僕悪

『僕は悪者。』⑦

   七
退屈になったな。俺は田口がいなくなりぽっかりと空いた席を眺めた。いつかは不登校になるとは思っていたがこんなにも早いとは。田口の親は理解がいい親なのかもしれない。
もし高校が合わなくても、親が理解のある親ならフリースクールにでもいくことはできる。不登校向けの塾やら家庭教師もあるのだから学業は学校に行かなくてもそれぞれの努力次第でそれほど落ち込むことはないだろう。それどころか、豚ゴミの授業を聞いている時間を効率的な勉学に使えれば向上することすらあるだろう。
だが、普通は一ヶ月ほど粘って不登校になるものだが。田口はかなりの雑魚らしい。
そのせいで俺はここ二日ぐらいの暇つぶしだった「田口の観察」ができなくなってしまった。
だから、相変わらず同級生をどういう風に殺すのかの妄想でしか暇な時間を潰せなかった。
とはいえ、そろそろそれを妄想するだけではなく本当にしようとも思っているから今までよりも緊張感を持って考えなければいけない。
イメージトレーニングってやつだ。
犯行はここ、つまりは学校のこの教室。刃物を何本か用意しなくてはいけない。その時のためにコツコツと貯めたお金で果物ナイフやサバイバルナイフを買うつもりだ。
犯行時間はいつがいいだろうか。昼休みだと体育館に行っている奴がいたりして教室にいる人数も少ない。
それなら、授業と授業の間がいいだろうか。それは確かにいいかもしれない。豚ゴミがそばにいるかもしれないが、どうせなら豚ゴミも一人か二人は刺してやりたい。
待てよ、授業中というのもありかもしれない。
そうだ。そうだ。俺はかなりいいことを思いついた。ガソリンだ。ガソリンを授業中にでも撒いておいてそこに火をつけよう。そしたらさぞかし目立つことだろうし、授業をしている豚ゴミは恐れおののくだろう。
とは言えそしたら俺も火の中になってしまう。ん~。そうなると自由に刺し殺しにいけないだろうか。
だが、ガソリンに火をつけるというアイディアはかなりいい。
授業と授業の間にガソリンを染み込ませたティッシュを教室のいろいろなところに置いておき、導火線のようなものを用意してそれに火をつけていくのはどうだろう。
大事になりそうだぞ。準備が大変だ。だけれどそれはかなりいいアイディアだ。
でも、ひょっとすると火が出てるせいで避難するやつもいるかもしれない。その中に大山もいるかもしれない。どうせならクラスのトップに君臨しているやつは確実に殺したい。
やっぱりやめだやめだ。もっとシンプルにいこう。
犯行は授業と授業の間の一〇分間休憩。
休憩に入りすぐに俺が立ち上がり大山のところへ向かう。あいつの鼻を思いっきりぶん殴る。そしてナイフで首をさす。
殴って刺すまでは一秒以内にまとめなくては。俺がナイフを刺したらコンマ何秒かはクラス中が何が起こったのかわからないで沈黙するだろう。まだ大山が刺されたことに気がつかないやつもいるだろう。
少しして、叫び声やら何やらかんやら。
俺は大山を刺して動揺してはいけない。すぐに周りの奴らが止めに来るだろうから、それまでの間になるべく多くのやつを刺さなければいけない。
大山の隣の席の江田武、迎えの席の榎本千聖、ここまでは五秒以内だ。
うん、いい感じだ。
でも、やっぱりこういう時は銃が欲しい。銃があればもっと効率的に効果的な悪者になれる。
 いやそうか、ここでガソリンを撒けばいいんだ。そしてそれに火をつければいい。周りの数人は一気に燃やせるし、かなり派手だ。それに火の中なら俺に手を出すこともできないだろう。
俺は火傷したくはないから、まあなるべくガソリンがかからないようにしなくてはいけないな。
あらかじめ大山の机の周りにガソリンを染み込ませたティッシュか何かを忍ばせておければなおさら良い。そのためには朝早く登校しなくては。
そして火が燃えている中逃げ惑う同級生達を次から次に刺す。誰かは泣くだろうし、誰かは絶望の顔を見せるだろう。
とにかくその光景を見た全員が匪賊のこの俺がブルジョワを殺すことに驚き恐れるだろう。
平和な日本にいてはなかなか見ることのないクーデターの瞬間をそいつらは見ることができるわけだ。
そうして俺は捕まるだろう。きっとかなり大きなニュースにもなるはずだ。
ああ、ゾクゾクする。
今日までクラス中に埃以下の存在として無視され、時にはバイキン扱いをされ、影ではキモいだの何だのと散々言われているこの俺が日本中を震撼させるニュースを作ることになるのだから。
この学校の豚ゴミどもはかなり焦るだろう。校長は顔を真っ青にするだろう。
だが、そいつらは全て言って見れば自業自得なのだ。
校長や他の豚ゴミが俺のいじめをもっと早く認識して対応してさえいればこんなことをしようとは思はないだろう。
見ざる言わざる聞かざるを決め込んだ豚ゴミどもの自業自得だ。
そうやって考えると俺は被害者じゃないか。豚ゴミがしっかりしていたら俺は今頃友人とくだらない冗談でも言いながら昼飯を食べていたかもしれない。
はは。俺としては弱々しいことを思ってしまった。
クソみたいな思考しか浮かばない幼稚で低俗なビチグソどもと昼飯を食べるぐらいなら、こうして味のしない焼きそばパンを頬張りながらゴミカスどもを殺す想像をする方がよっぽど有意義だ。
ああ、楽しみだ。実行はそうだな。一週間後の金曜日にしよう。


(つづく)

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