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黒髪の友人

夜の街、街灯に吸い込まれる澱んだ空気が少女の頬を撫ぜる。歳は十六・七だろうか、青めのブレザーの制服に長めの艶やかな黒髪、紅いリップが特徴的だ。蠱惑的な魅力とあどけなさの入り混じった、羽化する直前の蛹のような美しさ、儚さ、そして危なっかしさを併せ持った年頃の少女は、誰かを待っているようだ。手帳型のカバーを付けたスマートフォンを弄りながら、時折画面から顔を上げて周囲を見回し、またスマートフォンに視線を落とす。

場所はとある商店街の一角、商店街のシンボルでもある大きな蛙の石像の前だ。大欠伸でもしているかのように大きく口を開けた蛙の像は何処か間抜けな顔にも見える。なぜ蛙の像なのかを知る者は少ない。一説によれば「帰りたくなくなる商店街」を目指す事を表す為とも言われるが、だとすればむしろ蛙にするべきではないだろう。結局何故蛙なのか分からないその像はこの一帯では待ち合わせ場所の定番だった。目立つので分かりやすく、日頃から像の前には二・三人は誰かを待つ待ち人がいるような、そんな場所だ。

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