚生の指標』第62巻第6号,pp16-19.

  5. 佐々木チワワ(2021)『「ぴえん」という病 SNS時代の消費と承認』扶桑社新書,p64. https://amzn.to/3PGRVjo

  6. 岡田昌毅(2007)「ドナルド・スーパー:自己概念を中心としたキャリア発達」渡辺三枝子編『新版キャリアの心理学 キャリア支援の発達的アプローチ』ナカニシヤ出版,p37. https://amzn.to/3VJSE7v

  7. 松為信雄(2021)『キャリア支援に基づく職業リハビリテーションカウンセリング-理論と実際-』ジーアス教育新社,p66. https://amzn.to/3IZvNNx

  8. E.H.シャイン著・金井寿宏訳(2003)『キャリア・アンカー: 自分のほんとうの価値を発見しよう』白桃書房. https://amzn.to/4aebvff

  9. 岩室紳也・熊谷晋一郎・松本俊彦(2019)「座談会「依存」のススメ-援助希求を超えて」松本俊彦編『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』日本評論社. https://amzn.to/3TXRzHG

  10. 上野千鶴子(2011)『おひとりさまの老後』文春文庫. https://amzn.to/3TCoCQf

  11. 宮台真司(2023)「「自分に関係ない」と見切れば、大久保公園の現象に加担するのと同じ」春増翔太著『ルポ 歌舞伎町の路上売春』第6章 彼女たちはどこへ行くのか,ちくま新書,pp237-246. https://amzn.to/4cE6ttQ

  12. 厚生労働省(2019) 「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(地域共生社会推進検討会)最終とりまとめ,p6


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