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コロナ禍、海またぎのアートワーク制作

皆さんこんにちは。音楽プロデューサーで作曲家の齊藤耕太郎です。

いよいよ、アルバム「VOYAGER」のリリースまで残り数日となりました。8月7日(金)にどのようなスタートを切られるのか、僕自身、ようやくワクワクできるようになりました。意外と言われますが、不安な要素をなくしていかないと自信を持てない性格だったりするので、ようやくやることをちゃんとやり切れた実感を持てているんだと思います。

先日書いたこの記事が、すごい初速で読んでもらえています。ここで書いた通り、今作に限らず僕らの作品はサブスク市場に最適化した形で制作・プロモーションを組んでいます。是非、引き続き下記のスマートリンクから事前予約「Pre-add, Pre-save」をしてもらえたら嬉しいです。


さて。

本日は長らく書きたくて仕方なかった、
アルバム「VOYAGER」のアートワークについて
書いていこうと思います。


アルバムのコンセプトからおさらい

僕らが今回のアルバム名を「VOYAGER」とした背景には、少なからずコロナによる世界的な自粛ムードが背景にあります。

外に出られない。窮屈な環境で、ストレスや不安を抱えて生きていた緊急事態宣言下の東京。世の中が暗く、不安に満ちていた頃に、僕たちが見出せた希望や光を表現するには、どんな世界を描けばいいのか。その答えは、緊急事態宣言が発令された翌朝、稲妻のように降りてきました。


心の世界を旅しよう。
荒波ひしめくこの世界で、力強く航海に出よう。
心の中にある、僕たちが求める理想郷へと旅立とう。

このアイデアに一切の迷いがなかったのは時代の影響でしょう。今回はデモを4月中に全て作り終えていたので、デモが出揃った段階で、アートワークについてどのような世界を可視化すべきか、当初から芯を持って考えることができました。


音楽がリモート共作だから、絵もそうしよう

この時代に僕らが希望を持ってアルバムを作りきったことを、生涯忘れずにいたい。そう考えていたのは確か、4月の終わりだったかな。その時、僕の周りにいた絵画アーティストたちの顔がふと浮かびました。

まずは僕の作品のアートワークをいくつも描いてくれている、NoL

モノクロのペン画を基調とした、ストリートファッションスタイルの絵を得意とする彼。MSGMの衣装協力いただいている僕たちの最新アーティスト写真のスタイリングも彼が行っていて、スタイリストとしての活動とアーティストとしての活動が、最近ますますリンクし始めている気鋭クリエイター。僕にとっては駆け出しの頃からの仲間で、発展を常に共にする相棒です。

今回のアートワーク構築は、彼が絵画アーティストたちのことを深く理解しながら進めてくれたおかげで、ものすごくバランスよくそれぞれの個性が生きる作品となりました。詳しくは後述。彼のそのバランス感覚に、僕は公私共にかなり救われています。

ちなみに、これまでの映像作品のほとんどは彼のスタイリング。
この機会に是非、興味ある方はNoLのお仕事をご覧あれ。

衣装がなくとも、部屋などの静物のスタイリングもセンス抜群。



そしてNoLから紹介してもらった、川口絵里衣(エリー)さん。

彼女も同じくモノクロのペン画を得意とするアーティスト。SNSで見ても、その描き込み具合が、えぐい・・・原画で見ると、その狂気ぶりが強く伝わる、物凄い変態ぶり(もちろんいい意味でね。)

コンセプチュアルな女性の絵、アゲハ蝶のモチーフがたびたび作品に登場します。超緻密なタッチから伝わってくる繊細さ、儚さ、相対する毒々しさや強烈な強さは、まさに見る者を圧倒し、別世界へと連れ去ってくれます。

そんな彼女はコロナの最中にも積極的に作品発表を続けていて、近々改めて展示の場があるとか。詳しくは以下をご覧ください。

「 IN 」
ELLY KAWAGUCHI Solo Exhibition
ELLY KAWAGUCHI × YU JITO × MISATO AWAJI Body Paint Photo Exhibition

外への広がりから、より内側へと密を込めた絵画作品を発表します。
多種多様な細密だけではない「IN」の世界をお楽しみ下さい。

初の試みとして写真家・地藤悠、
へアメイクアーティスト・淡路美里と共同制作し、
10名をモデルにした、ボディペイント写真展を同時開催致します。

<Date>
2020/9/19(sat)〜27(sun)
13:00 〜18:00
<Place>
gallery 201
〒141-0001 品川区北品川6-2-10島津山ペアシティ201号室 <Elly Kawaguchi official Site>
http://www.kawaguchielly.com
<gallery 201 official Site >
https://gallery201.jimdofree.com

彼女は多方面で活躍しており、とても忙しい日々を送っている。そんな友人が今回のアルバムに二つ返事で参加してくれたこと、嬉しかったなぁ。


更に、モノクロペン画を得意とするアーティストの参加が決まります。このアルバムを共作している内山肇さんの御子息であり、現在ポルトガルで画家として活動しているWATA10(ワタテン)くん。

・・・なんなんですか。この絵、この世界は・・・

独特の、気の遠くなるような細密な描き込みの中で、彼はSFとも思えるようなコンセプチュアルなストーリーを構築しているそう。聞けば中学生の頃からカイカイ・キキ展に何度も入賞を果たしているそうで、名前を挙げたらキリがないほどの現代をときめく大御所たちが、彼の絵の前で茫然と足を止めたそうです。僕は肇さん邸で彼の絵のプリント版を日々見ていますが、はっきり言ってプリントでさえその世界の壮大さに気が遠くなります。

彼は普段ポルトガルで絵を描いていて、今回は肇さんにオリエンを依頼しながら、この細密で宇宙的な世界観を最初の軸としながら絵を描いてもらうことにしました。


いかがでしょうか。
モノクロのペン画、というキャラクターが偶然集まりつつ
その筆ぶりはまるで違う3人の強い個性たち。

この3人が、フルリモートで絵をパスし合って1つの絵を完成させたら、どんなアートワークが生まれるのだろう。全く最終的な完成図の想像ができないまま、普段の仲間同士の付き合いや関係性を信じて、彼ら3人なら絶対に融合する!と確信して3人にオリエンをしました。

僕と肇さんがそもそもリモートで共作している。ならば、絵も誰か1人に描いてもらうべきではなく、個性の融合で圧倒的な世界を創造しようじゃないか。その心意気で、僕らのアルバムビジュアル制作はスタートしました。


僕が書いたオリエン内容

後述しますが、今回は僕の楽曲作品のほとんどのアートディレクターを努めてくれている伊藤裕平さんが3人の絵をアートワークとして形にしてくれています。裕平さんへのオリエン、そして絵のチームを代表してNoLに、4月の終わりにオンラインMTGで僕がコンセプトをオリエンしました。その後、僕からエリーさんに、肇さんからWATA10くんに情報共有しました。


僕のオリエン内容をそのまま添付します。

アートワークへのアイデア
コンセプト:全ての境界線がない世界

季節。
昼と夜。
動物と、人間。
男性と、女性。
人種。
海と、空。

VOYAGERで描かれる30分の音楽体験は、
SaltからEvergreenに至る全ての過程で
ムードがシームレスに入れ替わり、没入しながら
一瞬で旅を終えるような世界。

聴く人個人が、外界と溶け合い、それぞれの心の中に
宇宙を見出し光を見つけられるような
多幸感溢れる理想郷を描きたいです。

企画案
3人のアーティストが絵を描き、最後にアートディレクターが
デザインとして固める、4人コラボで作るポップアート

VOYAGERは、KotaroとHajimeがそれぞれの得意領域を存分に活かし、
お互いが好きなことを、完璧なバランスで作りあったもの。
音楽が共作なのだから、アートワークも共作でありたい。

今回、コラボを実現したいと考えたのは、
3人の、モノクロ線画を得意とする天才アーティスト。

NoL
川口絵里衣
WATA10


この3人がリレーしながら作り上げた1枚の絵を
伊藤裕平がデザインとして
一切の妥協のないアートワークとして完成させる。

音楽の全景が既に見えていたからこそ可能だったオリエンだと今見返すと思います。4人にはデモの段階からずっと音楽を聴いてもらい、自分のターンが来るまでに描きたいことを考えてもらっていました。

抽象的な世界なのに、何か本質的な調和が取れている、そんな世界を描きたいというのが僕からのテーマ。当時、それがどんな絵になるのか、オリエンをした4人にも全く想像できなかったと思います。


全体の絵を完成させるために、それぞれのキャラクターや人間性を活かす順番は?という問いに対して、NoLが提案してくれたのは

①WATA10 まずは絵全体の軸を作ってもらおう
②エリー 彼女の毒々しさや圧倒的なパワーを宿してもらおう
③NoL 2人の個性を活かしながら、音楽性を強く調和して描こう

というもの。この順番が結果的にものすごく効いて、素晴らしいバランス感覚の絵が完成しました。リモートでも、しかもこんなに個性がバラバラのアーティストたちの絵も、完璧に調和したのはNoLの提案あってのこと。

それぞれ、独自の解釈をしてくれた状態で、筆が入り始めました。


3人の絵がどう組み合わさったか


さて、ここからが一番面白いところ。
この3人の絵がどう一つになったか、という話です。


まずは、WATA10くんの絵。中央にドドンとUFOらしきものが。

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彼のFacebookに上がっていた物語を引用させていただきます。

パチッ...パチパチッ...(暖炉の音)
おやおや 眠れないのかね?
まあそこに座りなさい。
婆さんや グロンファになにか温かい飲み物を出してあげなさい。

さて、飲み物が来るまでの間に1つ昔話をしてやろう。
今から話すのはとある惑星で実際に起きた話じゃ。

昔々の大昔、地球というそれは綺麗な惑星があったのじゃが、
人間たちは戦争ばかりしていた。
最終戦争で全ての都市機能が停止した後、
惑星の大崩壊が起き始めたのじゃ。
人間たちは大崩壊を食い止めるべく統合政府を設立し、
全世界の秩序を保ち惑星が死にゆくのを止めようとしたのじゃ。

じゃが統合政府は300年で終わった。
何故なら汚職がそこらじゅうに蔓延っていて革命戦争が勃発したからじゃ。
人間たちは戦争に夢中で誰も惑星の崩壊を止めなくなってしまったのじゃ。

そして終戦後、僅かな数の人間たちは生き延びた。
重力異常により崩壊していく都市を見ながら、
まさに天に登ろうとしていた時にソレは起きたのじゃ。

突如、身体が光に包まれ気付いた時には
先程までいた場所とは違う場所にいたのじゃ。
そして動物達もまたこの場所に次々と転送されてきたのじゃ。

人間たちは今まで抱いていた動物達に対する不信感や嗜虐心が薄れた。
動物達もそのように見えた。
そして私達は互いを抱き寄せ歓喜の涙を流した。

...話しすぎたようじゃな。

もうこんな時間じゃ。
ほら飲み物が来たぞ。もう今日は寝なさい。
続きはまた次回。

WATA10くんの頭の中には、すべての要素に完璧な物語があるんです。ここでもまだ、語り尽くせぬものがあるようで、実は彼の中にはこの絵の「更に下の世界」まで構想があるよう・・・21歳の彼の世界は、既に一度完成し切っているのでしょうね。全くブレがなく、澄んだ世界。


そんな絵を預かったエリーさんは、彼女自身の持つ作家性と創造力をフルパワーで発揮し、僕にメッセージを添えて送ってくれました。

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悪意に咲く花もある
善意に群がる汚さもある

それを判別することなどできず、
己に従えど、あなたは何かに縛られる

包む手か、離す手か
救いの手か、殺す手か

人ありきの宇宙
見たことのない果てを
想像し、飛躍するから、旅立てる
時に思考は、宙を超え、人体を超える。

翅のかけらのもう一つは、自分で探せ

僕はこの絵がメッセージとともに届いたとき、美しくも毒々しい世界の中に、影の強さを感じました。彼女は、この世界には良いことだけでなく、人の汚さ、やましさ、卑しさも疑いの余地なく存在することを僕の感性に突きつけてきました。

それを以てしても、僕たちは自分たちの理想郷だけを見て、己の力で飛び立つんだ。そう強い意志を感じさせてくれました。前に踏み出すのは自分自身。他人や社会は、誰もあなたの一歩をくれたりはしない。彼女にそう突きつけられたような気持ちになりました。

画家として一本立ちして、この社会の中で腕っぷし1本で頭角を表してきた川口絵里衣というアーティストだからこそ描ける、毒をもって毒を制すという言葉が似合う旅路だなと今改めて思います。


そして、この2人の力作を預かったNoL。彼は僕らの音楽性だけでなく、年末年始からの曲作りの工程や僕らの人間味を一番近くで見守ってくれていた仲間。そんな彼のタッチは、僕らの気持ちや向かうべき先をはっきりと、人に伝わる形で指し示してくれました。

Voyager低データ

アンティークでボロい羅針盤。
反転されたユニークなデザインが気にいってる。

正しい方角すら示してるのかも怪しい。
でも、これでいい。

正しいかどうかなんてどうでもいい。
向かうべき先なんて誰にもわからないだろ?
自分の思う様に進めばいい。

今までもそう。
これからも冒険者を繋ぎ止めるコトなんて出来やしない。
誰かが指し示した方向なんて、
気にも止めず、また次の旅路へと…。

・・・今見ると、ジーンと来ます。

彼が言う「向かうべき先なんて誰にもわからないだろ?」という一言に、僕らのアルバムの全てが詰まっていたんだな。このアルバムには、僕らが与えた結末や答えはないのです。VivaOlaくんが歌う「Evergreen」を聴き終えたとき、何を思うかは何百回も聴いている僕らでさえ毎回違う。それがこのアルバムの真意だと僕は強く思えている。

久しぶりに今、彼の描いた絵と言葉を見て、改めて腑に落ちた。僕が迷い、悩んでいた5月末の時期に、既に彼にはこのアルバムの答えが見えていたんだ。彼の絵の強さを、リリースする1週間前に僕は強く実感できました。


3人の絵に対する想いに、作りながら現実世界の不安に押し潰されていた当時の僕はぶつかり切れていなかったのかもしれない。意味を受け取るだけの度量が、当時の僕にはなかったのかもしれない。それでも絶対諦めないと歯を食いしばってマスタリングを終え、プロモーション施策を決められた今だからこそ、僕は改めてこの3人が描いた絵の意味に向き合えた。

とんでもない仲間と一緒に作品を作ったこと。今になって思い知りました。

みんな、本当にありがとう。
君たちの渾身の作品、確かに受け取ったから。
そして、一切の妥協なく、音楽で応えたよ。


緻密でエモーショナルなアートディレクション

3人のアーティストパワー全開の絵を受け取った裕平さんは、しばらくの間じっとこの絵を見つめながら、アートディレクターらしく、僕らの楽曲の世界観を1人でも多くの人に伝えるべく、完璧でいて不完全さを慈しむ形でビジュアルにしてくれました。

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今回のスケッチ、
外側(トンボ的な部分)の鉛筆線がスゴイ素敵だなと思って
「冒険者の地図」のようだと思い、
そこを意識したデザインにしました。
また、強い赤を差し色にすることで、
アルバム全体のポップさも表現しています。

裕平さんがこのデザインを託してくれた時に僕に送ってくれたメモです。まず、トンボを残したこと、そして上の字「A」の部分に残る「94」という数字も全て残したこと、そこに身震いします。

この矢のようなモチーフは、コンパスの針をモチーフにしているそう。白地のスケッチをあえてセピアに振ってくれたこと、僕のオーダーで、赤の色味の透明度を上げて、3人の絵がはっきり見えたこと、どれをとっても本当に素晴らしいポップアートだと僕は思います。

毎回シングル作品でも裕平さんとはメールや電話ベースで(彼が恐ろしく忙しい人だからなかなか会えない)やり取りしながら妥協なくアートワークを詰めてきましたが、今作は裕平さん自身のエモーションを強く感じました。

冷静沈着な仕上がりぶりはさすが、世界の広告祭で受賞経験豊富なアートディレクションぶりだと思いつつ、今作は強い「キモチ」がたぎっている。僕はきっとこの絵を大判にして部屋に飾ると思う。そして今後も、自分がこの時代を生き、希望に溢れた未来を描こうとしたことを、この絵を見て何度も思い出すでしょう。


このアートワークがくれたもの

3人の一筆一筆、そして裕平さんのフォント一つに至るまでの強い想いは、オリエンした僕に巡り巡って、最後の最後まで踏ん張り切る力をくれました。何せ、この作品には同じ時代を同じ気持ちで生き抜いた、楽曲制作以外にも沢山の仲間たちの想いが込められている。


このプロジェクトに集まってくれたメンバーは共通して、
心のどこにも闇がなく、
光のオーラを纏った人たちばかり。

でも、影の存在は認めていて、
影によって光が輝くことを、全員知っている。


僕は、アートワークは音楽の一部だと本気で思っています。

アーティスト写真も、ビデオも、全て揃って僕らの音楽だし、逆を言えば音楽が活きる事で、絵も写真もビデオも活きてくると思う。何が主なのかなんて、それぞれが決めれば良い事。僕らの「VOYAGER」は、どこを切り取っても「心に向き合い、冒険に出かける」という想いに溢れている。


ネットだろうとリアルだろうと、
僕らにとっての本物は、僕ら一人一人が決める事です。

誰かが作った価値の中で自分を探す時代は終わりました。

誰かに認められたくて生きることも今は無意味です。
明日を誰かが保証してくれることはもうない。

だからこそ、僕らは僕ら自身が自分らしくあれる場を
自分たちで探し、見つけ、そして作るんです。


2020年8月7日(金)

僕たちのアルバム「VOYAGER」は発進します。0時になったその瞬間から、僕たちと一緒に、目を閉じて「心の旅」に飛び立ちましょう。

事前予約は上記リンクにて。





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