Short Short「亡靈と真夜」

 一切静謐を誇る烏夜が眠る。醒めたすみれの花は秀麗の閃光を穿ち、まれびとを招く。合唱団のごと遍く展開さる精華の地平に、亡靈は月を抱えて来る。一瀉千里を現と化すあの詩絃の春は秘かに笑む雪の頬を撫ぜ、魅惑のアダージョを奏でて、星々の涙を想い出すのだ。
 世を儚むあの果蓏の思慮に不安は絶えたのに。


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