僕悪

『僕は悪者。』⑥

   


 六
翌日も田口は健気にも学校に来た。相談した担任の豚ゴミが何か対応してくれるとでも期待したのかもしれない。
だが、もちろん豚ゴミは何もしない。この学校には先生や教師と呼べるような人物は皆無で、全員骨ごとミンチにして豚の餌にして出て来た糞を畑の肥料にするぐらいでしか世の中に貢献することができないような豚ゴミだ。
だから田口は今日も一人で過ごすことになった。
俺が話しかけてやってもよかった。なんせ席は隣なのだから。だが、田口からしたら俺の存在だけが唯一冷静を保っていられる要因でもあるかもしれない。
まだ田口はクラス内で一番下ではないと自分の心に言い聞かせているかもしれない。
一番下はそう、俺だ。今まで田口は俺のことを散々見下していただろう。教室の隅に溜まったホコリよりもずっとずっと見下していたはずだ。
そんな俺に同等目線で話しかけられでもしたらどうだ?きっとあいつのプライドは崩壊するだろう。
まあ、田口のプライドなんて気にしたところで何の価値もないのだけれど。
それに今日の俺の気がかりは田口ではなかった。
家庭科の授業があるということだ。しかも調理実習。高校生にもなって調理実習をするなんて思ってもいなかった。
出席番号順に決められた班で料理をしなければいけない。
もちろん俺みたいな汚らわしい匪賊の作るものを食べたいという人はいないだろうから、俺はずっと椅子に座っておいてやろうと思っている。
そして実際に調理実習の時間が来た。
俺は椅子に座って、じっとしていた。だが、家庭科の豚ゴミは作業の邪魔になるからと椅子をしまうことを命じた。
俺は家庭科の豚ゴミを頭の中で三回殺してから椅子を片付けた。
作るものは肉ジャガだった。どいつもこいつも楽しそうにヘラヘラしながら作っている。
男子はめんどくさそうな雰囲気を出してはいるが顔が生き生きとしている。女子は男子へ自分の家庭的な雰囲気を見せつけるチャンスだと思ってなのか活発に動いている。気色悪い。
「今日の肉ジャガの肉は豚でも牛でもありません。このクラスの生徒で殺し合いをして、半分の人には死んでもらいます。そしてその肉を使います。」とでも家庭科の豚ゴミは言えないものだろうか。ビートたけしのように言えばいいんだ。
全くわかっていない。世の中豚肉や鶏肉なんかが簡単に手に入りすぎている。本来はゆっくりと成長させて、たまーにしか食べることができないものだ。だが、行きすぎた分業制のせいで、俺たちは実際に生き物を殺すことをしないで、殺す瞬間はブラックボックスに隠して安価に手に入れて食べている。
俺たちはもっと何かを殺すということを真剣に考えたほうがいい。だとすると高校で殺し合いをさせるぐらいの方がよっぽど環境にも優しいし、国にとっても優秀な人材を残してアホ供を殺せるのだからいい話だと思うのだけれど。
さて、田口だ。俺の経験談から言わせてもらうと、正直いじめられている身にとって、国語、数学、理科、社会なんかの普通の授業というのは最高に楽だ。
誰とも会話をしなくていいし勉強に集中しさえすればいい。
だが辛いのは体育や家庭科といった科目だ。班行動や二人一組になる必要がある時はもう悲惨だ。自分が「孤独」だという事実を突きつけられ抗うことはできない。
田口はそんな状況を経験したのは初めてのことだろう。
俺はただ立ちすくみ、たまに田口のことをチラチラと見た。
彼は健気にも何とか参加しようとしている。だが、誰にも相手されない。包丁を持てば迷惑そうにされている。
ああ、わかっていない。お前は何もしちゃダメなのだ。
そうして家庭科の時間は過ぎていった。
田口は最後には泣き出しそうになっていた。ああ、こいつはダメだな。俺みたいに精神的に強くない。俺は田口を見て確信した。こいつは不登校になる。
田口はその日以降学校に来なくなった。

(つづく)

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