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中田永一「吉祥寺の朝日奈くん」

吉祥寺に住む朝日奈くんは 役者への道をあきらめて バイトをしながらなんとなく毎日をすごしている
ルックスのいい朝日奈くんはもちろんモテるけど
どこか煮え切らないとこがあり 女の子とつき合ってもいつも数ヶ月で自然消滅
そんな朝日奈くんがうっかり恋をしてしまうのだけど その相手は実は…
 

私の推測だけど

彼はかっこよすぎるが故に 誰かに恋をする前に いろんな女の子から好きになられてしまい 
つき合ってと言われて断る理由もなく なんとなくつき合い始めるけど
それほど相手に対して強い想いがあるわけでもないので 
執着もしないし深く関わろうともしない

女の子の方でも 最初は彼の優しさを好意と勘違いしてるけど
それほど鈍くない女の子なら じきに気がつくもんである 
彼にとって自分は他ならぬ人ではないし それはこの先も変わらないだろうということに

応えてくれない相手に対する気持ちなんて いとも簡単にしぼんでくもので 
愛想尽かした女の子からのさようならか はたまた自然消滅の繰り返しとなるわけで

かっこよすぎる男の子ってのも不憫だなと思う
ふと恋に堕ちる機会を 次から次へと寄ってくる女の子達に奪われてしまっていて
恋愛経験豊富に見えて実は 本当に人を好きになったことなんかないかもしれない

誰かを想って夜眠れないとか 人知れず涙を流すとか 
目が合っただけでドキドキするとか ひと言話せただけで一日中嬉しかったりとか
普通の人が経験するそういうありふれた想いを 知らないかもしれないのだ


けれど 朝日奈くんは 遅ればせながらだけどやっと本当の恋をした

よかったね そういう他ならぬ相手が見つかるってことは幸せなんだよ

いつまでものこるものは信仰と希望と愛で、一番すぐれているのは愛。けれど、僕たちの心の中は、どうしようもないほどはかない。永遠とか、絶対とか、そういうものはないのだ。愛があったはずなのに、それがいつのまにか消えてなくなっている。
あらゆることはすべてうつろうのだ。

でも そうならないこともあるかもしれないし いつまでも残るものもあるかもしれない
理屈じゃなくて そんなふうに思えるようになることが 
本当に人を好きになるってことなんじゃないかなと思う


(2012.08.19)

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