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高専エッセイ 〜寮とセサミ〜

はじめに

運営メンバーまいんが高専との出会い、
高専生活の激闘の歴史を不定期に綴る連載シリーズ。
第二回の今回は寮での出来事をエッセイ仕立てで振り返ります。

寮とセサミ

皆さんは寮生活をしたことがあるだろうか。
高専内で一般的であるかは存じ上げないが、私の母校は、
入学して一年目は必ず寮に入る、いわゆる”低学年全寮制”だった。

学生寮というものは得てして独特の空気感を纏っているものだが、
高専における”それ”は特に顕著である。
学生の自治性の強さから来るものか、はたまた高校生から大学生までの年代が一緒くたの環境で過ごしているゆえか、
とかくなんとも言えぬ特有の雰囲気があるのである
(謎の奇祭、独自のスラング、寮ごとのローカルルールなど、今思い返すと単なる寮を超えた集落的小社会であった)。

私が高専の寮に在籍したのは2年間のみであったが、その間本当に様々なドラマと事件があった。つまるところ、高専寮というのはへんてこな部分も多いが同時に大変に愉快な場所なのである。

高専における寮生活の中で、今なお記憶に残りつづける事件がある。
入学当初、相方(前回の記事)とまだあまり馴染みきれていなかった頃のことであったと思う
(なおここでいう相方とは相部屋の住人を意味している、低学年寮生は強制的に相部屋に配属されるのだ)。
彼との馴れ初め、入寮初日の出来事に関しては以前も取り上げたのだが、お互い生真面目な気質ゆえかコミュニケーションは不得手であったものの初日は難なく挨拶を交わし、交流ができた。その日は夜の消灯後までお互いの話などを語りあったほどである。

しかし、いく日、いく週を過ごしたころ、一転して交流に難を抱えるという事態に陥った。
というのも、お互い話し下手であるがゆえに雑談ができない。
何か話題がないとそもそも話しかけられないのだが、
入学当初の熱に浮かされ話すべきことを話し切ってしまったのである。
そのため、当時は常に何か話のきっかけはないか探すように日々を過ごしていた。
なんと話題の貧困なことか。

ある日の放課後のことである。
相方よりも先に帰寮し部屋の扉を開けると、
彼の勉強机の周辺に、"何か"が散らばっている様が目に入った。

当時、私と相方はいくつか存在する寮の棟のうち、
H寮という寮に住んでいた。
4階建てでいささか年季は入っているもののしっかりとした作りの良さを感じさせる寮である。その寮の1階の角部屋、101号室が私達の居室だった。
部屋を出てすぐに玄関、玄関をでてすぐに食堂のある立地は大変に利便性がよく、また、入学前にたまたま見学で訪れた部屋だったこともあり、偶然に101室への入居が決まった際は運命的なものなども感じ大変に喜んだものである。

101号室では、広さ10畳ほどの空間を私と相方で共有しており、右半分を私、もう一方を彼が使用していた。
その彼の領域、備え付けの勉強机の足元に"それ"は散らばっていた。

黒く、小さなそれは、"黒ゴマ"であった。

私も相方も、黒ゴマを使ったものなど食べた記憶もなければ、ごま塩をぶちまけた記憶もない。ましてや綺麗好きの彼のことである、散らかしたとしてもそのままにしてはおくまい。

はてな、と思いながら背負っていた荷物を下ろし、”黒ゴマ”へと歩みを進めて覗き込む。
部屋の入り口からではかすかにしかみえなかったそれは、
予想を遥かに超えた集団であった。
見渡す限り一面の”ゴマ”、”ゴマ”、”ゴマ”…。
床のみならず周囲を見渡すと机の上や壁際、ベッド…
とにかくあらゆるところに”黒ゴマ”が散らばっているのである。
そして気づく食料品が入ったロッカーから伸びる一筋の黒い線…。

思えば、101号室はひどい部屋であった。
玄関が近いため常に埃っぽく、食堂から帰る学生たちの喧騒はやかましい。食堂のゴミ捨て場からは悪臭が漂ってくるような気さえする。
そしてなによりひたすらボロい。
とんでもない部屋である。
なぜこんな寮に、部屋に、わざわざすんでいるのか。
家も近いんだし、進級したら絶対に寮を出て自宅から通おう、そうしよう。

そのようなことを思いながら、
窓から差し込む西日をうけもぞもぞとうごめく”黒ごま”の集団をながめ、
私はただひとり立ち尽くすのであった。


そこから数週間は、”黒ゴマ”との戦いの日々であった。
食品を処分し、
部屋のありとあらゆる隙間を密閉し、
見つけた”ゴマ”は即座にガムテープで巻き取っていく。
しかしそれでもなお、彼らは現れるのである。
現れないときにはとんと現れず、現れるときには溢れんばかりの大群をひきつれてくる。人間の都合などしったもんかいとばかりに時間や曜日も無視した彼らの奇襲作戦に、私達は疲弊していた。
だがこちらにも人間の、そして高専生としてのプライドがある。なにより、新たな生活環境にやっとのことで馴染み始めたばかりなのだ。”黒ゴマ”ごときにおくれをとったことが他の学生にしれようものなら寮中の、いや高専中の笑いものなることは必至である。こうなってはもう引き下がるわけにはいかない。
徹底抗戦の構えである。

来る日も来る日も私と相方は”黒ゴマ”への対処方法を語りあった。
計画を立て、会議を行い、資材を調達し、失敗を重ねながらもサイクルをまわしていく。さながらそれは、一つの共同プロジェクトであった。
真剣に一つの目的に立ち向かうための”チーム”となった私と彼の間に、
もはや言葉は必要ない。確かな絆が、そこには生まれていたのである。

不本意ながら始まった闘争の日々ではあったものの、日に日に深まる相方との信頼関係、”黒ゴマ”とのイタチごっこは楽しく、高専に入ってから、何かを本気で成し遂げたいと思った初めての瞬間でもあった。


しかし、そうした日々はある日突然におわりをむかえる。
私達は”黒ゴマ”に勝利したのだ。


自分たちで思いつく様々な対策を試すも失敗がつづくなかでアイデアも尽き果て、図書館だったかインターネットだったかで情報を調べていたときのことだった。
それまで、密閉、食品の処分など様々な手段をとったにもかかわらず、彼らが何度も現れることを不思議に思っていたのだが、その理由の一端が”フェロモン”にあるのではないかと思いいたったのだ。

今になって考えると、何日も持つようなものでもなさそうだし、
理由は別にあったのかもしれない。
しかし、当時いきづまりを感じていた私たちは、
突如降って湧いたアイデアに絶対の確信を抱いていた。これしかない。


そこからの行動は早かった。
これまでにも殺虫スプレーなどを撒き散らすなどの対策はしたものの、効果は薄かった。であれば、”徹底的に”やる必要があるにちがいない。


バケツ一杯の水を抱えた私と彼が部屋に戻る。
部屋の中の荷物がすでに片付けられ、離れた場所に避難されていることを確認した私達は、床、壁、天井、ベッド… 奴らの残した痕跡すべてを洗い流すかのように、これまでの恨みつらみとともにバケツの中身をぶちまけた。
ごし、ごし、ごし、ごしと、普段の寮内清掃でみがいたスキルも活用しながらあらゆる箇所を洗い上げていく。
すべての箇所を洗い上げた後、残っているのは満足げな笑みをうかべた私と、相方と、みずびたしの自室であった。

その日の夜、部屋の乾燥を待ってから、
ダメ押しとばかりに設置型殺虫剤を室内にこれでもかと敷き詰めた後、
私と彼は床についた。
今までは、いつ就寝中に奴らが現れるのかと気が気ではなかったが、
不思議とその日は、枕を高くして眠ることができた。

翌朝、部屋に”黒ゴマ”はあらわれなかった。
それどころか、週をまたぎ、月をまたぐころになっても彼らは姿を見せない。
私達は、彼らに打ち勝ったのだ。

しかし不思議なもので、当初はあれだけ忌々しくおもっていた”黒ゴマ”達も、いざいなくなってしまうと、ともに過ごした隣人を失ったかのようなもの哀しさを感じるのである。

そしてこれもまた不思議なのだが、
当時あれだけ懲り懲りだと感じていた寮生活だが、
その翌年も寮で過ごし、
高専を卒業した今でも、学生寮に再び住んでいる。
そうして何故か同じ寮には当時の相方のIも入居しており、
今度は”黒ゴマ”ならぬ、異様にてかてかしてうすひらべったい”黒マメ”に二人して悩まされているのだ。

因果なものである。

あとがき

いやー、高専って基本的に都市部から離れてるところにあったりするせいもあるのか多いんですよね!とか野生動物!!
アリとか羽虫はじめ名前に出すのもおぞましいアレとか!アレとか!アレとか!

僕が一年目に住んでいた寮は1階で、周囲に露地や木々があったり食堂のゴミ捨て場があったりとかも相まってか一時期本当にひどく、
寮の思い出 ≒ 虫との思い出といっても過言じゃなかった気もします笑

高専生の皆さん!特に新入生の方などは同じ轍を踏まないよう、
入寮される場合は先輩などにも聞いて虫の対策は怠らずに!

今日の教訓
みつけたら 早めに対処 アリとゴ○  (字余り)

俳句や短歌では小文字って一文字に数えないらしい!


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