北村薫「朝霧」

この本も やはり北村薫さんらしくやさしいのだが 『走り来るもの』の中のリドル・ストーリーにはぞくりとした

愛する妻の目の前で 浮気相手の男の言い出した賭けに乗る夫 
彼は目の前までライオンを引き付けて銃で撃ち倒さなければならない 
倒せれば賭けは夫の勝ち 
打つのが早すぎればライオンは倒せないし 遅すぎれば襲われるが 
その前に浮気相手がライオンを撃ってくれると言う 
だがその場合賭けには負ける

さて 結末はいかに
「わたしは引き金を引いた。弾は…。」 

女は残酷だ いや 時に残酷になれるってことか


『朝霧』に出てくる和歌もよかった

朝霧のおほに相見し人故に 命死ぬべく恋ひ渡るかも 
ほんの少し許り出逢うた人だのに、其人の為に、命がなくなる程、焦がれ続けていることだ 

と言う解釈

切ないな 
現代の女の子達はLINEでいとも簡単に好きと言ってしまうであろうに 
昔の人は ただ好きという想いも 伝えるのは困難だったんだ
どれだけ多くの想いが胸に秘められたまま葬られてることだろうか

想いが伝えられるというのは とても幸せなことだなんだろう


(2008.02.19)

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