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生ヴァイオリンをポップミュージックに昇華させて感じた「音色」が与える音の魔法。

みなさんこんにちは、齊藤です。この度、このnoteのご縁でDIGLE MAGAZINEさんでコラムの執筆を開始しました。

noteで書き残してきた僕の音楽配信に関する記事を主として、DIGLEでは最新情報に更新している箇所も多々ありますのでよろしければ読んでみてください。中には有料記事で書いたことも少し載せています。

さて、去る3月6日(水)、ヴァイオリニスト友田絢さんをフィーチャーした新曲「Blue」をリリースしました!

友田さんが生まれ育った鎌倉・七里ヶ浜の春の空と海に着想してこの曲を書きました。春らしい爽やかなトラックに、音楽愛に溢れた友田さんの情熱的で正確無比なヴァイオリン演奏が冴え渡ります。

そして、Spotifyのオフィシャルプレイリストでもリリース当日から2つもピックアップしていただいています。(2019/3/8現在)

「Brainstorm」を見出してくれた「Midnight Chill」、そして今回初めて「半身浴ノススメ」にも入れていただきました。初登場、先頭曲としてピックアップしていただき、毎回本当に嬉しいです。

ヴァイオリン × エレクトロサウンドの融合をテーマに今回楽曲を書いてみて、改めて「生音の力」の魅力に気づかされました。そしてこうして即ピックアップしていただいたことで、今回のような挑戦的なサウンドに対する自信をもらえました。

各ウェブメディアでも配信と共に追って紹介していただけるように。今回はこれまでのリリースよりも早い展開となり、僕が友田さんのヴァイオリンに感じた可能性を、業界関係者各方面で共感してもらえたのかな、と嬉しく思います。


共感から始まった曲作り。

友田さんとは、八景島シーパラダイス「LIGHTIA」の仕事を通じて知り合いました。シーパラのサウンドトラックを作る際、バイラルチャートで1位になった「秒の間」を弾いてくれた飯尾久香さんが自分の大学の同級生である友田さんをキャスティングしてくれました。

※「Love Song」には友田さんは参加していません。

仕事柄、特に弦楽器に関しては自分プロデュース案件のほとんどを生で録音して仕上げています。最近の楽曲制作事情的に、生楽器の録音が厳しい案件が少しずつ多くなっていることも事実ですが、僕は一貫して弦には特にこだわりたい。自分が好きなメンバーと一緒に、心が揺れる音楽を作りたいと常日頃思ってきました。

そんな時、友田さんから「ソロ活動がしたいです」と相談をもらいました。シーパラのお仕事を通じて友田さんと仲良くなったのですが、そのキッカケはREC後に一瞬かけた「Love Song」をお世辞抜きに絶賛してくれたことでした。即、iTunesで購入してツイートしてくれたのをよく覚えています。

友田さんは、テレビ出演、国内外で演奏経験も豊富なヴァイオリニスト。他にもきっと作曲家はたくさん知っているだろうに、自身初のソロ楽曲を僕に相談してくれました。「Love Song」が心底彼女の好みだったようで、「自分もこの曲の世界観に心酔した。」と言ってくれました。

話を聞いていくうちに、彼女が幼い頃から聴いてきた音楽はクラシックのみならず、ポップミュージック、特にダンス・エレクトロサウンドに造詣が深いことが分かりました。音楽家同士が仲良くなれる時って、多くの場合「分かる!!」という楽曲共感ポイントが沢山あります。彼女とはその接点がとても多く、Blueを作り進めていく中でも「そうそう、そうして欲しかったんだよね」とお互いに思える箇所が沢山ありました。

普段、作曲の仕事をしていると、演奏してくださる沢山のプレイヤーの皆さんと出会います。友田さんは年下ながら、気持ちのいい歯に衣着せぬ物言いで僕の作るものにも正直に思ったことを遠慮なく伝えてくれる珍しい人。そういう背景もあり、この曲を書き進めていく上で迷いはありませんでした。


「クラシック出身」をポップミュージックに活かす。

僕は彼女の演奏アプローチ、特に低音部分から高音に上がるフレージングの際に現れる「軋み」「唸り」にも似た表現が好きです。それでいて、決してピッチを外さない演奏。今回「Blue」で目指した『クラシックをきっちりやってきた抜群の技術者が、現代的なポップミュージックを「アーティスト」として奏でたら』は、まさに彼女の持つ技術が根底にあっての楽曲。

これ、Blueの譜面です。(画像は途中から)サビのフレーズはオクターブでユニゾンしているので便宜上一つの段に重ねています。譜面が読める方がこのnote読者の方にどれくらいいるか分かりませんが、この譜面と実際のサウンドを聴いてもらうと、友田さんが自身の感情や音楽への理解を充分にしてくれた上で、かなり弾き方を変えてくれているのが分かります。

クラシック出身の方々とお仕事する際は、譜面が全ての指針になります。譜面にミスがあると信頼されなくなりますし(と言いつつ実はシーパラ案件の時に僕は友田さんにとんでもない譜面ミスを指摘されている 笑 )彼らは当日譜面をその場で見て、どんなに難解な演奏でも一発で素晴らしいテイクを弾いてくれます。ブースの外で聴いていると、未だに驚かされます。

そんな前提の中、僕はこの曲をかなり早い段階から彼女にデモとして聴いてもらい、譜面も渡した上で、どうやればこの曲が「友田絢らしい演奏」になるか、彼女自身に研究してもらいました。ツアーや日々のレコーディング、現場での演奏の合間を縫って、彼女が自らすすんで練習時間を確保し、彼女らしいBlueを作りこんで来てくれました。

僕は以前書きましたが、基本的に音楽を作る時の根本は「弾き手、歌い手、映像や企画全体の魅力を一番に考える」という方針に従います。

譜面に忠実なのが答えではないと思いますし、演奏者の方がソロの際に「あ、間違えた。勝手にフレーズ変えちゃいました・・・」って言ってくれることをなるべくウェルカムします。その方が楽器の特性、そして弾き手の感情がこもるのであれば、僕の正解はそっち。無理して自分の頭で鳴っている音色通りに進める必要なんてないと思っています。その演奏がアーティストとしてなら、尚更。

結果として、友田さんが自身の解釈でセクションごとに情景を変えながら弾いたこのテイクは、ほぼラストテイク一発で構成されています。

イントロの空気感を受け継いだ彼女のグルーヴ感で弾いたAメロBメロ。正確ながら人間味溢れる揺らぎとウネリを持った難解なサビ、あえて感情的にピッチを揺らがせた速弾きのソロ、自信みなぎるラスト・・・全て、結果的に友田さんも僕も納得いく「飛翔感」「グルーヴ」に溢れました。

とても楽しいRECでした。録音してくれたOne Heart Musicの二宮さん、いつも本当にありがとうございます!ここのスタジオ、オススメです。


生音に魅力を引き上げるトラック&仕上げに。

そして、僕自身が気合を入れて作っているこの曲のサビ。ここで活躍しているのは、よくnoteでも書いている「Minimoog Voyager」(通称ボイジャー)です。そう!何と言ってもこの楽器、"Electric Blue Edition"モデル。

Photo by Kota Sasaki

サビで左右で唸りを上げている両端のシンセは、単音しか出ないこのシンセを3本、弦楽器の重奏のように重ねて作り出しています。パワーに溢れながらもクリアでスマートな音色なのがこの楽器の魅力。まさにこの曲のための音色。生音のヴァイオリンの持つ色気をしっかり曲に残すために、無駄な音色や演出は一切なし!通常EDMなどを作る場合は何層にもシンセを重ねて作ることが多いのですが、今回はボイジャーのサウンドを信じました。

もちろん、いつものProphet-5、KORGのKRONOSなどお馴染みのアナログ、アナログモデリングシンセも駆使しています。一貫してハードシンセにこだわっているのは、楽器の持つ魅力同士を掛け合わせたいから。「耳がリッチになる」というレビューをSNSで頂きましたが、まさにそれが伝わって嬉しいです!

そして、ミキシング・マスタリングでも「ヴァイオリンの録れ音」の良さを全面的に押し出しました。「変に背景をリバーブ(残響)で埋めすぎない、録れ音を活かした音色で攻めてみようよ。」とKotaro Saitoサウンドの要を担ってくださるミキシング担当の鎌田岳彦さんに提案いただきました。

マスタリングを担当いただいたDr. SWINGさんとも、友田さんを交えながらとてもクリエイティブな議論をし、昨今のポップミュージックに必要な超低域(ローエンド)をふくよかに取るパワフルで現代的な聴感を目指しつつも、主役であるヴァイオリンを最優先したオーガニックなマスタリングにしよう。という結論のもと、このサウンドが完成。

忘れてはいけないのは、アートワークを長年担当していただいている伊藤裕平さんのこのジャケット。ご友人のフォトグラファーの方が撮影した海の写真をモチーフにさせていただき、サウンドで積み上げてきた世界観を見事にワンビジュアルに凝縮いただきました。裕平さんなしに僕の作品は完成しません。

それぞれのスペシャリストたちの的確なアイデアと圧巻の技術、僕が迷いそうになった時もちゃんとゴールが見えている友田さんの俯瞰力に助けられてこの世界が出来上がりました。


人を感動させられるのは、人だ。

生音にこだわったのも、少数精鋭のスキルを集中させて作っているのも、リスナーの皆さんに楽曲が届いた際、それぞれの込めたアイデアが「アソビ」として生きる余裕をもたせたいからです。

毎回ながら、僕が作曲もトラックアレンジも一人でやっていることが多い自分の作品。それでも一人で完結させず、最高のメンバーとともに曲作りを行っていく理由は「信頼できる人の手が加われば、必ず自分一人で作るより良くなる。」と思えるからです。

生音の魅力、レコーディング、ミキシング、マスタリングは、アレンジされた楽曲を魔法のように別次元にいざなってくれます。AIで音楽制作という話題は日をおうごとに勢いを増しますが、いざ音楽だけで勝負する、となった場合、大事な映画やドラマ、ショーやCMのワンシーンとなった場合、人の手で作られた高品位な楽曲は間違いなく必要とされると思います。

感動してもらう相手が、人の心を持ち続ける限り。

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