私とN:泣いてない日が階差数列

今年の8月の頭、つまり夏休みの始め、Nが私の家に泊まりに来たことがあります。
理由は1限から5限まである集中講義を受講するため。早起きが苦手なのに、大学まで1時間以上かかる実家に住んでいるNは、1限に確実に間に合うために私の下宿で眠ることにしたのでした。

近所の定食屋に晩ご飯を食べに行って、家に一緒に帰る道すがら、
「むふふ、初のあんちゃんの家、興奮して寝れないかも」
Nはいつも通りふざけていました。
家に帰って、私は少し勉強して(その間Nは変なポーズで筋トレをして)、お風呂に入って。

Nのスマホに誰かから電話がかかりました。歯磨きをしながら、歯ブラシをくわえたままでどうやらNは、彼女と別れたばかりの男友達の相談を受けているらしいのです。
「今日も泣かへんかったん? えらいやん! だって、前は毎日泣いてたやろ。それで一日泣かん日があって、それで一昨日は泣いたけど昨日と今日で二日も泣いてない! 階差数列やん! 進歩してるやん」
私はベッドに寝そべったままで、洗面所から聞こえるNの励ましを聞いていました。
「まぁ、その流れで行くと、明日泣くことになるけどな! まぁ、ええやん、徐々に泣かん日伸ばしてこ」
Nがこちらの部屋に入って来て、私が敷いた布団にごろんと横になりました。私は、自分が置いてけぼりにされているにも関わらず、Nと電話先の得体のしれない失恋男との会話が心地よく、Nに合わせてふふふと笑いながら聞いていました。
(歌ってもいい?)
失恋男はNの励ましで元気がでたのか、突然、サザンオールスターズのTSUNAMIを歌い始めました。
「なんやねん急に!」と突っ込むN。Nと私は彼の歌を邪魔しないように、息をひそめながら、顔を見合わせてくくくと笑っていました。
歌い終わってから
(誰かおるん?)
と失恋男が聞きました。
「あんちゃんやで。今日、友だちのあんちゃんの家に泊めてもらうねん。」
Nがあぐらをかいて、身体をゆらゆらさせながら、言います。
それからNは二言三言交わして、電話を切りました。

「うるさくしてすみません。今度お菓子あげます、やってさ」
「ゴディバが良いって言っといて」
勝手に電話を始めたかと思えば、勝手に3人の楽しいやりとりにしていて、泣く日のことも泣かない日のことも勝手に全部を丸く収めていて、Nはすごい。
失恋する日、私は電話をする相手にNを選びたい。きっと私や今日の男だけじゃなく、Nのことを知っている人ならみんなそうです。
Nなら、歯磨きしながら、筋トレしながら、かつ丼を食べながら、スマホゲームをしながら、きっと最高に笑える話にしてくれる。その日、私もなにか歌を歌ってしまうのかもしれません。

「抹茶のお酒あるんだけど、N、抹茶好き?」
「好き好き好き、そんなん飲むしかないやん。論文読んでへんけど明日の朝やるー!」
Nとの楽しい夜はまだ始まったばかりです。

#エッセイ #随筆 #コラム #失恋 #恋愛 #友情 #とは

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miya

【エッセイ】私とN

友人Nとのことについてのエッセイです。 たぶん、私が書くエッセイの中では今のところ一番面白い。
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